お客の継続的な来店を図るため、顧客満足度の向上に力を入れる小売業、サービス業は多い。だが、顧客満足度が高いからといって、それが売上に必ずしも連動するとは限らないこともわかっている。その理由は、顧客満足度からでは把握できないことがあるからだ。ではどのようにして顧客体験をあげて収益と連動させていくべきなのか?顧客体験のマネジメントサービスを行うエモーションテックの今西良光社長に話を聞いた。

XiXinXing/istock
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顧客満足度調査の落とし穴

 モノが売れない、客が来ない、客が減った。売上が停滞しはじめた時、小売各社は内部施策と併せ、顧客の声に耳を傾けることは珍しくない。内向きに最善と判断しても、顧客に響かなければ無意味だからだ。

 ところが、この顧客満足度調査にも落とし穴がある。2005年に顧客満足度の調査会社が主催するアワードで多くの賞を受賞したGM(ゼネラルモーターズ)。当然、業績も絶好調と思われたが、市場シェアは低下し、おまけに社債の格付けが投資不適格に引き下げられた。

 あるサービスの顧客満足度調査では、離反した顧客の80%が、直前の調査では「満足している」と回答していたという結果もある。つまり、顧客満足度は、それをテコ入れ策としてフィードバックしても、期待するほどの成果が得られないケースもあるということだ。

なぜ顧客満足度と収益は連動しないのか

 なぜ、こんな不可解な結果になるのか。顧客体験を収益に連動させる支援サービスを提供するエモーションテック社長の今西 良光氏が解説する。

「満足度調査では心から本当に満足しているかを把握できないと考えられます。満足度を、心と頭に分けて考え、大手スーパーマーケットチェーンを調査対象に、収益性と関連づけて分析した研究があります。それによると、心で満足している顧客の支払額が月210ドルだったのに対し、頭で満足している顧客のそれは144ドルで月間60ドルの差があったのです。つまり、いわゆる満足度調査の数値改善に躍起になっても、売上増には必ずしも繋がるとはいえないのです」

 今西氏は2013年にエモーションテックを創業。出身のファーストリテイリングで、小売における顧客体験の重要性を体感する一方で、それらが個人の力量などに依拠し再現性がないことに課題を感じ、早稲田大学大学院を経て起業した。感情や想いをテクノロジーの力で「形」にすることで、企業の持続的な成長を支援するのがミッションだ。

 具体的には、独自の調査・分析によって顧客体験(CX)を正確に把握。企業が提供する商品・サービスに紐づくCXを独自の手法で分析・可視化し、取り組むべき優先課題や強み・弱みを特定することで、ファン創出をサポートする。
※Customer Satisfaction Doesn’t Count(2003年、ジョン・H・フレミング、ウィリアム・J・マキュアン)

真のCX向上の鍵を握るNPSとは

syahrir maulana/istock
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 キーとなるのは、NPS(ネットプロモータスコア)と呼ばれる指標だ。「あなたは、当社の商品(またはサービス)を、親しい友人や家族にどの程度おすすめしたいと思いますか?」というアンケートをみたことがあるかもしれない。人に紹介したいと思えるほど、製品やサービスに満足したかをアンケート調査で測定することで、可視化しづらい「心の満足度」を見極めるのだ。

 考案したのはベイン・アンド・カンパニーのフレッド・ライクヘルド氏。収益性と連動するロイヤルティ計測のための指標として、同氏が研究を続け、開発した。2003年に開発されて以降、アップルやグーグル、アマゾンなどをはじめ、世界中の先進企業で活用されており、日本でも浸透しつつある。

 同社がコンサルティング会社と共同で、自動車メーカー/ブランドを対象にした分析でも、NPSと国内販売台数の年平均成長率に強い相関があることが示されている。

 また、健康食品通販大手のECサイトにおける調査でも、NPSが高いサイトほど、1年以上の継続利用の割合が高いことがわかっている。

収益に連動するCX向上の勘所

 エモーションテックは、NPSを指標に採用した調査・分析サービスを創業以来400社以上に導入しており、そのうち約4割が小売企業だ。サポートを通じ、さまざまな実情を目にしてきた今西氏は、収益に連動するCX向上の勘所を次のように説明する。

 「いろいろな企業のサポートをしていて感じるのは、商品をお客に届けるまでの体験、つまり、接客やその商品が探しやすいかといったソフト面が、CXで重要だということ。逆にいえば、どれだけ商品が良くても最終的にスタッフの対応が悪ければ、トータルの体験として大きなマイナスイメージを与えてしまうということです」

「効果がありそうな施策」を可視化する効用

 あるフィットネスクラブの事例では、CX調査で更衣室の汚さが課題としてあぶり出された。費用面の問題から、改装はできなかったため、清掃頻度を増やす施策を実施。加えて、そのことをあえて店長の署名入りの張り紙に記載し、更衣室に貼付。その結果、顧客からも共感され、CXの向上につながったという。

 CXの観点を応用し、物理的なハンデをカバーすることも可能という。例えば競合に立地で劣っているとしよう。その場合、「遠くまで足を運んでいただきありがとうございます」といった張り紙や店内アナウンス等で、顧客に伝達してしまう。それによって共感を得ることで、「立地の悪さ」というハンデを逆に「気遣いの良さ」に転換し、顧客体験の向上につなげるのだ。

 こうした施策は、感覚的に行うだけでは「無意味だ」と反対意見も出るだろう。だが、データをもとにPDCAを回すことで、成果が明確になる。「なんとなく良さそうだから」と行っていたような施策が、成果としてデータで可視化されれば、従業員のモチベーション向上にもつながる。そうなれば、その後の打ち手にもよりポジティブに取り組め、CX改善が能動的に推進される機運が醸成される。こうした顧客満足の計測から分析、そして改善までのCXのトータルマネジメントサービスをエモーションテックは行っている。

注意点は「大きな声に引きずられすぎない」こと

 今西氏は一方で注意点も挙げる。「調査では大きな声に引きずられすぎないことが肝要です。例えば、CX調査でロイヤルティが高い顧客、低い顧客、そうでもない顧客が、一律に『価格に不満』と回答したとします。この場合、価格改定が有効な施策に思えがちですが、ロイヤルティが高い顧客も言及しているのだから、ロイヤルティをあげる施策にはつながらないと判断し、思い切って切り捨てることも必要です」

 あいまいでわかりづらかったCXの向上施策が可視化されるといっても、詳細な分析は不可欠で、見た目だけの判断は禁物ということだ。その辺りの見極めも含め、同社は導入企業にアドバイスしながら、収益性を十分に意識しつつ、CX向上施策を寄り添いながら磨き上げていく。 

小売が末長く繁栄し続ける方程式

 一度利用してもらった顧客に、末長く定着してもらうことは小売業にとって、最大の喜びであり、目標だ。よい商品、よい立地に加え、ソフト面をどれだけ充実させられるかが、重要なポイントとなる。

 顧客に振り回されるのではなく、的確に顧客心理を把握し、その上で最善の施策を打ち続ける。それができれば、売上は伸び続け、やがて顧客が顧客を呼び、ファンとして定着してくれるーー。小売が末長く繁栄するための方程式は明白だ。

 だが、これまでは有効と思われる多くの施策が、経験や勘によるもので、再現性が低いことが大きな課題だった。同社のサービスは、そんな曖昧な領域にデータを持ち込み、可視化して、収益と連動する施策として磨き込む。

 「永遠の課題」を打破するのはそう簡単でないが、エモーションテックのサービスが雲をもつかむような打ち手に、しっかりとした手応えを与える手助けになりそうだ。

今西 良光
エモーションテックの今西良光社長

著者:油浅 健一