今年3月下旬、旭川市の公園でひとりの少女が凍った姿で発見された。その少女とは、2月13日18時すぎに自宅を出たきり行方不明になっていた市内に住む中学2年生・広瀬爽彩さん(14)。3時間も命が持たないと思われる氷点下17℃の凍てつくような寒さの中、軽装のまま自宅を後にした爽彩さんは、その失踪の直前、友人たちにLINEで自殺をほのめかしていたという。なぜ彼女はこんな残酷な最期をむかえなければならなかったのか――その真実に迫ろうとする『娘の遺体は凍っていた 旭川女子中学生イジメ凍死事件』(文春オンライン特集班/文藝春秋)にいま注目が集まっている。

 この事件の報道は文春オンラインによる今年の4月15日の第一報が初だったため、事件をその記事で知ったという方は多いかもしれない。実は失踪から遺体発見について報じるメディアは地元でもなく、文春が事件取材をはじめたのは「彼女の死を調べてほしい」と送られてきた支援者による公式Twitterへの一通のダイレクトメッセージだったという。背景に「学校でのイジメ」があるとするそのメッセージによって、取材班は遺族に取材許可を取り、関係者が小中学生という事情も考慮して慎重に取材を進めたのだった。

 文春オンラインが取材しなければ闇に葬られてしまったかもしれないこの事件は、あまりにもショッキングだ。小学校では明るかった爽彩さんは、2019年4月にY中学に入学してからほどなくして警察が動くほどの凄惨なイジメを受け続ける。わいせつ画像を強要され、公園のトイレで複数人に取り囲まれ(中には小学生もいた)自慰行為をさせられ、爽彩さんは「死にたい」と口にするようになる。異変に気が付いた母親は学校に何度も相談するも「イジメはない」と取り合ってもらえず、事態はエスカレート。6月には10人近くに囲まれた挙句、爽彩さんが4メートルの高さの土手を降りて川へ飛び込むという事件が起こり、警察が出動することとなった。爽彩さんは入院、一方で加害者たちへの処分は「厳重注意」のみで、学校側は調査の結果「イジメはなかった」とした。その後、爽彩さんは転校したがPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し1年以上不登校に。そして2021年2月に失踪し、遺体で発見されたのだった――。

 本書は文春オンラインで「旭川14歳少女イジメ凍死事件」として配信された22本の記事に加筆修正を加えて再構成し、さらに爽彩さんの母親による娘と過ごした14年の日々を綴った手記をあわせて編まれた一冊。事件の流れだけでなく、加害者たちへの取材(未成年なので保護者同伴あるいは保護者が答えるケースもある)、中学校の対応の詳細、当時の校長へのインタビュー、大荒れとなった保護者説明会の全容、第三者委員会のあり方、拡散するデマによる二次被害などさまざまな角度で取材を重ね事実を追求していく。文春というとセンセーショナルなイメージを持ちがちかもしれないが、根気よく真実に迫ろうとする姿勢はさすがだ。おそらく不条理に対する「怒り」が取材の原動力になったのだろう。それほど酷い話であり、こんな重大なことが「なかったこと」にされかねないこの国の状況に戦慄し、深く考えさせられる。

 記事発表によって大きな注目を集めたこの事件は、「イジメはなかった」で済ませようとしていたY中学に第三者委員会による再調査が実施される流れへとつながった。まだ結論は出ていないが、真相が一日も早く解明され、爽彩さんの魂にやすらぎがおとずれるのを祈るばかりだ。

文=荒井理恵