ダイソー大

移動販売事業から国内屈指のグローバル小売企業に

 100円ショップ業界最大手の大創産業(広島県/矢野靖二社長)が、驚くべき進化を遂げようとしている。

 同社は1972年に、矢野博丈氏が家庭用品の移動販売事業を行う矢野商店として創業、87年に「100円SHOPダイソー」の展開を開始した。当初は百貨店や食品スーパー(SM)などでの催事コーナーで展開していたが、評判を聞きつけた大手SMから声がかかり常設店舗を出店。そして91年には香川県高松市に初めての直営店舗を開業し、そこから一気にチェーン展開を進めていった。

図表●国・地域別の「ダイソー」の店舗数 そのスピード感たるやすさまじく、96年には国内300店舗、2001年には同2000店舗を達成。また、01年の台湾進出を皮切りに海外での出店も加速する。韓国、中国、東南アジアのほか、中東や北米、中南米、オセアニアなど、日本の小売業としては異例ともいえる広範囲で海外事業を推進し、今では世界26の国と地域に店舗を展開している(図表)。

 このように国内外で積極的な出店を続けることができたのは、同社のビジネスモデルが多くの消費者から支持されたからに他ならない。ワンコインで生活に必要なものがほとんど揃うという利便性の高さは国内だけでなく、海も越えて受け入れられたのである。

 今や店舗数は、国内で4000店舗超、海外で約2300店舗を数える(いずれも22年2月末の100円ショップ「ダイソー」事業の店舗数)。しかし大創産業は現状に満足することなく、創業50周年という大きな節目を迎えたタイミングで、さらなる変革を起こそうとしている。

「300円ショップ」が新たな成長エンジンに

ダイソー、スリーピー、スタンダードプロダクツ

 その“変革”は、さまざまな領域ですでに進んでいる。まずは、店舗開発だ。

 大創産業は19年にCI(コーポレート・アイデンティティ)を刷新し、それまで散在していたさまざまな屋号を「DAISO(ダイソー)」に統一。ピンクを基調としたロゴを導入し、店舗の内外装もスタイリッシュなデザインに切り替えを進めており、従来の100円ショップにあった雑然としたイメージからの脱却を図っている。

 加えて、多様化する消費者のニーズや嗜好に対応するべく、新業態の開発にも動く。まずは18年、300円ショップ「THREEPPY(スリーピー)」を立ち上げる。メーンターゲットに据えた若い女性に向け、かわいらしいデザイン・色づかいの雑貨を中心に販売。価格と実用性を追求したダイソーとは一線を画した品揃えは人気を呼び、同業の300円ショップの事業譲受により商品開発力も向上。直近では「大人かわいい」を新たなコンセプトにリブランディングを行い、カラフルながらも落ち着いたテイストの商品開発を行い、顧客層の拡大を図っている。

 そしてもう1つ、メディアでも大きく取り上げられたのが、「Standard Products(スタンダードプロダクツ)」の出店である。「ちょっといいのが、ずっといい。」をコンセプトに、ダイソーが“新たなスタンダード”を提案するという新業態だ。

 Standard Productsでは、ダイソーともTHREEPPYとも異なる、汎用性の高いシックで落ち着いたデザインの商品を、生活雑貨に特化して展開する。また、余剰が問題となっている国産の間伐材を加工したエッセンシャルオイルや箸、「熊野筆」を使った化粧ブラシや岐阜県関市名産の「関の刃物」など、社会課題の解決を図る商品や日本各地の伝統工芸品を提案。それらを300円を中心とするリーズナブルな価格帯で販売するという斬新さが大きな注目を浴びた。

 他方、こうした300円ショップ業態の展開についてメディア等では、昨今の原材料・物価高騰を背景にした施策として論じられることも少なくない。しかし矢野社長も商品開発担当者もこれを否定。あくまでも顧客ニーズが多様化するなかでプライスラインも拡充した結果であり、100円商品を主軸とする考えに変わりはないという。

7万超の圧倒的品揃えと「新MD」が強力な武器に

 もっとも、こうした革新的な店舗開発の取り組みは、商品の進化なくして成し遂げられるものではない。

 大創産業が取り扱う商品数は、前出の新業態を含む3ブランド合計で約7万6000品目。さらに毎月約1600品目の新商品が投入されており、改廃を繰り返しつつ、同業他社の追随を許さない圧倒的な品揃えが大きな武器になっている。

 商品開発の方向性は、「話題のアイテムを100円で販売できるように再設計し、大量販売する」というもの。最新トレンドから一歩引いた位置で市場を見ながら、確度の高い商品開発を行っているのだ。しかし消費者ニーズや嗜好が多様化し、さらにダイソーのブランドパワーが高まり顧客からの期待や要望のレベルも上昇するなかで、「トレンド」と「開発」のタイムラグは縮小傾向にある。

 そんななかで大創産業は昨今、市場ニーズに対応するための新規ジャンル開拓を中心とした「新MD」と呼ぶ商品群の開発を進めている。

 すでに大きな成功事例の1つとなっているのが、釣り具だ。コロナ禍で密を避けられる趣味としてブームになったのと同時に、100円を中心としたルアーを豊富なSKUで発売。するとYouTubeなどSNSで話題となり、大ヒットを遂げた。

 同じくコロナ禍での空前のアウトドアブームを受け、新MDの取り組みのもと強化したキャンプ用品も、成功を収めている。メスティン(飯ごう)や小型テント、アウトドアチェア、食器類などさまざまなカテゴリーを深掘りしアイテム数を拡充。専門店レベルの品揃えを手頃な価格で提供することで、“キャンパー”の支持を獲得している。

 新MDをはじめとするトレンドを押さえたスピーディな開発体制が、新業態を含む店舗・売場の進化を支え、ロイヤルティの向上、顧客層の拡大に寄与しているのだ。

米国での出店を強化海外売上比率30%へ

 こうした革新を進めながら、大創産業が中長期での達成をめざすのが、「国内外1万店舗・売上高1兆円」という壮大な目標だ。

 これを成し遂げるためには、やはり「出店」がモノを言う。そこで大創産業がさらなる強化を図るのが、海外での出店だ。最重要視するのは米国。激しいインフレの波が襲う同国において、ダイソーは幅広い顧客層を取り込んでおり、成長余地が大きいと見るためだ。現状は主要都市をメーンに約90店舗を展開しているが、これを早期に1000店舗体制に広げる。

 また、東南アジアではすでに稼働している物流・製造拠点の機能強化を図る。これによりアジア、中東、オセアニア地域でのさらなる出店にも弾みをつけたい考えだ。これらの取り組みにより、30年には海外での売上比率を約30%に高めることをめざす。

 一方、「日本国内においても出店余地は多分にある」と矢野社長は見る。東京23区内をはじめ店舗空白地はまだ存在するほか、ダイソーの集客力の高さから、商業施設デベロッパーやSMやホームセンター(HC)など小売業からのテナント出店の要請も多いためだ。さまざまな立地、サイズ、フォーマットでの出店を国内でも進めることで、「6000店舗規模までは実現可能」(矢野社長)と見ている。

組織も革新し、売上高1兆円めざす

 1万店舗・1兆円という目標をめざすうえでは、組織力の強化も必須課題となる。その重責を担うのが、創業者・矢野博丈氏から18年に経営のバトンを託された矢野靖二社長だ。

 詳しくは次回からのインタビューを参照されたいが、強力なトップダウン型の経営で成長をけん引してきた先代の方針から一転、“多数精鋭”を是とした組織体制へのシフトを進めている。その一環として、一部本部機能の東京への移転や、人材教育の強化といった取り組みをすでにスタートさせている。

 店舗、商品、そして組織──。大創産業がこれらの領域で革新を進めていった先には、どのような景色が広がっているのだろうか。そして、他の小売企業にとって大創産業は強力な競合なのか、それともテナント出店などによってともに成長を遂げられるパートナーなのか。

 非上場企業である大創産業は自社の経営戦略について、これまで本誌を含めメディアを介して発信することはほとんどなかった。本特集を通じて、「新しいダイソー」の姿を目に入れていただきたい。

会社概要 ※22年2月末時点

所在地 広島県東広島市西条吉行東1-4-14
代表者 代表取締役社長 矢野靖二
設立 1977年(創業:1972年)
売上高 5493億円
店舗数 国内4042店舗、海外2296店舗(ダイソー業態)
従業員数 社員585名 パート・アルバイト2万4020人(8時間換算)

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著者:雪元 史章