2015年に国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が採択されて以降、企業のサステナビリティへの取り組みがにわかに注目されるようになった。本連載は、サステナビリティ活動について最先端を走る企業のひとつである、ファーストリテイリング、およびユニクロに取材し、その取り組みを10回連載(注:各回複数話で構成される、第1回は全3話構成)で掘り下げる。どんなターニングポイントがあり、何に苦労したのか? 逆に得られることは何なのか? 各取り組みにおけるキーパーソンへのインタビューを軸に、具体的かつビビッドに伝えていく。

第1回は、2023年4月21日にオープンした、ユニクロの最新型ロードサイド店舗である「前橋南インター店」(群馬県前橋店)を取り上げる。店舗のトータルクリエイティブディレクション・デザイン監修を担当した佐藤可士和氏の長年に渡るユニクロでの取り組みについて、またファーストリテイリング 出店開発部店舗設計施工チームシニアマネージャーの髙木肇子氏、竹中工務店 東京本店設計部アドバンストデザイングループ長の花岡郁哉氏に、前橋南インター店のサステナビリティ設計について取材した。

柳井社長と禅問答を続けて17年

 クリエイティブディレクター佐藤可士和氏(以下、佐藤氏)とユニクロとの関係は深く、そして長い。2006年ユニクロがニューヨークの SOHOにグローバル旗艦店をオープンさせる際に、佐藤氏にグローバルブランド戦略のクリエイティブディレクションを依頼したのが始まりだ。当時、携帯電話のデザインで注目されていた佐藤氏をテレビ番組で見たユニクロの柳井正会長兼社長(以下、柳井社長)が、「この人に会いたい!この人を呼んでください!」と言ったというのは有名なエピソードである。

 以来17年間、佐藤氏と柳井社長は毎週のように対面し「新しい服とは」「店とは」「デザインとは」といった、まるで禅問答のような会話を続けている。

クリエイティブディレクター 佐藤可士和氏

17年間で変化した、店に求められること

 佐藤氏は店をブランド発信のメディアと捉え直し、2006年以来、ユニクロの海外のグローバル旗艦店を「全世界に向けたショーケース」としてデザイン。それをニューヨーク、ロンドン、パリ、上海などへと展開してきた。

 「一番はじめの『ニューヨーク SOHO店』はもちろんグローバルにおけるブランド戦略なので、社会の中でブランドの存在を際立たせることが目的でした。でもこの17年でユニクロ自体もすごく大きく成長したし、もっと利他的なことが社会から求められるようになってきた。もちろん環境のこともありますが、その店が地域にとってどういう意味合いを持つかということを意識するようになったんです。店が服を買うためだけの場ではなくて、もっと複合的な役割を持っていかないとブランドとして社会に広く受け入れられないんじゃないか、と考えるようになっていきました」(佐藤氏)

海外のユニクロ旗艦店舗(ニューヨーク SOHO店〈左上〉、ロンドン 311オックスフォードストリート店〈右上〉、パリ オペラ店〈左下〉、NY 5番街店〈右下〉)

2020年3店舗の日本グローバル旗艦店でチャレンジした新フォーマット

 社会から受け入れられ支持され続けるために、どんなブランドになって、どんな店を作っていくべきなのか。その答えを模索しながらも、確実な手応えがあったのは、2020年春に日本で3店舗の新店をオープンしたことだという。

 まず4月の「UNIQLO PARK横浜ベイサイド店」(神奈川県横浜市:売場面積660坪)では、ファミリー層の多い商圏に合わせて店舗の周りや屋上を誰でも入れる公園にした。店舗の外側全体にすべり台、ボルダリングやクライミングなどを配し、子供たちが自由に遊べるようになっている。屋上のジャングルジムからは東京湾を一望できる。それまでユニクロの店舗はあくまで買い物をする場所であって、いかに商品を見やすく、選びやすく、買いやすくするかということに注力されてきた。しかし、UNIQLO PARK横浜ベイサイド店は初めて、「人が集う場所を作る」ということにチャレンジした。

 そして、この店舗で初めて、ユニクロは花を販売し始める。

UNIQLO PARK横浜ベイサイド店外観

 「店は買い物する場所」から「店は買い物しなくても、人が集まれる場所」であるというこのフォーマットに手応えを感じながら、ユニクロは同6月に「ユニクロ原宿店」(東京都渋谷区:600坪)、そして銀座の「UNIQLO TOKYO店」(東京都中央区:1500坪)をオープンさせる。

 原宿店ではポップカルチャーの発信基地として若者が集まるよう、多くのブランド・アーティストとの協業コーナーを作った。UNIQLO TOKYO店ではコーヒースタンドを作り、地元・銀座にある老舗喫茶店のスイーツも提供している。

 そして、2023年4月にオープンしたのが前橋南インター店である。地域に開かれた店を目指して、店舗デザインは全面をガラス張りにした。店の前には芝生のガーデンがあり、今後様々なイベントが予定されている。店内には子供たちが遊べるコーナーや、地元で人気のスイーツを提供するカフェコーナーのほか、高崎名物のだるまがディスプレイされていたり、地元企業とのコラボTシャツが作れるコーナーもある。見ているだけで楽しい道の駅のような雰囲気だ。

ユニクロ前橋南インター店外観
左から、高崎だるまのディスプレイ、キッズコーナー、カフェコーナー、フラワーコーナー

ロゴはエンターテイメントのコンテンツ

 もう一つ、前橋南インター店で目を引くのは、店舗の四隅に巨大な立体ロゴを配した斬新なデザインだ。

 2021年に国立新美術館で開催された「佐藤可士和展」。中でも印象深かったのは、これまで佐藤氏がデザインしてきた企業ロゴを3m超のサイズに巨大化して展示したコーナーだ。この展示を通して、佐藤氏はあることに気づかされたという。

 「これは僕も予想外だったのですが、企業の巨大ロゴと一緒に写真を撮ってくださっている方がものすごく多かったんです。皆様とても楽しそうに写真を撮って、SNSに上げていました。一つのブランドのロゴもスケールを超えてプレゼンテーションの仕方を変えると、エンターテイメントのコンテンツになるんだなということを、『佐藤可士和展』を通して確信したんです」(佐藤氏)

 そして、前橋南インター店では、7m四方の巨大なユニクロの立方体ロゴが生まれた。

2021年国立新美術館で開催された「佐藤可士和展」

 プロジェクト初期の打合せで佐藤氏がホワイトボードに描いた、手書きのラフスケッチが残されている。これを見ると、最終的に出来上がった店舗がはじめのスケッチそのままの形で完成していることに、あらためて驚かされる。

 2006年にニューヨーク SOHO店でデビューした新しいユニクロのロゴは、2020UNIQLO TOKYO店で3D表現となり、2023年前橋南インター店で巨大化した。もしかしたら、2006年当時からこうなることを予測してロゴデザインを作ったのかとさえ思う。佐藤氏は常々「ロゴとは、ブランドの理念が凝縮したものだ」と語っているが、今回「UNIQLO LOGO STORE」と銘打った前橋南インター店では、まさに巨大化したロゴそのものがランドマークであり、ブランドを発信するものとなっている。

佐藤可士和氏の手書きのラフスケッチ

2008年、「サステナビリティステートメント」を策定

 一方、ロゴデザインや店舗デザインのように外に見えるワークの裏側で、2006年〜2009年の間に佐藤氏がユニクロで取り組んできたことがある。2006年にユニクロのロゴを刷新し、ファーストリテイリングのロゴとステートメントを作ったことに続いて、2008年に「サステナビリティステートメント」を作ったことだ。それは、ファーストリテイリングが真のグローバル企業になっていくための準備でもあった。

 「2006年のニューヨーク SOHO店オープンのすぐ後に、柳井社長から言われました。『海外展開を本格化していく上で、自分たちが何者か、その理念を答えられるように可視化しておかなければいけない』と。しかも、あなたたちは何をしている会社か?と聞かれて、こういう商売をしています、ではなく、こういう社会貢献をしています、と答えられるようにしておかなければいけない。それで、2008年、コピーライターの前田知巳さんと一緒にCSRステートメント(現・サステナビリティステートメント)を作りました。サステナビリティのCI(コーポレート・アイデンティティ)化を始めたわけです。やはりユニクロのパワーを最大化できること、服の力で社会に貢献していこうということで、ユニクロが2001年から続けてきた様々な活動を整理して、これからの指針として整えました。商品広告のキャンペーンではないので、あまり世の中には出ていないものですが」

2008年に策定されたユニクロCSRステートメント(現・サステナビリティステートメント)

 「それからだいぶ経て、国連でSDGsが採択されてからは、世の中でも急速にサステナビリティとかSDGsが意識され始めました。実際、そこから慌てて何をすればいいのか?と考え始めた企業も少なくないと思います。でもユニクロはすでにコンセプトや活動指針ができていて、それに沿ってずっと活動してきていたので、慌てることはまったくありませんでした。淡々と、これまで通りに自分たちの事業に邁進していると思います。その姿勢はコロナ禍でも変わりませんでした。あの時、まだ早いかなと思ったけれど、ステートメントを作っておいて本当によかったと思いますし、今見てもまったくズレていないのです」

 国連サミットで「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標」いわゆるSDGsが採択されたのが2015年だから、その7年も前にユニクロと佐藤氏の間で自社のサステナビリティ指針を作っていたことになる。今回の前橋南インター店も、このステートメントに沿って生まれたものだ。

 類まれなる経営者と天才的クリエイターは、今も禅問答を繰り返しながら、世界や時代のずっと先を走っているのだと思う。

 次回「最新型ユニクロが前橋にやってきた!② 前橋南インター店のサステナビリティ設計」では、店舗の消費電力を55%削減した驚異のサステナビリティ設計について、ファーストリテイリング出店開発部店舗設計施工チームシニアマネージャーの髙木肇子氏、竹中工務店東京本店設計部アドバンストデザイングループ長の花岡郁哉氏に取材する。

著者:北沢 みさ