ユニクロが1999年以来のフリースブームで売上を倍々と伸ばす中、同時に社会貢献活動を立ち上げていたことを知る人は少ない。その活動はその後も広範に渡って発展し、いまやサステナビリティ先進企業になっている。
サステナビリティの情報発信について、ファーストリテイリンググループ上席執行役員の柳井康治氏、またマーケティングを統括するファーストリテイリンググループ執行役員の遠藤真廣氏に取材した。

サステナビリティのアプローチに正解・不正解はない

 2021年に柳井康治氏がサステナビリティ担当になってから、サステナビリティに関する情報発信が加速したように見える。2021年12月に「長期的なサステナビリティ目標とアクションプラン」を発表して以来、毎年その進捗を発表するほか、ことあるごとにメディア向け発表会が開催されている。

 「私がサステナビリティ担当になったから情報発信が増えたということではなく、お客様やステークホルダーの皆様の関心が高まっているので、それにお応えするうちに自然と増えていったのだと思っています」(柳井康治氏)

 情報発信について、柳井康治氏はこう語る。「サステナビリティに対して取り組む方向性や方法は色々あると思いますが、目標は共通ですので、どういうアプローチであるべきかは、多様だと思うんです。どれも間違いではないし、どれがダメということもないはずです。もし違う考え方を持つ方がいらっしゃっても、自分とは違うけど、これもあるよねと思ってもらえたらいいと思っています。自分たちにできることは、ファーストリテイリングは、あるいはユニクロは、このアプローチでいきます、という考えを、できるだけしっかりと正しく伝えていくことしかありません。それが、まだ足りていないのかもしれません」(柳井康治氏)

柳井 康治 氏
記者発表会での柳井 康治 氏

「ドラえもん サステナモード」がグローバルサステナビリティアンバサダーに就任

 中でもメディアを驚かせた発表会は、2021年3月に開催された「ユニクロ『服のチカラ』サステナビリティアンバサダー発表会」だろう。この日、ユニクロは、従来のサステナビリティステートメントに加え、サステナビリティロゴを発表した。同時に、グローバルサステナビリティアンバサダーとして発表されたのは、なんと、緑色の「ドラえもん サステナモード」という新キャラクターだったのだ。

 以来、「ドラえもん サステナモード」は、ユニクロの様々なサステナビリティ関連のイベントに登場している。2023年4月にオープンしたユニクロ前橋南インター店でも、キッズコーナーの壁面に描かれたバタフライ図を案内していた。

ユニクロのグローバルサステナビリティアンバサダーの就任した「ドラえもん サステナモード」
ユニクロのグローバルサステナビリティアンバサダーに就任した「ドラえもん サステナモード」

「ドラえもん サステナモード」は未来を作るパートナー

 マーケティングが上手いと言われるユニクロ、ファーストリテイリングであっても、商品の広告とは違って、サステナビリティについての情報発信は簡単なことではない。「ドラえもん サステナモード」は、その課題を解決するための一つのチャレンジと言える。

 この「ドラえもん サステナモード」を生んだのは、マーケティングを統括する遠藤真廣執行役員(以下、遠藤氏)率いるチームだ。

 「サステナビリティ活動について、コミュニケーションしていく上で大事にしているのは、一つは難しいことを分かりやすく伝えなくてはいけないということ、もう一つは事実を正しく伝えなければいけないということ。加えて、インパクトも必要ですから、マーケティングとしてはとても難易度が高いと思っています。そこで、それを伝えるアンバサダーがいたらいいなと思って、部内でもずっと議論していました」(遠藤氏)

ファーストリテイリンググループ執行役員の遠藤真廣氏
ファーストリテイリンググループ執行役員の遠藤 真廣 氏

 遠藤氏は、2006年に大手飲料メーカーから中途入社して以来、ユニクロの商品マーケティングを担当してきた。2015年より海外に赴任し、ユニクロがスウェーデンのオリンピック・パラリンピックチームとパートナーシップ契約を結んだ際のマーケティングも担当した。2019年に帰国してからは、主にサステナビリティに関わる情報発信を担当している。

 「ある時、チームの若いメンバーから『ドラえもんを使って何かできませんかね?』と言われたんです。それで、アッ!と思った。ドラえもんとユニクロには、親和性や共通点があることに気づいたんですよ。まず、ドラえもんは日本を代表するキャラクターですが、いまや世界に通ずるキャラクターになろうとしている。2つ目に、ドラえもんは子供からも大人まであらゆる人に愛されているということ。3つ目に、ドラえもんは未来から来た猫型ロボットだということ。サステナビリティって僕たちの未来を作る活動だと思うんです。ユニクロと一緒にサステナビリティを語るアンバサダーとして、これ以上の相手はいないと思い、この3つを社内に説明し、提案したんです。しかも、通常のドラえもんとは違う『ドラえもん サステナモード』ができないか、と」(遠藤氏)

店舗イベントに登場した「ドラえもん サステナモード」

 この提案には、柳井社長を含め、社内で珍しく一発OKが出た。さっそく小学館と藤子プロに向かい、ドラえもんとユニクロの共通点を説明して「お互いに世界をよくしていきませんか」と伝えると、両者からもすぐに共感してもらえたという。

 これが2020年から2021年にかけてのことである。この時期は、コロナ禍のため、ユニクロでもなかなか思うようにマーケティング活動が展開できなかったはずだ。「ドラえもん サステナモード」は、そんな中でも倦まず弛まず、考え抜いたからこそ生まれたスマッシュヒットなのではないかと思う。

 次回「第3回 瀬戸内オリーブ基金への支援」は6月9日(金)掲載。ユニクロが22年間取り組んでいる瀬戸内海・豊島でのボランティア活動の軌跡、また支援のきっかけとなった建築家・安藤忠雄氏と柳井社長の交流について取材する。

著者:北沢 みさ