「今後の日本側の態度が重要だ」と牽制

 東京オリンピック・パラリンピックの開催が迫った中、韓国・文在寅(ムン・ジェイン)大統領の五輪開会式出席及び日韓首脳会談の有無について連日報じられている。大統領の任期が残り1年を切った中でのレガシー作りのためなどと取り沙汰されているが、仮に訪日が実現した場合、その狙いとは何なのか? 在韓ライター・羽田真代氏によるレポート。

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 菅義偉首相は8日の記者会見で「外交上、丁寧に対応することは当然のことだ」と文大統領が来日した場合の対応について言及した。しかし、その一方で「菅首相は各国の主要人物と面会する必要があるため、韓国を含め1人当たり15分程度になるかもしれない」という日本政府の見解も報じられている。これは、韓国政府が「訪日するからには1時間程度の正式会談と成果を求める」との見解に反しており、1時間の会談が設けられないのであれば文大統領の訪日は実現しない可能性がある。

 要するに、文政権は“五輪のイチ招待客”ではなく、首脳会談のために訪日した“国賓”として丁重に扱うよう要望しているわけだ。そして、韓国民への建前もあり、あくまでも日本政府から請われての訪日としたく、その姿勢は崩さないようである。

 さらに、大統領府の関係者は「韓国政府は韓日首脳会談を行う準備はあるが、開催されるなら成果がなければならない」「今後の日本側の態度が重要だ」と牽制しつつ、「分別があるのは日本ではなく韓国の方だ」と、勝手に高いハードルを設定している。何よりも、関係改善の打開策さえ提示しない韓国は日本にとって“招かれざる客”であるのは間違いない。

特別待遇にこだわり続けてきた

 ともあれ、ここまで訪日に固執するのは、実現すれば訴えたいテーマがあるからだ。予想される韓国の要求は「慰安婦問題」「徴用工問題」の解決。そして、「輸出管理措置の撤回」である。

 慰安婦問題や徴用工問題は今年になって下された原告側の請求却下判決や、韓国にある日本政府資産差し押さえが未だに実行されていないことからも、これ以上日本側に何かを求めることは不可能だという考え方が韓国政府内で強くなっている。韓国メディアの記者によると、

「そうですね。ですから、これらの問題に関してはある程度にとどめ、2019年7月に日本が取った輸出管理措置を撤回するよう求めることが予想されます。様々な問題が隠れ蓑となり輸出管理措置の実態はあまり表沙汰になっていませんが、韓国政府にとって喉に刺さった小骨のように嫌な存在なのです」

 日本政府は、韓国に対して安全保障上の友好国に与えている輸出管理の優遇措置を改めて各品目を輸出するたびに申請を求めることにし、半導体や軍需物資の製造などに使われる原材料を輸出する際の規制も強めている。

 上記の原材料とは、半導体の基板洗浄に使われる「フッ化水素」、同じく基板に塗る感光材である「レジスト」、そしてテレビやスマホの有機ELディスプレイなどに使う「フッ化ポリイミド」で、いずれも日本が高い世界シェアを誇る。

 サムスンやLGという韓国を代表する財閥企業もこれらなしには立ち行かず、輸出管理措置が開始されて以降、韓国は日本に対し再三この措置の撤回を要求してきた。もっとも実際は、正式な手順さえ踏めば今まで通り輸入できるのだが、あくまでも“ホワイト国(安全保障上の輸出管理において優遇される国)”という特別待遇にこだわり続けてきたのだ。

中国向けにフッ化水素を再輸出

 日本が韓国をホワイト国から除外した理由には(1)中国向けにフッ化水素を再輸出していた(許可の前提条件違反)、(2)不良品として返品輸出されたフッ化水素が行方不明になっている、(3)その他、大量の不正輸出事案が判明、(4)過去の不正輸出問題や国連安保理・北朝鮮制裁委報告書で南北共同連絡事務所に無届けで石油精製品を持ち込み、注意喚起を受けていたこと、などが挙げられる。尋常ならざる事態だ。

 これらの事案に対し、日本は韓国に対し何度も警告・改善を求め、意見交換会の開催も要請してきたが、それを韓国は無視し続けてきたわけだ。国際ルールに抵触する問題を日本としても看過できなかったのだ。

 今月1日、韓国の産業通商資源部は2年間で韓国の半導体部材などの生産能力が高まったと発表したが、韓国の取った対応策は海外に依存するものも多く、未だに全ての品目において純国産化は成し遂げられていない。これには膨大な資金と時間を要する上に、実現したからといって日本以上に高品質な部品を製造できるとも限らない。そのため、コストや労力を使わなくてすむ日本製品を使用することが韓国の懐事情的には優しい。

「日本の輸出管理措置は、慰安婦や徴用工問題で原告側勝訴の判決が下ったことへの対抗措置だと韓国では言われていますが、多少はそういう部分があったにせよ、基本的には別物です。隣国を“危険な国”と位置付けることは、当時の日本政府としても心苦しいところがあったと聞いています」

 と、先の記者。

「韓国側が輸出管理措置を撤回させたいことは理解できますが、国際的なルールの遵守、テロとの戦いという大きなテーマがある以上、日本がそう簡単にこれを撤回することは難しいでしょう。丁寧に地ならしもせずに首脳会談を要求するのは拙速と言う他ありません」

羽田真代(はだ・まよ)
同志社大学卒業後、日本企業にて4年間勤務。2014年に単身韓国・ソウルに渡り、日本と韓国の情勢について研究。韓国企業で勤務する傍ら、執筆活動を行っている。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月16日 掲載