『河合拓様 お世話になっております。
各社次の一手が打てないのは、既得権益が邪魔しているからだと思います。業界、社内に波風立てずに保身に入ってしまう。会社・組織を動かせる年代=定年・退職か見えてくる年代。既得権益最低レベルの人間(編集部注:既得権益がほぼないこと)は血気盛んに社外社内へ既得権益を意識する事なく動いていますが、部長以上になると上を見て仕事をするか、社内社外に対して意見はするが実行しないか、実行出来る環境にない。サラリーマンではプロジェクト実行に入っても年々定年が近づいてくるので実行期間が長ければどんどん保身になっていきます。』

 私には連日のように上記のような相談が舞い込んでくる。これは、「商社はOEMをやめ、新しいビジネスモデルをやるべき」という私の主張に対して、助言をくれた方からのメールだ(ご本人のプライバシーが分からないよう、若干の修正をしています)。
以前の中国在住の方からのメールもそうだったが、このようなメールを読むたび、私は切ない気持ちになる。年を取れば取るほど会社も人間も動かなくなり、この4月で私の知人や友人の多くも商社を辞めていった。

今回は、そんな商社に未来はあるのか、5年後の世界を徹底予測してみたい。見たくない現実がそこにはある。

いま、商社で起こっている
若手とミドルの“分断”

mediaphotos/istock
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 今、アパレル業界では「先が見えない」という。以前は、米国にいけば最新の技術、小売のあり方が分かったのだが、今は、「米国は先生たりえない。せいぜい無人カートぐらいだ」という。国内を見ても「ユニクロは遙か彼方にいってしまい、もはや何かを学ぶにはスケールが違いすぎる」状況だ。

 そんなわけで、各社は横並びになって、誰かのフライングを横目で見ながらフリーズしているのが実態だ。さらにたちが悪いのは、商社で言えばバブル時代にOEMでしこたま儲けた思い出から抜け出せず、「あの日」がもう一度来ると信じ、アパレルに破格の交際費を払っているのである。

 私の友人が言った。

 「とにかく、つまらない世の中になった。昔のように海外にいって運転手付きの豪邸に住み、ハードシップ手当(商社には海外にゆけば手当がつく)と、日本と海外のダブル給与で、帰国時には家が一軒キャッシュで買えるほど貯金ができ、オフィスにいけば、クライアントと食事。夜はカラオケ三昧だった……」

 今の人には理解ができないだろうが、商社の海外駐在というのはこれほど「おいしい」のである。

  今、若手と50代以上に分断が起きているという。若者が使う横文字とスピードが、50代には理解できないというのだ。私の自宅には、25歳と28歳の娘がいるので、日常会話の練習には不自由しないのだが、ビジネスの話でコンサル用語やデジタル用語を多用されると、本家本元のコンサルの私でさえ辟易してくる時がある。

 この分断が、一層ミドルを深い悩みに追いやり、働く意欲をなくし、ましてや、企業を改革するなどもってのほかということになるわけだ。そうこうしている間に時は経ち、ここに書かれているように企業は石のように固まり、動かなくなる。

さて、こうした現実は、私が感じる「リアリティ」と違いはない。それでは、もし、このままいけば商社はどうなるのか、とくに商社のお家芸であるOEMビジネスはどのようになり、その結果アパレル企業はどんな影響を受けるのか? コンサルタントの分析力を使い一つの仮説をご提示しよう。

総合商社は1社除いてアパレル撤退!?
5年後の不都合な世界

kurosuke/istock
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 アパレル市場規模が15兆円もあった時代、そのころ伊藤忠商事の繊維の売上は8000億円もあった。アパレル市場規模がいまや半分になり、200%という世界でも類を見ない過剰供給と、ゴミの排出を続けているアパレル業界は、昔相場で儲けた貯金を切り崩しながら、徹底したリストラと薄口銭により、値引きの我慢大会になっている。

 「売上減少も底をついたな。」

 現役の商社マンの友人がこういった。これは、政府がコロナ対応の解除を行い、リベンジ消費と円安によるインバウンド消費による一時的なもので、底などそもそも存在しない、あえていうなら、すべてが外資系になれば商社の売上などゼロになる。これが底だ。

 それなのに、いまだに経済のアップダウンが「他力」だと勘違いをしているのだ。当たり前だが、良い商品を作れば、衣料品の消費は他の消費財やサービスから需要を奪い、まことしやかにいわれる「市場規模7.5兆円」も軽く超えるだろう。それを、「需要がまたきた」、「また、去った」と台風が来るかの如く語るところが、この30年なんの進歩もない証左だ。

 そして、5年後、この我慢大会も結論がでるだろう。

 まず、伊藤忠商事を除き他の大手商社は繊維事業部から撤退し、他のポートフォリオに組み替えるだろう。また、伊藤忠商事もOEMはスポーツ衣料のみに注力し、「新規にビジネスをはじめるのであれば資本(エクイティ)注入が条件だ」といってくるだろう。

 こうして、時代は専門商社の時代となるわけだが、専門商社とて「我慢大会」から抜け出せないほどこり固まっているだろうが、その背景にある事情は総合商社と同じである。

 一つ、そして、大きな違いは、総合商社は繊維などやめても次があるわけだが、専門商社は繊維がなくなれば会社がなくなってしまう。したがって、必死にOEMにすがりつき、身を粉にし利益を圧迫しながらリストラとOEMを繰り返すことになる。

 実は、この煽りを受けるのはアパレル、あるいは、SPAアパレルなのだ。私は過去に、QR(クイックレスポンス)の効果測定をし、作り増しをいくらしても消化率は下がる一方であるというデータに衝撃を受けたことがある。それでも、「我が社はQRでアパレルを助けます!」というあやまった戦略とスローガンで日本の工場は、売れないアパレル企業の息の根を止めるのを長引かせた。

 その結果、計画生産を行う海外のアパレル工場、あるいはごく少ない日本の工場だけが生き残り、QRに付き合った工場が廃業に追い込まれている。QRが成立するのは、ユニクロのヒートテックのように販売期間が長くベーシックで、残っても来年売れる商品だ。 

  極論をいえば期初計画で2年分ぐらいの在庫をもってもよいのだが、それは交差比率(粗利 x 回転率:企業に入るお金を最大化させるKPI)を増やすためだ。逆に、二年と言わず一年の在庫をもつだけで即死するアパレルはQRによる作り増しなど、もはやお付き合いしてくれる工場さえない。あるとすれば、商社が資本を入れている日本仕様の工場で、そういうところをお付き合いをしているアパレルは運が良いとしかいいようがない。いまコスト競争力をもたせようとすれば、発注から納品までのリードタイムは半年から一年ぐらいかかることになり、もはや私が過去に予言したように物理的にQRなどできなくなっているのだ(シーズン中に増産依頼しても間に合わないどころか季節が変わるか翌年になってしまうのだから当たり前だ)。

  今、アパレル各社は未曾有の好景気に浮かれているようだが、この好景気が一時的なもので、第二波(中国との人材交流障壁が完全撤廃されたときに押し寄せる中国人、インバウンド)を期待し、「底をついた」などといっているようでは、臭いものに蓋をしているだけなのである。

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5年後も勝ち残るためにはどうすべきか?

Parradee Kietsirikul/istock
Parradee Kietsirikul/istock

 商社は今こそビジネスモデル全体を変えるための投資を行うべきだ、と私は思う。再三指摘しているように、グローバルのアパレルでは500円、1000円というローエンドプライスがボトムを受け持ち、すでにそれらのいくつかは日本に上陸してきている。思い出してほしい。ユニクロが原宿に進出した1998年、私たちは「あの安もの屋が原宿に来るのが間違っている。ロードサイドに出すのが正しい」と高をくくり、「あんな下着屋と一緒にしないでくれ」と「ユニバレ」というネガティブキャンペーンをはり、真正面からの戦いを避けてきた。告白すれば、私もそうだったのだが、あまりにメディアが騒ぐので、同社の店を見に行ったとき、「その手があったか」と衝撃を受けた。店内に陳列された衣料品の数々は、ほとんどがベーシックでなんの変な模様やデザインプリントもない。

  インナー(外出着)やTシャツならこれでいいじゃないか。

 と誰もが思ったはずだ。しかし、こんな単純なことさえ真正面から受け入れようとしなかった私たちは、いつしか柳井正氏は経営の神様で、自分たちとは違う(から仕方がないんだ)と言い始めた。学者はこの不況産業の中で世界一をめざす、唯一の企業であるファーストリテイリングの分析をデタラメにやった結果、誰もファーストリテイリングから学ぶことができなかった。

 今、コンサルや学者によるShein(シーイン)の講演が増えているという。私は、ユニクロの当時の状況を思い出さずにはいられない。前回話した「Temu」もそうだが、いずれお尻に火が付いて、はじめて慌てて走り出すことになるだろう。しかし、日本企業の多くが勝てる見込みは思いつかない。

非上場企業が進むべき道、上場企業が選ぶべき道とは

 それでは、最後にコンサルらしくどうすべきかという提言をしたい。本当は、今から投資を行い、世界の潮流を学び5年後のビジネスモデルを描いて大改革の一歩を踏み出すべきだ、といいたいのだが、それができるのはごくわずかな企業だけだ。理由は冒頭の悲痛な叫びを聞けばわかる。

 こうした中から私が提言するのは、あえて非上場の道を選び、プライベートエクイティなどファンドの力を借りて資金調達を行って、海外進出やビジネスモデル改革をすることだ。痛みを伴う改革は、自ら進んではできない。ならば、胃カメラと一緒で、医者に「えいや」と突っ込んでもらうのがもっともよい。そう。痛い治療は他人にやってもらうのが一番なのだ。ファンドが悪魔の手先だなどと今でも本気で信じている人は流石にいないだろう。私が見聞したところでは、むしろその逆で、なぜ、この場でもっと大胆な改革をしないのかと思うほど、現場に優しいのが実態だ。投資した金が溶けるのは、この改革のタイミングを「優しさ」で逃すからだ。

 痛みを伴う構造改革は、時間が経てば経つほど痛みは増してくるのだが、痛いのは最初だけで、私の経験から言っても痛みを乗り越えた先には勝利の美酒が待っており、関係者はみな出世し、喜びで満面の笑みを描くのが一般的なのだ。

 それでは、上場企業はどうすべきか。それは、慎重な取り扱いが必要になるため、単純なコメントは避けたい。一度、公開企業となる道を選んだのだから、ステークホルダーマネジメントは半端ではないだろう。その企業の置かれた状況や株主構成によっても戦略の打ち手の幅は全く変わってくる。また、金融で買収防止施策をとるなど、本来事業価値を上げて株価を上げるのがもっともよいのだが、今の日本企業は大バーゲン・セールで、海外の投資家が集まってきているというおかしな現象が起きている。円も安くなり、一昔前なら、これで経済が成長しないなら、やることはないというぐらい好条件がそろっているのだから。

*上記は、私の個人的な発想によるものであり、商社で働く皆さまの戦略を否定するものではありません。そうなってはならない一つの仮説シナリオとして、うけとっていただければ幸いです。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

 

著者:河合 拓