売上高数百億円から数千億円規模のアパレル企業の買収が盛んになってきた。相も変わらず、こうした事実をしらない評論家やメディアは、メタバースだ、AIだなどと、半死状態のアパレル企業を、いわば、プロのアスリートに変えることが産業界を救うことだと勘違いし、また、産業政策などをまともに学んでいない素人たちは、「さあ、本土決戦だ!」と、標語のようなものを政策だと思っている始末だ。産業政策というのは、税金を変える、法律を変えることで、今までの状態を「ありたい状態」にすることである。

私は、デジタルSPAで「人権デューデリジェンスと環境デューデリジェンス、ビジネスプロトコルの三つを遵守した工場に対して優遇税制を適応せよ」と5年も前から提唱しているが、国の縦割り組織の前に全ては水の泡となってきた。人権デューデリは昨年の7月に採択されたようだが、インセンティブのないサプライチェーンは、完全無視をされるだろう。

このように、我々の血税が冗談のような素人集団のお遊びに消え、円安による「日本買い」はますます加速しているにも関わらず、その事実を知らないという有様である。さて、今日は、最近アパレル業界に入るプロ経営者が増えてきたことを受け、アパレルビジネスの成功要因の解説をしていきたい。

gradyreese/istock
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①「売上は、オペレーション改善で理論上30%向上する」

まずは、売上だ。アパレルビジネスに詳しくない人間は、仕入れた在庫が、ほぼ全て売れるグロサリー事業とファッションビジネスを同じようなものと捉え、勘違いしている。当たり前だが、アパレルビジネスというのは、ヒット商品がでれば爆発的に売れるし、ヒットしなければ在庫の山となる。素人は、「卓越した企画力をもったクリエイターを使えば、売上は上がる」という。
確かに、過去を見ても、三陽商会のバーバリーは、同社の人間の嗅覚とリーダーシップによって爆発的な成功を収めたのは事実だ。しかし、そんな昔話はデジタル時代の今は、なんの説得力も無い。実際、世界でトップを争っている企業に「大御所」の感覚経営はない。
トップライン(売上)は、売れる商品を積み増すことで、機会ロスを埋めれば理論上30%善する。ただし、ZARAは欠品より客単価を優先し、お客様にさらなる新商品を提案して機会ロスを埋めている。店頭調査を行えば、私の言っていることが事実だということが分かるだろう。

では、「売れる商品」をいかに積みますか。これは、アパレルが素材を備蓄し、トレンドコードをAI を使って収集し、ものづくりにいかすのだ。

日本で、生産リードタイムといえば、素材も含めて一から探し始め、作り増すため2ヶ月もかかる。一方オンワード樫山の「スマートテイラー」は、付属品や生地をすべて大連にストックし、裁断、縫製、仕上げを数日で完成させ、最短1週間で顧客の元に納品する。
前者のように、古いシステムで「商品コード」でヒット商品を追いかけるから話がおかしくなる。
システムを改修し、トレンドコードを独自につくり、AIを使って入店先であるデベロッパーに設置(店内設置は移動時に外す必要が出る)、彼らから通行量調査データをもらいながらトレンドを科学的に分析する。これは、ZARAがやっている方法だ。今の技術を使えば何の問題も無い。最悪なのは、このAIによるトレンド解析を個社のマーチャンダイジングに組み込もうとすることだ。

  • AI (トレンド解析)をデベロッパーに設置させ、エリア別の通行量分析を行う
  • アパレルは、素材と生産ラインを備蓄し、縫製リードタイムを10日程度で回す

これで、売上は逸失売上の半分は獲得できる。大御所に頼む前に、まずはデータベースマーケティングの本質をしっかりと理解されたい

コストは、固定費(販管費)と変動費(商社・工場)にわけて考えよ

先日、大手アパレルCEOと食事をした時のこと。彼は、「売上高販管費比率が40%台でなければ利益はでない」といっていた。確かに、私が分析した結果、世界のSPAアパレルの売上高販管費費率は40%台で、日本のほとんどのアパレルは50%台である。余談ながら、ユニクロは30%であり、日本の一般企業と比較して20ポイント以上の差を付けており、このコスト構造を変えなければ、ビジネスに勝てるはずもない。

また、販管費のもっとも大きな割合を占めているのは、地代・家賃である。地代・家賃を下げるため、一つひとつ交渉するなどというのは現実的ではない。例えば、百貨店でいえば国内に190店もあり、さらに、プロパー、セール、最低保証など、極めて複雑なルールがあり、また、そのルールもコロコロ変わる。私は過去、これらをマスターデータ化しようと試みたが、全く無駄だった。
では、販管費を下げるための、地代・家賃を下げる方法は何か。

それは、EC化率を上げることだ。しかも、自社ECでなければならないことは、説明は不要だろう。
他社ECであれば、百貨店がZOZOに変わっただけで、30%も取られれば何のコスト削減にもならない。ECプラットフォーマーは、売上の20-30%のマージンをアパレルからもらい、また、顧客の動態的買い回りデータ収集も全て自社化している。成熟経済下では、顧客を囲い込むことが重要で、LTV(顧客生涯価値)を上げることが重要なのだ。

それでは、EC化率を上げるためにはどうすべきか。
多くの人が、「それはO2Oだ」と思い違いをしているようだが、だからEC比率は上がらない。EC化率を上げるもっとも世界標準の考え方は、SNSライブコマースである。今、企業がSNSに多大な投資を行い、もはや長尺でテレビドラマのようなものまで増えてきた。

ライブコマースに関しては、改めていずれ紙面を割いて説明するが、簡単に説明したい。GAFAMと呼ばれる一階層プラットフォーマーの上に、例えば、ユニクロのようなベーシック衣料、ユニフォーム、スポーツ衣料などのプラットフォーム、または、マッシュや東京ベースなど、今、日本のファッションを牽引しているファッションプラットフォームをおく。そして、それらは、価格によって松竹梅にわかれて、二階層プラットフォームをつくるのだ。これが、私のいうデジタルSPA戦略である。

デジタルSPA概念図
図表1デジタルSPA概念図
デジタルSPAのシステムアーキテクチャー
図表2デジタルSPAのシステムアーキテクチャー

例えば、今、売上絶好超のマッシュスタイルホールディングスの基幹ブランド「Snidel」は、全国に30店舗程度しかない。ユナイテッドアローズも30店舗程度だ。
今、日本の店舗の30%は赤字といわれており、これら赤字店は早急に閉鎖。売上を落とさず、自社EC比率をあげると同時に、感度の高い場所に上限を40店舗程度にして出店する。都心部は洋服を買える店、郊外は「売らない店舗」とし、ルーラルエリアにお住まいの方にはVRゴーグルを使って、バーチャル店舗でお買い物をさせる戦略をとるべきだ。
VRと聞くと、メタバースをとりあげ、「シャネルがやっているから」と、何を間違えたのかゲームでアバターに「勇者の剣」を買わせるがごとくアバターにアパレルを販売しようとする人がいる。しかし、自分のリアルな生活さえ困っているのがニッポンの消費者だ。アバターの服など買うはずがない。

バーチャル店舗での着替えは、AR (拡張現実)をつかって、自分のスタイルにフィットする洋服を組み合わせる。今、AppleiPhoneには「メジャー」というアプリがはいっており、ARで十分着替えを楽しむことが可能だ。つまり、VRで世界観を醸成し、ARで服を買う。このような流れで、仮想現実を使うを使うことが、最も自然だ。こうすれば、30店舗程度のブランド群でも売上1000億円を超える企業体ができあがり、コストは劇的に下がる。

 

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③商社と工場をこれ以上いじめてもなんのメリットもない

今商社は、繊維、アパレル事業からの撤退を進めている。アパレル企業はよく考えてもらいたい。商社を外すのは賛成だが、もし商社がいなくなったとき、あなたたちは単独で事業ができるのか、アパレル連合をつくることができるのか、ということだ。
私は、商社には流通から出て行ってもらい、むしろ、アパレルの直貿化を助けてもらう。また、商社は、PLMのクラウドオーナーになってもらい、数千、数万の素材、縫製工場、企画工場を結合する「デジタルハブ」になってもらい、極度にフラグメントした産業構造を効率よくまとめ上げてもらいたい。いわゆる、私が封印した「デジタルSPA」の実践だ。

私は、昨年の冬、経済産業省に幾度もよばれ、この「デジタルSPA」について概念を説明した。彼らは、「予算がない」といって私を外し、「あとは自分でやる」と言うがどうなるだろうか。
この「デジタルSPA」は、自動車産業やパソコン産業など、アセンブリ産業に造形の深い人間であれば、一発でピンとくる。ドイツでは、フォルクスワーゲンが、PLMを活用し、数万という部品メーカの組み立てを最適化している。いわゆる「インダストリ4.0」だ。今、バングラデッシュの次を探しているバブル世代の管理職にはどいてもらうしかない。もはや、そのような競争をする状態ではないのだ。

 

多くのバブル世代管理職は、バリューチェーンを“リニア”(一直線)にとらえ、「コストを上から叩けば、ドミノ倒しのように下がる」という発想しか持っていない。彼らは、アパレルビジネスの金の流れや事業構造を全く理解していないのだ。もし理解できないなら、理解できるコンサルタントを使うべきだ。米国では、コンサルタントの活用が企業の競争優位を決め、67日の日経新聞では、もはや産業政策までも国は「コンサル頼み」になっていると報じている。コンサルを使うことはもはや恥ではない。常識なのだ。例えば、100億円のブランドがPLM導入から得られる単体の経済メリットは、わずか1500万円程度だ(下図参照)。しかし、工場、商社、アパレル、小売といった、バリューチェーン全体で言えば、1000億円規模のアパレルで20億円近い経済メリットが期待できる。こんな試算は、何年も前に終わっているのだ。単体で考え、我田引水型のシステム導入しかやらないから、100億円規模の会社で1500万円、1000億円規模の会社だと1億5000万円程度の効果しか得られないのだ。

図表3デジタルSPAによる理論上生産性向上値
図表3デジタルSPAによる理論上生産性向上値

おそらく、これが最後のチャンスだろう。これまで紹介した中国シーインやH&Mなどの戦略は、過去の私の論考を読んでいただきたいが、このままの日本企業のあり方では、勝算はないことはあきらかだ。次週以降、デジタルD2C、企業買収、中国市場進出など、経営の新しいアジェンダについて論じたい。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

著者:河合 拓