資本市場が荒れ模様です。世界的に、金利上昇と株安が続き、一部の通貨の下落が目立ちはじめました。
インフレを沈静化するために金融引き締めが強まっていることで金利が上がっていますが、これが株式の投資魅力を減衰させています。しかも長引く金融引き締めが企業業績を陰らせることになりかねません。ウクライナ情勢の膠着も言うまでもなくマイナスです。筆者はこの秋から冬にかけて資本市場の動揺がさらに強まると警戒しています。
そこで今回は、昨今の荒れ気味の資本市場において企業価値を高めている好事例としてジョイフル本田に注目し、その要因と展望を解説します。

ジョイフルホンダ

大手ホームセンターの中で突出する
ジョイフル本田の株価上昇

 海外情勢が風雲急を告げるといっても、日本の小売企業の多くは国内オペレーションがメーンであり、世界の資本市場の影響は薄いはずでしょう。実際、直近半年(2022年9月30日起点で)株価が堅調に上昇している小売企業も数多くあります。例えばパルグループホールディングス、高島屋はこの半年で+50%前後株価が上昇しています。

 このような好調組のなかで、いま筆者が注目しているのが、ジョイフル本田です。同社の株価は直近半年で+16%、過去一年でも+15%上昇しています。

 ジョイフル本田に注目するポイントは二つあります。

 第一に、大手ホームセンターのなかで最も株価が上昇している点です。過去半年の株価推移を見ると、DCMホールディングスが+9%、コメリは+4%、コーナン商事▲5%、アークランズ▲6%という推移でした。ジョイフル本田の株価パフォーマンスが突出しています。

ジョイフル本田の株価は競合よりも高評価

 第二に、株式時価総額大手のホームセンター5社のなかで、株価が解散価値の目安である一株純資産額を上回っているのはジョイフル本田だけである点です。

 ジョイフル本田の株価はその一株純資産額と同水準ですが、DCMホールディングスの株価はその一株純資産額の0.72倍、コメリは0.63倍、コーナン商事は0.75倍、そしてアークランズは0.61倍にとどまっています。

 株価が一株純資産額を下回っている状況とは、株主から預かっている純資産(株主資本)を経営が十分に活用できておらず、期待されるリターンを創出できていないことを意味します。投資家が新たに株式を買って株主になり、その投資に付随するリスクに見合ったリターンをあげようとするとき、一株あたり純資産額で株に投資をしても十分なリターンを挙げられません。より低い価格でなければ株式の買い手がいなくなるのです。

 株価が一株純資産額を下回っている状況を経営が放置する場合、資本市場からよりよい経営者への交代という圧力がかかったり、あるいは究極的には企業を解散し現金として純資産を株主に配当し、株主はその現金をもってより経営効率のよい事業・企業へ投資を行う流れが生まれます。

 このように考えると、ホームセンター大手の中でなぜジョイフル本田だけが他社よりも高評価を受けているのか気になってくるのではないでしょうか。そこで今回はこの点について筆者なりの推察をしたいと思います。

ジョイフル本田、高評価3つの背景

 筆者は次の3点が高評価につながったとみています。

 第一に、2022年5月に発表された中期経営計画が経営課題を的確に捉えたものだった点。

 第二に、8月に実施した自社株買いが、時宜を得ていて、株式の需給を引き締めている点。

 第三に、資本市場の評価に目配りがかかせないような株主構成である点。

 ひとつひとつ見ていきましょう。

要因1 的確な新中期経営計画

ジョイフル本田は2022年5月に新しい中期経営計画を発表していますが、これが同社の経営課題に的確な内容だと筆者は考えます。
 筆者が見る同社の財務的な経営課題は、同社の総資産経常利益率(直近通期8.3%)が同業他社比トップ水準にあるにもかかわらず、それを自己資本当期純利益(ROE)の圧倒的高さに結びつけられていないことにあります。同社のROEは直近通期では9.7%と高水準ですが、(決算月はずれますが)アークランズとコーナン商事の後塵を拝しています。

 言いかえれば「保有する資産で効率よく稼いでいるが、自己資本が厚く借入依存度が低いために自己資本当期純利益が最大化されていない。限られた数の大型店舗に依存する事業構造のため、自己資本を手厚くしたくなる気持ちはわかるが、店舗数を着実に増やして一店舗あたりのリスクを縮小すれば、規模拡大とリスク低下を両立できるはずだ。負債を適切に活用し、成長に資源を投下するべきではないのか」ということになるでしょう。

 そこで同社の新しい中期経営計画では、3年間で約30%の増収を目指す、かつROEの水準は現状維持する、株主資本配当率をこれまでの2.0%から2.5%に引き上げ累進配当を行う(内部留保の蓄積を抑制する)、適宜自社株買いを行うというコミットをしました。

 これは成長、資本効率双方へのコミットであり、先に述べた同社の課題に呼応した回答です。そのためには新規出店等で投資効果を着実にあげることが必須になりますが、さらに、当座の成長戦略において過剰とみなされる株主資本については配当ないし自社株買いで株主に還元する、一歩踏み込んだコミットをしていると思います。

 ちなみに今春コメリも中期経営計画を発表しています。こちらは売上成長目標とROE、株主還元の強化を謳っており、投資計画の明細も示され、ジョイフル本田と共通点も多い内容です。

 ただし、ジョイフル本田の計画では(タイミングとして後出しではありますが)、キャッシュフローの計画を明示しています。キャッシュインの金額、キャッシュアウトの金額とその使途が具体的に示されており、成長と資本効率双方へのコミットをフロー面からもわかりやすく表現しています。(コメリの資料からもキャッシュフロー計画の青写真を外部者が作成できることはいうまでもありませんが、あらかじめキャッシュフロー計画を示してもらう方が助かります)

 職業柄、さまざまな業種の企業の中期計画を吟味していますが、BS・PLのKPIに加えてキャッシュフロー計画を示すことで株主の理解を得るというのが最近のトレンドです。ジョイフル本田の手抜かりのなさを感じます。

要因2 時宜を得た自社株買い

 しかしこの中期計画発表後、株価に目立った反応はありませんでした。一株純資産に対して筆者概算で5%程度のディスカウントの状況が続きました。

 そこで、中期計画発表の1ヶ月後、取締役会は自社株買いを決議しましたが、8月3日の通期決算発表までまったく買付が進みませんでした。株価の方も横ばいに終始しました。

 株価の膠着状況をうけ、次に経営陣は通期決算の発表において増配を決め、さらにいわゆるコミットメント型自己株式取得を実施しました。2022年6月末の一株純資産額1751円を約10%下回る1561円で、まず25億円相当の自社株を買付けたのです。

 この結果、中期計画で示された資本効率に対する経営の明確な意思、一株純資産額よりも低い株価を放置させないというメッセージが伝わる、効果的なアナウンスメントになったと思います。株価は、このあとじり高になっています。
 
 この自社株買いの実質的な相手は野村證券グループ(以下、野村證券)になっているようです。野村證券はこの取引にあたりジョイフル本田の株主から株を借りているため、この株券を返済する立場にあります。そこで野村證券は株式市場等からジョイフル本田株を一定数まで買い進めているはずで、これが、足下までの株式需給にプラスの作用をしているはずです。

要因3 株主構成の特殊性

 同社が資本市場からの評価を重視していることは以上の経緯でお感じいただいたと思います。

 ではどうしてそうなのでしょうか。

 これは上場とその後しばらくファンドが筆頭株主であったこと、ファンドが抜けた後に株主保有が分散し特定株比率が38.7%と同業他社比低いこと、しかしながらアークランズが6.3%保有する大株主であることが関係していると思います。

 LIXILビバを買収し業界再編の一翼を担っているアークランズの目があることで、経営に緊張感が生まれていることは想像に難くありません。

 一方、そうはいっても特定の大株主がいないため、既存株主・潜在株主の双方に対して、企業価値最大化のための最善策を常に示すことが経営に求められていることも、一歩踏み込んだ財務戦略をとらせていると思います。

荒れ模様の資本市場で
ジョイフル本田から学ぶべき点とは?

 実はこの原稿を作成する最中、9月29日にDCMホールディングスが中間決算を発表しました。この際、通期業績見通しは据え置いていますが、通期配当の引き上げと自社株買いを発表し、株価は翌日+10%上昇しました。現行の中期経営計画のKPIである配当性向30%を増配決定でしっかり実現する姿勢と、自社株買いの規模(株式時価総額の5%弱)が好感されていると思います。

 荒れ模様の資本市場のなかで株価が急落した場合、自社株買いや増配を発表する企業が増えていきそうです。その際、成長戦略へのコミットと資本効率へのコミットを両立するメッセージをキャッシュフロー計画とあわせて提示するとその効果が高いと、ジョイフル本田のケースが語っているように筆者は思います。
 
 ジョイフル本田の場合、自社株買いによる株式の需給面での効果はいずれなくなります。株高を維持するには、今までに増して、着実な出店・既存店の強化・利益率の確保という事業面での成果をしっかりと示すことが期待されます。他社の増配・自社株買いの”質”とあわせてこれからしっかりと見守りたいです。

 資本市場も気掛かりですが、10月といえば台風シーズン。年々、自然災害のリスクが高まっています。みなさまが無事にお過ごしになることをお祈りいたします。

著者:椎名則夫(アナリスト)