「こんなポンコツで戦えと命令されたなら、脱走する兵士が出るのも当然です」──軍事ジャーナリストは、そう言って呆れ返った。ウクライナとの戦争で戦車が枯渇しているロシア軍は、旧式戦車のT-62を引っ張り出してきた。担当記者が言う。

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「T-62は1950年代から設計が開始され、1961年に試作品が完成しました。朝鮮戦争(1950〜1953年)の後に開発がスタートし、アメリカがベトナム戦争に参戦(1964年)する前には完成したことになります。今、最新の戦車は『第3・5世代』という位置づけで、T-62は『第2世代』の戦車ですから、まさに“骨董品”と言っても過言ではありません」

 Forbes JAPAN(電子版)は10月29日、「ロシア軍、引っ張り出してきた旧式戦車『T-62』をほぼ無傷で戦場に放置」との記事を配信した。

「Forbesは『ウクライナの各地に無傷のT-62が放置されており、これをウクライナ軍が奪取している』と報じました。ロシアがソ連だった時代、ウクライナはT-62の製造や運用に携わっていました。ウクライナ軍が使うのは簡単ですが、あまりにも古すぎます。Forbesは『実際に戦場で使われるかは未知数』と報じています」(同・記者)

 この記事だが、Forbes本誌が作成したものを日本語に翻訳しており、「航空宇宙と防衛」を専門とする記者の署名も入っている。信憑性も専門性も非常に高い記事だが、肝心なことを詳述していないという。

「T-62がどれだけ古い戦車で、それを最前線に出撃させることがどれだけ異常か、もっと詳しく書いてもよかったかもしれません。軍事の専門家からすると、本当に唖然とするレベルなのだそうです」(同・記者)

絶対に勝てないT-62

 そこで軍事ジャーナリストに取材を依頼した。すると開口一番に飛びだしたのが、冒頭で紹介した「こんなポンコツで戦えと命令されたなら、脱走する兵士が出るのも当然です」という指摘だった。

「現在のウクライナ軍は、ロシア軍が戦線に投入した第2・5世代のT-72、第3世代のT-80を捕獲し、それを自軍の戦車として戦力化しています。専門用語では『鹵獲(ろかく)』と呼びます。先日、第3世代の最新型であるT-90Mを、ウクライナ軍が鹵獲したという報道もありました」

 デイリー新潮は10月9日、「ロシア兵は戦場から自転車でトンズラ…じつはロシアがウクライナの最大の武器支援国という真実」と題した記事を配信。オランダの軍事情報サイト「Oryx」が発表した、ロシア軍の損害について紹介した。

 10月5日現在、ロシア軍の戦車1280両のうち、734両が破壊、50両が損傷、54両が放置──そして、ウクライナ軍に鹵獲されたものは442両というから、いずれもとんでもない数字だ。

「ロシア軍は戦車が足りなくなっている可能性が高く、そのため旧式のT-62を投入しているのでしょう。しかし、T-62ほど古い戦車だと、ウクライナ軍が鹵獲したロシア軍の戦車と戦っても絶対に勝てません」(同・軍事ジャーナリスト)

経済制裁の効果

 T-62をT-72やT-80と比較すると、戦車の走行スピードも、砲弾が届く距離も、命中精度も、圧倒的な差があるという。

「T-62が戦場に出てきたと聞いて、大半の軍事専門家が最初に感じたのは、『まだ残っていたのか!?』という驚きだったはずです。その後に『あんな古い戦車を実戦に使うつもりなのか……』と呆れたでしょう。T-72やT-80の攻撃力を考えると、T-62の防御力など張りぼて同然です」(同・軍事ジャーナリスト)

 反攻するウクライナ軍が迫ってくる。どうしてもT-62を使う必要がある──このように切羽詰まった状況なら、「ダグイン(dug-in)」で戦うしか方法がないという。

「地面に戦車を埋めてしまい、砲塔だけを出して敵を攻撃するのがダグインです。古い戦車で戦っても、スピードや砲弾の射程距離を考えると勝ち目はありません。そこでトーチカに大砲を設置するような役割を担わせるわけです」(同・軍事ジャーナリスト)

 だが、前出のForbesの記事によると、ロシア軍はT-62を普通に戦車として出撃させているようだ。戦車兵が乗り捨てて脱走するのは当然だろう。

「ロシア軍は戦車を鹵獲されてしまうと、代わりを補充することが不可能なのだと考えられます。西側諸国の経済制裁が効果を発揮しているのか、もはやロシア国内で精密機械が作れないということでしょう。その結果、新しい戦車の製造も難しいのではないでしょうか」(同・軍事ジャーナリスト)

デイリー新潮編集部