買い物に行くと店内のいたるところに掲示されているポスター。その告知は来店者にどのくらい見られているのだろうか。そのPoC(概念実証)が吉祥寺PARCOで行われた。紙で制作していた掲示物をデジタルポスターに変更した結果、視認性は30%上がり、スタッフの制作労務は1企画で約5時間削減できたという。マーケティングや顧客政策を担当するパルコ(東京都/川瀬賢二社長)CRM推進部の部長である上岡靖弘氏、概念実証を担当したパルコデジタルマーケティング(東京都/守永史朗社長) 事業推進部 コンサルタントの鈴木雅詞氏に、実証の背景や結果、今後の展望について聞いた。

届けたい情報を届け、スタッフの業務を効率化する

パルコCRM戦略部の部長
パルコCRM推進部の部長 上岡靖弘氏

 デジタルポスターによる概念実証が行われた背景について、パルコCRM推進部の部長 上岡靖弘氏はこう語る。

 「1つには、届けたい情報がきちんとお客様に届き、お客様の買い物体験が向上しているかを知りたかったから。店頭のポスターやポップで伝えたいのは、運営側であるパルコからの告知、さらに出店企業からの告知。しかし、これらすべてを伝えようとすると情報量が多く、わかりにくくなっているのではという懸念があった」

 例えば、電子マネーやクレジットなど利用可能な決済手段を掲示していても「使えますか?」と来店者からよく尋ねられる。伝えたいことが伝わっているのかという課題を感じていたのだという。

 「2つめには、パルコ・出店企業双方のスタッフの業務効率化だ。例えば、紙の告知物は大量に印刷して約80の店舗に配布している。企画が始まるときに、パルコスタッフが各店舗で掲示されているか、終了時に撤去されているかをそれぞれの店舗に行って確認していた。人海戦術で対応していたが、もう少し業務を効率化できないかと考えていた」(上岡氏)

 また、掲示物が紙である場合、印刷して余った場合は廃棄作業も発生する。「紙のPOPがなくなれば紙の使用量が減るため、経費削減やCO₂削減につながる。ひいてはパルコが企業としてどう持続可能な運用体制をつくるのかという大きなテーマにもつながっていく」(同)

店舗販促ツール運用改善の概念実証図
店舗販促ツール運用改善の概念実証図

掲示物をメディアとして活用していく

パルコデジタルマーケティング 事業推進部 コンサルタント
パルコデジタルマーケティング コンサルタントの鈴木雅詞氏

 概念実証は、掲示物をデジタル化し、業務効率を図るという方向性で動き出した。

 「第一段階では、毎月8日のコスメの日キャンペーンをデジタル化して掲示し、マーケティングカメラを設置して計測することにした」と、実証を担当したパルコデジタルマーケティング コンサルタントの鈴木雅詞氏は話す。

 202238月にまず3テナントで実施した後、その改善案を基に、2022年の98日〜1121日に18テナントに拡大して実施した。

 第二段階では、パルコポイントに関する掲示をデジタルでテンプレート化し、動きのある動画にすることで、視認性がどれだけ上がるかを試した。実証期間の前半2週間は紙で掲示し、後半2週間はデジタルポスターで掲示。マーケティングカメラを設置し、どのくらいの来店者が掲示物を見ているのかを計測した。

 概念実証の結果、実施背景となっていた課題は解決されたのだろうか。「モーション(動き)をつけてデジタル化したことで、視認数は30%ほど高まった。また、掲示物を出力して確認する作業や印刷、設置作業を含めて、平均して1企画あたり5時間を短縮できた。パルコ・出店側スタッフの業務削減につながった」と鈴木氏。

 また、意外な発見もあったと続ける。「デジタルの方が見られてはいたものの、紙の掲示物にもしっかりと目を留めている方がいることがわかった。掲示物はただのお知らせではなく、メディアとしての価値をもっている。多くの人が目にするメディアとして、広告出稿を働きかけることもできるのではないか」

 さらに、紙の消費量も大きく削減できることがわかったと上岡氏は語る。「年間を通じて掲示している告知の場合、季節ごとに掲示物を差し替えるときはすべて刷り直す必要がある。しかし、デジタルなら掲示物を切り替えるときは、データを差し替えるだけでいい。年間の告知では、全店で1万キロもの紙を使っている。デジタル化すればこれらを削減することができる」

マーケティングカメラで得られるデータの価値 

マーケティングカメラの設置風景
マーケティングカメラの設置風景

 さまざまな手ごたえを得た概念実証。これから紙とデジタルのすみ分けを考えながら、各館や各フロアの特性に合わせた掲示の仕方を検討していくという。

 「パルコは全国に17店舗があり、ビルのコンセプトによってお客様の層や嗜好が違う。食品を扱っている館では、新聞の折り込みチラシをやっているように、紙を完全になくすことは考えていない。デジタルネイティブには動画、そうでないお客様には紙での告知が必要だ。それぞれのお客様に最適な情報の届け方をしたい」(上岡氏)

 ただし、全店でデジタルのディスプレイを展開していく場合、ディスプレイ用の電源確保やネットワークの確保が必須であるため、インフラを整える必要がある。今後の進め方について、まさに話し合いを進めているフェーズだ。

 「デジタルポスターの精度を高め、パルコグループだけでなく、他社に展開することも考えていきたい。マーケティングカメラを設置すると、お客様の年代などのデータを取得でき、分析できる点にも価値があると考えている。また、スタッフの業務を効率化することで、よりクリエイティブな仕事を生み出していきたい」(同)

著者:久保佳那