2023年6月30日、世界的ギターブランド「FENDER(フェンダー)」が東京・原宿に「FENDER FLAGSHIP TOKYO」をオープン。フェンダーにとって世界初となる旗艦店とあって、日本のみならず世界中で大きな話題を呼んだ。

オープンから5か月(注:取材は2311月)が経過し、客足や売上の状況はどう推移しているのか。これからどんな展開を構想しているのか。フェンダー ミュージカル インストゥルメンツ コーポレーション(米カリフォルニア)のアジア太平洋統括で、日本法人「フェンダーミュージック」(東京都)の代表取締役を務めるエドワード・コール氏に聞いた。

5か月で想定を超える多数の顧客やアーティストが来店!

フェンダー内観ディスプレイ
階段脇の壁にディスプレイされた愛用者たちの写真

 原宿・表参道の明治通り沿いに、地下1階から地上3階で構成されるFENDER FLAGSHIP TOKYO。外観はさながらハイブランドの店舗もしくは「Apple Store」のようで、店内に入ると、ブルーノ・マーズをはじめフェンダーのギターやベースを愛用する国内外のアーティストのパネルが出迎える。

 「代官山 T-SITE/蔦屋書店」 や「GINZA PLACE」などで知られる建築家ユニット「クライン ダイサム アーキテクツ」が店舗デザインを手がけたという店内にはフェンダー製のギターやベースが色とりどりにディスプレイされ、従来の楽器店とは一線を画したスタイリッシュな空間。ところどころに(ギターの弦を弾く)ピックを模したテーブルが置かれているのも印象的なアクセントとなっている。

ピック型のテーブル
ピック型のテーブル

 また、このFENDER FLAGSHIP TOKYOではギターやベースだけでなく、ファッションブランド「F IS FOR FENDER(エフ・イズ・フォー・フェンダー)」とカフェスペース「FENDER CAFE powered by VERVE COFFEE ROASTERS」を常設しているのが大きな特徴だ。ライフスタイルにまですそ野を広げることで消費者とのタッチポイントを増やし、フェンダーブランドの浸透を図っている。

 オープンから5か月が経過したが(取材時は202311月)、想定以上の国内外の顧客やアーティストが来店。売上も想定を大きく上回っており、同社にとって世界初となる旗艦店としては上々の滑り出しを見せている。

入門モデルを揃え、初心者でも入りやすい店内に

初心者をサポートするスタッフ
多数のアンプが並べられた防音ルームでは、好きなギターやベースを大音量で試奏できる

 ここからはフェンダーミュージックのトップであるエドワード・コール氏へのインタビューをお届けする。

 ラルフ・ローレン・ジャパンの社長やモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)のトラベルリテール部門の日本・太平洋統括を歴任し、トップブランドのマーケティングに一貫して携わってきた同氏。このFENDER FLAGSHIP TOKYOを通じてフェンダーブランドを日本国内で、そして世界でどのように発信し、成長させようとしているのだろうか。

――FENDER FLAGSHIP TOKYOのオープンから5カ月ほどが経過しました。今の手ごたえはいかがですか。

コール氏 これまでのところ、非常にいい結果が出ています。原宿・表参道エリアで、日本人のお客さまにも、外国人観光客のお客さまにも強くインスピレーションを与えることができていると思います。売上もすべての製品ラインで大変好調です。

――普段は楽器店に入ったことがない人でも入りやすい雰囲気の店内ですね。

コール氏 そう言っていただけるのはうれしいですね。店内は、店舗を訪れたお客さまが「私もいつかあんなふうに弾けるかもしれない」と思ってもらえるようビジュアルマーチャンダイズしています。スタッフも初心者の方々をサポートするための研修を受けています。

また、初心者の方にもおすすめの製品を多数取り扱うほか、周りを気にすることなく試奏できる超小型のパーソナルギターアンプ“Mustang™ Micro”とイヤフォンを各フロアの試奏スペースに常備しており、ギター/ベースを弾いたことのない方々でも安心して体験し、サポートを受けることができます。

旗艦店の存在が既存の楽器店の成長も後押し

フェンダー特別ルーム
3階完全予約制のカスタムオーダー用特別ルーム

――日本では、楽器店が販売代理店となってフェンダー製のギター、ベースやアンプを販売するビジネスモデルが定着しています。フェンダーが旗艦店を出したことで、それらの楽器店への影響は?

コール氏 おっしゃるように、私たちは全国の販売代理店とのネットワークを築いてきました。旗艦店をオープンしたことによって、それらの販売代理店の皆さんの成長もさらに後押しできていると思っています。

――成長を後押しできるとは、具体的には?

コール氏 ルイ・ヴィトンやシャネル、エルメスなど、先ほど名前を挙げた世界的ブランドは、80年代当時は百貨店にしか店舗がありませんでした。それが、日本の銀座や表参道などハイストリートに旗艦店を出したことが契機となり、ブランドがさらに大きな成長を遂げました。ナイキやアップルについても同様です。旗艦店を出すことで、ビジネスが成長した例は過去に数多く実証されています。

フェンダーも旗艦店を出すことによって、ブランドの存在感をさらに高め、音楽業界全体に前向きなプラスの影響を与えられていると思います。

たとえば、この店舗にはアパレルショップやカフェを併設し、普段は楽器店で買い物しないような消費者も迎え入れることを目指しています。この旗艦店が市場そのものを拡大する役割を果たすことで、販売代理店の成長を後押しすることができるのです。事実、各販売代理店の売上も二けた成長を遂げています。

「ラボ(研究所)」として常に進化させていく

FENDER CAFE powered by VERVE COFFEE ROASTERS
地下1階 カリフォルニアのコーヒーブランドVERVE COFFEE ROASTERSが監修するフェンダー初のオリジナルコーヒーショップ「FENDER CAFE powered by VERVE COFFEE ROASTERS」

――アパレルショップやカフェも話題となっていますが、これにはどういった意図があるのですか?

コール氏 私の過去の経験からも、これまでにブランドがファッションやライフスタイルの分野に参入した例は数多く見られます。たとえばエルメスは、もともとは乗馬用の鞍(サドル)を作る会社でした。ルイ・ヴィトンも、ヨーロッパから新世界へと船旅で移動する人たちのためのトランクを作る会社でした。ナイキも、ランニングシューズの会社から今日では世界有数のライフスタイル企業に成長しています。これらのブランドが、いまファッションの世界でどれほどの影響力を持っているかは説明の必要がないでしょう。

世界でナンバーワンのギター/ベースとアンプのブランドであるフェンダーが、80年近い歴史の中で、これまで現代音楽に与えてきた影響は計り知れません。そのことをふまえ、ぜひフェンダーとしても大胆に別の分野に参入してみてもいいのではないかと考え、ファッションやライフスタイル、そして飲食事業へ足を踏み出しました。

フェンダーアパレル
1階奥のアパレル売場

――今後はアパレルだけのショップ展開などもありえる?

コール氏 可能性としてはあると思います。そもそも、アパレルは急に思いついたわけではなく、実は77年のブランドの歴史と同じくらい、販売を続けてきています。

日本では、数年前にユニクロの協力のもと、フェンダーのロゴが入ったTシャツを試験的に販売するPoC(概念実証)を行いました。その結果、フェンダーブランドのTシャツを購入した90%が、実際にはギターを弾かない人だったということがわかりました。さらにTシャツを実際に購入した人の60%以上が女性でした。音楽やギターだけではなくて、ブランドとしてもフェンダーを認知している人が大勢いることがわかりました。

つまり、ファッションやライフスタイルは、彼らを私たちのブランドに引き込み、ギターを始めてもらうためにも有効なアプローチだと考えています。

また、当社の調査では、このコロナ禍で、アメリカでは1600万人が初めてギターを手にしたとの結果が出ました。そして、その50%は女性です。

こうした統計を反映して、この旗艦店のスタッフも半分以上は女性です。これも通常の楽器店にはない特徴です。

――東京での店舗を皮切りに、日本、もしくは世界各国に直営店を展開していく予定は?

日本法人「フェンダーミュージック」の代表取締役
日本法人「フェンダーミュージック」の代表取締役 エドワード・コール氏

コール氏 どんな店舗でも同じだと思うのですが、店舗というものは運営しながら常に進化させていくものだと考えています。言うなれば、店舗とはラボ(研究所)のようなものです。常に変化、発展していきながら、お客さまにベストな体験を提供できるようにしていきたいと思っています。

したがって、当面の優先事項としては、原宿・表参道というすばらしい通りにオープンした、この旗艦店のさらなる発展です。そして、これからさまざまに活用しうるモデルとなるよう、ベストな形を追求してきたいと思っています。

日本という国は、小売業に関しては世界で最も厳しい国です。日本人のお客さまはブランドへの知識が深く、品質やカスタマーサービスに対しても厳しい目をお持ちです。そのような場所で旗艦店を運営し、知見や教訓を蓄積した先に、他のアジア太平洋地域への拡大も考えられると思います。

 

著者:堀尾大悟