観光客で賑わう京都祇園に、以前から気になっていた喫茶店がある。小ぢんまりとしながらも、どこか華やかさ、品のある外観。中はきっと素敵なのだろうなと、これまで想像を巡らせるのみで利用したことがなかった。今回、周辺を散歩する機会があり、思い切って入ってみることにした。

以前から気になっていた「切り通し進々堂」に入ってみた

周辺には人気スポットが点在

 デスクに向かって執筆していると気分転換がしたくなる。そんな時、たまに散歩するのが祇園だ。仕事場からも徒歩20分ほどと近い。しかし最近は人出がスゴイため、出向く時はできるだけ週末を避け、空いていそうな時間帯を選んで歩いている。

 人気エリアなので、テレビドラマやCMでもよく目にするスポットも点在する。そのひとつは「巽橋」。周辺は、文化庁が「伝統的建造物群保存地区」に指定しており、このあたりはまさに「ザ・京都」の風景が広がる。

祇園にある「巽橋」は、テレビドラマやCMでもよく目にするスポットのひとつ

 四条花見小路交差点の東南角にある「一力亭」も有名だ。祇園商店街振興組合の公式Webサイトには「祇園の中でも最も格式の高い、由緒のある『お茶屋』」と紹介されている。

 歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」にも登場するほか、新撰組の近藤勇はじめ、多くの歴史的人物が通ったことで知られる。「一見さんお断り」で、誰でもが入れるわけではない。かつて、元ソビエト連邦大統領のミハイル・ゴルバチョフ氏が京都を訪れた際、入店を断られ、最終的に知り合いの知り合い、そのまた知り合いの紹介で、ようやく入れたと聞いた。

 景観の規制があるため、チェーン店もちょっと違う。四条花見小路を上がった(北進した)東側にあるローソンは一例。普通、看板に使われている鮮やかなブルーは落ち着いた色に変更、外観もかなり落ち着いたものにしているのは興味深い。

チェーン店も景観に配慮している。落ち着いた外観のローソン

 このように有名スポットを含め、あちこちをいつも歩くが、今回は目的地があった。それは、ある喫茶店だ。今までに何度か前を通ったことがあったが、実際に入ったことはなかった。

 小ぢんまりとしていながらも、どことなく華やかさ、品を感じる外観。店名は「切り通し進々堂」という。「切り通し通り」にあるので、この名前が付けられたのだろう。

 店頭にはテイクアウトができるデザートを販売するコーナーがある。また有名人のサインも飾られており、注目度の高いお店なのだと知った。

店頭にある、テイクアウトができるデザートを販売するコーナー
有名人のサインが書かれた「福玉」が並ぶ

素朴な味わいの「玉子サンド」

 訪れたのは午後2時過ぎ。人が少なさそうな頃を選んだが、予想的中、お客は私一人だった。

 注文を取りに来てくれたお姉さんにおすすめを聞く。メニューを見ながら「玉子サンド」に当たりをつけていると、「玉子トースト」もよく出るという。ほかにも、「キュウリサンド」も人気とのこと。結局、「玉子トースト」と「玉子サンド」の両方、そして「ミックスジュース」を頼んだ。

メニューを見て、「玉子サンド」と、店員のお姉さんにおすすめされた「玉子トースト」そして「ミックスジュース」を頼んだ

 事前にお店のことを調べると、創業は1960年とする記事を見つけた。確かに店内は年季が感じられる。しかし清潔感があり、花も飾られているなど、気づかいが行き届いているところに好感が持てた。

 壁に目を向けると、芸妓さんとか、舞妓さんの名前が記されているお札がたくさん貼られているのを見つけた。お店の方に聞けば、女性の髪を結うなど、花街に出入りする業者さんが、ご縁のある店を訪れて置いていくのだという。お札に「祝」の文字があるのは、お座敷に初めて上がるほか、お座敷に出て一定の年数が経ったのを記念してのものらしい。やはり祇園だな。

壁に目を向けると、芸妓さんとか、舞妓さんの名前が記されているお札がたくさん飾られている

 そうこうしている間に、注文の品が目の前に並ぶ。どうです、いい感じでしょう。

注文の品が目の前に並ぶ

 まずは玉子サンドから。柔らかいパンに、玉子焼きときゅうりが挟んである。一口食べると、塩で味付けされた素朴な味わいにグッときた。おぉ、いい!次は玉子トースト。パンが焼いてあり、具材は玉子のみ。サクッといただくと、これも香ばしいトーストの風味とマッチし、とてもおいしい。ミックスジュースで喉を潤しながら、ゆっくりと食べ進めた。

玉子焼きときゅうりが挟んである玉子サンド。素朴な味わいにグッとくる
玉子トーストをサクッといただく。とてもおいしい

 そうデザートも注文していた。店頭にあったショーケースに並んでいたものである。爽やかで、暑い季節にぴったりの見た目。スプーンを使って口に運ぶと、清涼感が口いっぱいに広がった。

デザートは暑い季節にぴったりの見た目。清涼感が口いっぱいに広がる

 しばらく店内にいると、地元らしきお客が数人来店した。一人は女性で、注文したジュースを飲みながら、オーナーと思われる女性と会話した後に出ていった。またある年配の男性は、地域の活動に従事する団体の方らしく、最近の動き、関心事などについて話していた。どの方も短時間だけの滞在で、ちょっとした休憩場所として機能する、地元に密着した喫茶店なのだなと感じた。

 満足である。祇園に来た時は、また立ち寄ろうと思いつつ、私は再び通りに出た。

著者:森本 守人