団塊世代を狙い、日本でも「テストステロン(男性ホルモン)」の低下に伴う心身の不調に対し、ホルモン補充療法(TRT)が注目され始めた。ところが昨年来、TRT先進国の米国から「TRTには期待するほどの効果はない」という複数の試験結果が報告されている。

 通称「T試験」は、テストステロン補充群と非補充群で(1)運動能力、(2)性機能、(3)活力、(4)記憶・認知機能、(5)ヘモグロビン濃度(加齢に伴い低下し貧血を誘発)、(6)骨密度、(7)心血管の動脈硬化度(コレステロールだまり=プラークの厚みで計測)を比較検討した七つの試験を指す。

 7試験の対象者は、血清テストステロン値が275ng/dL未満で、性機能低下や心身の不調を訴える65歳以上の男性、およそ800人。

 19〜40歳の若年期レベルのテストステロン濃度を回復するため、1%濃度のテストステロン・ジェルを補充する群とプラセボ補充群に割り振られ、それぞれ1年間治療を受けた。

 まず昨年2月に報告された(1)〜(3)の結果だが、補充群では性活動が有意に改善したものの、12カ月の間に効果は低下。また、勃起機能も若干の改善を認めたが、既存の勃起不全改善薬には劣った。また運動能力や活力は多少改善したが、予想ほどではなかった。

 残る(4)〜(7)は先日、結果が報告されている。こちらも予想に反して補充群で心血管のプラークの厚みが増加したほか、認知機能は非補充群と比べ、良くもなければ悪くもない、という何とも期待外れな結末が示された。一方、ヘモグロビン濃度は改善、骨密度は非補充群より良好という結果だった。

 米国ではここ数年、製薬企業の宣伝攻勢で安易なTRTが横行。関連学会や行政が心血管疾患へのリスクを理由に「ホルモン低下を伴う明らかな病気以外での使用」にたびたび警告を出している。

 男性は女性のように「更年期」のはっきりした線引きがない。それだけに加齢による体力・気力の減退や性機能の衰えが気にかかる。とはいえT試験の結果からすれば、TRTに費用と時間をかける意味があるかどうかは疑問だ。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)