『週刊ダイヤモンド』11月21日号の第一特集は「銀行再編の黒幕」です。菅義偉首相が地方銀行の再編について言及し、金融関係者はその本気度を必死に探り始めています。菅政権に集った金融人脈を解剖することで、“菅再編”のキープレーヤーを浮き彫りにしました。

“クセ”が強過ぎる役者たち
再編の鍵握るスガノミクス金融人脈

「努力しない人は助けないらしい」「既得権益を得ている企業や団体でも、問題があれば容赦なく切る姿を見た」「脇が甘く失言する政治家は嫌いだが、能力が長けていれば重用されるようだ」──。

 菅義偉首相はどんな人なのか。首相交代以降、あらゆる金融関係者がその人物像を探り、思い思いの言葉で輪郭を浮かび上がらせた。特に皆が真意を測りたいのは、菅氏の地方銀行に対する「再編も一つの選択肢」発言の本気度だろう。

 ただ、地銀関係者が警戒すべきなのは、菅氏本人ではないかもしれない。

 菅氏の周りには今、地銀再編劇の主役にも脇役にもなりそうな“クセ”のある役者が集いつつある。その顔触れを見ていこう。

「菅首相の金融ブレーン」の最右翼として熱い視線を集めるのが、竹中平蔵・慶應義塾大学名誉教授だ。

 竹中氏と菅氏は、2005年からの第3次小泉改造内閣の総務大臣と副大臣として、共に郵政民営化に着手した。また直後の第1次安倍内閣で、菅総務大臣(当時)の下でふるさと納税の制度設計に携わった高橋洋一氏は、菅政権で内閣官房参与に指名されている。

 竹中氏は現在、政府直轄の「成長戦略会議」のメンバーに名を連ね、中小企業の淘汰推奨派であるデービッド・アトキンソン氏と一緒に新政権の航路を決めている。

 竹中氏が社外取締役を務める、インターネット金融大手のSBIホールディングス(HD)の北尾吉孝社長は、言うまでもなく再編劇の主役の一人だ。

 昨年来、「第4のメガバンク構想」と銘打って経営不振の中小地銀に続々と出資。北尾氏は、会食の場や電話で菅氏と議論を交わしたことを隠さずアピールするが、まさに“わが意を得たり”というところだろう。

 SBIHDには今、地銀支援に携わる地方創生パートナーズの長谷川靖事務局長をはじめ、金融庁OBが集結している。「金融庁がサポートしているわけではない」(金融庁幹部)というが、後方支援をしているのではないかと地銀側は警戒する。

金融庁に集う地銀改革“三銃士”
地銀協会長は菅氏と地元つながり

 さて当の金融庁でいえば、今年長官に就任した氷見野良三氏は、国際的な金融規制の会議で日本人初の事務局長を務めるなど生粋の国際派だ。

 経験が不足する地銀の領域については、大手地銀を中心に頭取とのオンラインミーティングを重ねるのみならず、第二地銀など中小地銀の頭取を金融庁に招いて実態把握に努めている。

 氷見野氏が目指す姿は、“脱・説教庁”だ。地銀に対する説教をやめるということではない。頭取が一堂に会する場で、統一したメッセージを投げ掛けることをやめる代わりに、100行以上ある地銀それぞれへの個別指導が目標だ。残念ながら、監督の姿勢が「甘くはならない」(別の金融庁幹部)。

 実際の地銀との対話の場に駆り出される金融庁幹部が、監督局にいる経験豊富な“三銃士”だ。

 1人目が石田晋也参事官。以前に地銀を監督する銀行第二課の課長の経験があり、昨年から地銀の総監督役である現職に就く。2人目が、現任の銀行第二課長である新発田龍史氏。3人目が広島銀行出身で、地銀支援の複数部署を兼任する日下智晴氏だ。

 菅氏と金融庁といえば、菅氏は内閣官房長官時代、当時の森信親長官との間に太いパイプがあったとされる。ただ、森氏を知る複数の金融筋が「首相になってからは、菅さんと連絡を取っている様子はない」と口をそろえる通り、今は距離感があるようだ。

 むしろ氷見野氏こそ、地銀改革などに対する金融庁の主張を押し通す上で、菅氏との関係性が問われるだろう。

 今年、業績不振の地銀の統合に限り独占禁止法の適用を除外する特例法案が可決・成立した。その独禁法をつかさどる公正取引委員会の委員長に就任した古谷一之氏も、内閣官房において菅氏とは上司と部下の関係だった菅人脈だ。

 全国地方銀行協会会長という業界の顔役を務め、同時に地元横浜で菅氏とつながりを持つ大矢恭好・横浜銀行頭取は、「再編だけが手段ではない」と訴える。

 だが、再編以外の手段を見いだして、劇的な経営改革を実現している地銀は数少ない。いまだかつてない再編包囲網の中、次なる好手を放てるか否かが試されている。