鉄不足と聞くとすぐに「貧血」が思い浮かぶが、実は脳の発達やセロトニンなど神経伝達物質の合成にも深く関わっている。

 特に、脳組織が爆発的に成長する新生児〜乳幼児期と、高次の認知機能が発達する思春期の脳には鉄分が不可欠だ。

 米フィラデルフィア小児病院で行われている神経発達に関する疫学調査では、同院を受診した8〜26歳までの男女922人(男性436人、女性486人)を対象に、MRI(核磁気共鳴)画像を使って脳の鉄濃度を断続的に測定。

 意思決定や学習、記憶、また身体活動などさまざまな場面で働く「大脳基底核」の発達と脳組織内の鉄濃度の関係を調べた。

 その結果、大脳基底核を構成する全ての領域で、脳の発達に応じて鉄濃度が増加したほか、情報入力系を担当する「被殻(ひかく)」の鉄不足は、推論や空間認識など認知機能の低下と関係することが示された。

 先行研究では、大脳基底核の鉄濃度は20代半ばまでに急速に増加し、その後落ち着くことがわかっている。思春期〜若年期の鉄分摂取が、将来の認知機能に影響する可能性があるわけだ。

 また、脳が鉄分をむさぼるこの時期は、鉄の供給が需要に追いつかない可能性がある。若い女性に鉄欠乏性貧血が頻発する背景には、月経のほかにこうした条件も影響しているのだろう。

 もし、思春期の子供に身体の異常なだるさや朝起きられない、集中力が続かないなど「起立性調節障害」や、抑うつ症状があり、学習に支障がでているなら、鉄不足が隠れていないか「血清フェリチン値」を調べてもらうといい。

 血清フェリチンは、肝臓や脾臓に蓄えられている「貯蔵鉄」を反映する検査項目。一般的な血液検査には入っていないので「血清フェリチン値を測ってほしい」と言う必要がある。鉄不足に陥りやすい思春期〜20代なら50ng/mL以上は欲しいところだ。

 脳を養うには食事も大切だ。肉や魚介類、大豆製品など良質のたんぱく質と一緒にビタミンCを摂ろう。鉄分の吸収率が上がる。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)