ロードサイドやショッピングモール、駅ビル……ご飯時の回転寿司チェーンの店舗はどこも行列が絶えない。整理券を渡され、1時間以上待つケースもざらにある。最近は、ネット予約できる店舗も増えているが、予約システムに投資するほどに混雑が激しいのだろう。
そんな人気の回転寿司チェーンが揺れている。「おとり広告」問題に始まり、次は値上げだ。本稿では、回転寿司チェーンが抱える本質的な課題と今後の方向性について考えてみたい。

スシローおとり広告問題の顛末

 2022年6月、回転寿司チェーン大手のあきんどスシロー(大阪府:以下、スシロー)が景品表示法に基づく措置命令を受けた。同社の宣伝が、消費者庁によって「おとり広告」と認定されたのだ。

「匠の仕事で新物のウニがますますうまくなる」「冬の大感謝祭!豪華かにづくし4点盛り」……キャッチフレーズの横にはシャリが見えないほどにネタをふんだんに乗せたウニやカニが躍る。ところが、チラシに載っていた目玉商品に釣られた店舗に足を運ぶと、その日は完売──。

 それだけであればまだ許せるかもしれない。スシローの場合、もともとその日に目玉商品が入っていない、一部店舗ではキャンペーン初日から一度も仕入れがない状況で宣伝・販促を続けたというから悪質だ。対象店舗の9割以上が、期間途中で販売を取りやめていたという。

 トラブルが起きたのが人気の回転寿司店だけに、このニュースは大きく取り沙汰された。コロナ禍で外食店が軒並み低迷していた時期も、スシローやくら寿司(大阪府)などの大手チェーンは繁盛していた。だからこそ行政も、甚大な悪影響を消費者におよぼすと懸念したのだろう。

背景に回転寿司チェーンの苛烈な競争?

 では、なぜこんな事態を招いたのか。その背景にはチェーン同士の激しい競争がある。

 スシローは売上高業界トップにポジションにあり、かつ2位以下を大きく引き離している。だが、業界2位のくら寿司は「スマートくらプロジェクト」「鬼滅の刃コラボキャンペーン」など独自のマーケティング施策を打ち出すほか、3位につけるゼンショーグループのはま寿司(東京都)も開店時間のフレキシブルな変更やお持ち帰りサービスに注力するなど、大きな脅威となっている。

 好調とはいえ、回転寿司市場はまぎれもなくレッドオーシャンだ。ライバル店舗同士が隣り合うことも珍しくない。「追い上げられる恐怖」がスシローをおとり広告に走らせたともいえそうだ。

 もう1つの要因は、水産物の供給問題だ。日本の漁獲高(遠洋・沖合・沿岸など)は、昭和59年(1984年)にピークの1282万トンを迎えた後は年々低下、今では1/3の水準まで落ち込んでいる。海外から調達しようにも、円安の影響もあって海外勢に買い負けるケースも増え始め、とくにカニやウニといった高級ネタは入手しづらくなっている。

 こうした供給に関する一連の問題は、大手チェーンが貫いてきた「1皿100円」の存続を揺るがしており、回転寿司チェーンス大手は各社とも値上げに踏み切っている。

値上げ問題と回転寿司業界のすすむべき道

Nayomiee/istock
Nayomiee/istock

 中でも動きが早かったのは、最大手のスシローだ。5月9日付で、最安値の黄皿(110円:税込、以下同)を10円値上げするとリリース。同時に赤皿(165円→180円)、黒皿(330円→360円)の価格を変更することも発表しており、10月1日から新価格帯での提供をスタートしている。

 9月7日には、業界2位のくら寿司も実質的な値上げを発表。最低価格帯は115円と、スシローより5円安く抑えた。スシローもくら寿司も、調達努力やオペレーション効率化などによって何とかしのごうとしてきたものの、さすがに限界だったようだ。

 もともと「100円寿司」の原価率は高い。一般的な飲食店が原価率30%とされるのに対し、100円寿司の場合、ネタによっては80%前後にもなるとも言われている。だからこそ、食材仕入れ価格の高騰は経営に大きく響いてくる。「1皿100円」は回転寿司チェーンの看板でもあるだけに、値上げは苦渋の決断といえる。

 では、今回の値上げで問題は解決できるのか。

 円安進行に伴う食材値上げが話題となっているが、水産物の価格上昇トレンドは以前から続いている。ここ10年余りで水産物の価格は6割近く上がっており、そこに直近の円安が追い打ちをかけている状況だ。

 理由は、世界的な魚食人気にある。和食ブームに加え、高タンパクで脂肪も控えめな魚は欧米・アジアで人気が高い。特にアジア諸国では中所得層増の影響で、魚の消費量が急上昇している。

 日本では安さを前面に押し出すスシローやくら寿司だが、海外店舗では様相が異なる。たとえばニューヨークの「くら寿司フォートリー店」では、最低価格帯が1貫3.35ドル、現在の為替レートでは450円を上回る

 そうした高価格でネタを提供できるということは、食材の購買力が高いということでもある。グリーンバック(100ドル札)を切ってくる海外勢に日本企業のバイヤーが買い負ける……といった現象も現実に起こりつつある。

 今回の値上げはあくまで一時しのぎであり、このまま低価格で提供し続けていると、やがて日本に食材が入ってこなくなることもありえるかもしれない。そんな危機的状況が杞憂に終わることを願うばかりだ。

著者:棚橋慶次