世界は新型コロナの新たな変異株の出現に揺れている。

 世界保健機関(WHO)は11月26日、南アフリカで最初に報告された新型コロナの新たな変異株を「オミクロン」と命名し、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタなどと同じ「懸念される変異株(VOC)」に分類した。12月5日時点で日本を始め40カ国以上で感染例が見つかっている。

 オミクロン株はこれまでの変異株よりも感染力が高いとの観測結果が出ており、世界各国は感染対策の再強化に乗り出している。

 中でも日本の動きは際立っている。イスラエルに続き、11月30日から全世界からの外国人の新規入国を原則として禁止する措置を講じたのだ。

 世界の状況とは異なり、日本では幸いなことにデルタ株の感染は収束している。だがその原因がわかっていないことから、医療関係者の間には「このような状況はいつまでも続かない。呼吸器感染症が流行する冬場に第6波が発生し、再び医療崩壊が生じてしまう」との懸念があった。その矢先におきた「感染力が高い変異株の出現」。日本政府の強力な対策の背景には、危機感を抱いた医療関係者からの後押しがあった可能性がある。

欧米諸国のコロナへの認識

 日本の強硬な措置に対し、WHOは「疫学的に原則が理解困難だ」との異例の批判を行った。ウイルスは国籍を見るわけではなく、自国民か否かで判断するような対応は矛盾しているという理由だ。日本が採った措置は「オミクロン鎖国」と言っても過言ではない。

 こうした国際的な批判にもかかわらず、政府の措置に対する日本国内での評判はすこぶる良い。読売新聞が12月3〜5日に実施した世論調査によれば、全世界からの外国人の新規入国を停止したことを「評価する」が89%に達し、岸田内閣の支持率も62%と前回(11月1〜2日)から6ポイント上昇した。スピード感を持って対策を講じたことが功を奏した形だ。

 欧米諸国の対策はワクチンの追加接種がメインだ。日本のような厳しい水際対策を実施する国が少ない理由として、筆者は「新型コロナを脅威ととらえる認識」が影響しているのではないかと考えている。

 国際世論調査会社イプソスが28カ国を対象に毎月実施している「世界が懸念していること」の今年10月の調査によれば、「コロナ」が18カ月ぶりに1位から転落し、3位となった。ちなみに1位は貧困と社会的不平等、2位は失業だった。世界の関心が新型コロナそのものよりも、ウイルス禍により発生した経済・社会的な問題へと移っていることの現れではないかと思う。

 世界で最も新型コロナの犠牲者が出ている米国でも同様の傾向が見て取れる。

 米ニュースサイトのアクシオスなどが11月5日から8日にかけて国内の成人を対象にした調査によれば、パンデミック前の生活に戻ることが「自分の健康や幸福に及ぼすリスクは少ない」と考える回答者は38%、「リスクはない」と考える回答者は17%だった。全体の55%が「リスクはほぼない」と考えており、この数字は今年8月の40%から大きく上昇している。成人の約7割がワクチン接種を済ませたことが、通常の活動に戻る自信を与えていると言われている。

「コロナ前」に戻るのに日本は遅れる?

 日本のワクチン接種は当初こそ後れをとったものの、今やG7諸国で最も高い接種率となっている。しかし、感染者・死者数が桁違いに減り、人流を制限する国内措置が撤廃されたのにもかかわらず、なかなか経済活動は活性化しない。世間の目を気にしているゆえか、忘年会を実施する企業はほとんどないようだ。

 日本はパンデミック以降、死者数抑制のために多大な経済損失を受容してきたことが、仲田泰祐・東京大学准教授の分析で明らかになっている(12月3日付日本経済新聞)。

 それによれば、コロナ死者数を1人減少させるために日本は約20億円の経済的犠牲を払ったのに対し、米国は約1億円、英国は約0.5億円だ。また、日本国内でも地域により大きな違いがあり、東京都・大阪府では約5億円だが、鳥取・島根両県では500億円以上となっている。この違いには「定量化できないリスクへの態度」や「社会の同調圧力」など様々な要素が関係していると思われるが、オミクロン株への強固な水際対策は、これまでの日本の傾向を継承していると言っても過言ではない。このような状況が続く限り、日本は他国と比べてコロナ以前の生活に戻るのに時間がかかってしまうのではないだろうか。

ベビーブームに沸く米国

 今年の夏頃、「パンデミックがもたらす出生率の落ち込みで2021年の米国の人口は史上初めて減少する」との予測が出ていた。だが蓋をあけてみれば「ベビーブームに沸いている」という驚きの事実が伝わってきている。

 実際、バンク・オブ・アメリカが今年10月に実施した調査によると、米国で出生率が上昇しているという。子どもを持つことは非常に大きな決断が必要であり、明るい未来が待っているという確信がなければできることではない。日本から見ると米国の分断は日に日に深刻化しているとの印象が強い。たとえば、妊娠中絶禁止の是非を巡っても民主・共和党間の対立が激化している。このような状況にあっても、ミレニアル世代の「未来は自らの力で切り開く」という意識が「これから先はもっと良い日々がやっている」という希望を生み出しているのだ。

 一方、日本は米国に比べて社会は安定しているように思える。だが若者が将来に自信を持っているとは思えない。コロナ禍で傷ついた若者が希望を持てる社会にならなければ、感染者数が劇的に減少したとしても、「コロナを克服した」と言えないのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部