ウクライナ侵攻後の愛国キャンペーンで…

 今、ロシアでは、ある歴史上の人物がブームになっているという。その人物とは、リヒャルト・ゾルゲ。戦前の東京で暗躍した伝説的なソ連のスパイである。11月7日、東京・港区のロシア大使館で行われたゾルゲの「追悼イベント」で、ミハイル・ガルージン駐日大使(62)が語った内容とは――。

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 ゾルゲは、ドイツ軍のソ連侵攻など、重大情報を事前につかんでモスクワに報告したが、後に日本の特高警察に逮捕され死刑となった。

 日本では犯罪者だが、ロシア人にとっては今も昔も英雄。プーチン大統領も、ゾルゲに憧れてKGBに就職したという。ウクライナ侵攻後の愛国キャンペーンで、ますます注目が集まるのも当然なのだ。

「モルグロフ外務次官の後任」といううわさも

 そのゾルゲの命日である11月7日、東京・港区のロシア大使館で「追悼イベント」と銘打ち、彼の生涯を描いたドラマの上映会が行われた。舞台あいさつに登場したのは、今月中の離任が報じられたガルージン大使だ。父親も外交官で、子供時代を日本で過ごし、学生時代は創価大学に留学。ロシアきっての日本通とも呼ばれる人物である。

 ウクライナ侵攻後も積極的に日本のメディアに登場して、滔々と「ロシアの正義」を訴え続けていた。この日のイベントでも、そのスタンスは変わるはずもなく、

「今、世界中で真実が作り変えられています。善人を悪人、悪人を英雄に見せかける動きが強まっている」

 と流暢な日本語で語り出す。

「ゾルゲさんはナチスと戦ったのに、ウクライナではナチス思想が台頭している。無防備な民間人や捕虜への虐待、爆撃など、キエフ政権のやり方はナチスそのもの――」

 ナチスを持ち出して、ウクライナの非を訴えるあたりは、立場上当然ながらプーチンとまったく同じ。その論理は、イベントにわざわざ来た人はさておき、日本ではほとんど共感を得ないだろうが、そんなことは気にならないのだろう。

 ガルージン大使の身分は離任後、どうなるのか。

「中国大使に転出したモルグロフ外務次官の後任か、とのうわさもあります」(日露外交筋)

 プーチンの忠実なる僕(しもべ)として日本での職務を全うした結果、本国で大出世を遂げるかもしれないという。

撮影・福田正紀

「週刊新潮」2022年11月17日号 掲載