文=鈴木淨/Avanti Press

マクドナルド創業の裏側を描いた映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』の日本公開が迫っている。誰もが子どもの頃から黄色いMのロゴに親しんでいる世界的ファストフード店チェーンの誕生秘話というだけでも興味深いが、その内容も万人の好奇心をくすぐる“お家騒動”の物語である。

主人公は、アメリカでこのハンバーガー帝国を築き上げた男、レイ・クロック。52歳から成功をつかんだ遅咲きの億万長者だ。映画タイトルの『ファウンダー』(原題は“The Founder”)は「創業者」と言う意味だが、この題名は皮肉を込めて付けられている。厳密に言えば、クロックはマクドナルドの創業者ではなく「育ての親」なのだ。

主演は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされるなど立て続けに話題作に出演し、役者としてのキャリアハイ期間を享受している感のあるマイケル・キートン。同作は、全米では今年1月に公開済みだが、本国でどう受け止められたのだろうか。その評判を見ていこう。

各批評家がキートンの演技を絶賛

映画評まとめサイト「ロッテン・トマト」によれば、映画評論家による201の批評の84%がポジティヴに評価している(一般観客は82%が好意的な感想)。これはかなり高い数字だが、このうち「トップ・クリティクス」と呼ばれる一線級の評論家による42の批評に限って見ると、ポジティヴな評価は71%とやや減少する。

「今年、見なければいけないエンタテインメント作品の一つ」――ニューヨーク・オブザーバー紙

同作に肯定的なトップ・クリティクスの意見には、上記のように手放しで作品の出来を称えるものもあるが、一番にキートンのパフォーマンスを称賛している批評がほとんどだ。

「キートンの最高の仕事によって、アメリカが見事に切り取られている」――シカゴ・サンタイムズ紙の人気映画評論家リチャード・ローパー

「キートンのしびれるような演技が、このファストフードのゴッドファーザーの恐ろしさを実感させる」――ローリング・ストーン誌

「あざとくアメリカン・ドリームを体現する男、クロックを演ずるキートンが素晴らしい」――トリビューン・ニュース・サービス

また下記のように、作品自体にはネガティヴな評価を下しながらも、キートンの演技には賛辞を贈っているメディアも目立つ。

「映画としてはとても軟弱で冷めている。だが、キートンのパフォーマンスは最高で、彼が人生をかけて目指してきた1作品かも知れない」――カナダの全国紙、グローブ・アンド・メイル

「どっちつかずの作品」と否定的な意見も

クロックは、セールスマンをしていた52歳の時に、カリフォルニア州で画期的なハンバーガー店「マクドナルド」を経営していたマクドナルド兄弟に出会う。同店は、それまで注文から2、30分は待つのが普通だったハンバーガーを、マニュアル管理された効率的な流れ作業、使い捨てできる紙で包むアイデアなどにより30秒で提供するという「スピード・サービス・システム」で人気を博していた。

同店の将来性に目を付けたクロックは、言葉巧みに兄弟を説得して経営に参画。全米に店舗を出すフランチャイズ展開を押し進める。そのビジネスは軌道に乗るが、店舗の増加により商品やサービスの質が低下することを嫌う兄弟と全面的に対立することに。やがて、成功のために手段を選ばないクロックの恐ろしい裏切りが……。

小規模な商売で伝統やクオリティを守ろうとする先代と、拡大路線でより多く儲けようとする跡継ぎの争いのような物語。日本の老舗店などでもよくある普遍的な、それでいて無責任な見る側にとってはたまらなくスリリングなドラマが進行していく。

『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』に否定的な批評には、下記のような感想が多い。

「同作はマクドナルドそのもののようだ。つまり、満足させてくれるようでいて、物足りなさが残る」――デトロイト・ニュース紙

「結局のところ、極めてどっちつかずの作品。クロックが成功する不快さを洗い落としてもくれないし、それとしっかり向き合うこともできていない」――アトランティック誌

「同作は、主人公が絶好のチャンスをものにした英雄なのか、それとも冷酷な悪者なのかを決め切れていない」――ウォールストリート・ジャーナル紙

つまり、本来の創業者であるマクドナルド兄弟の意向を無視して大成功するクロックが「GOOD GUY」なのか「BAD GUY」なのかが、はっきり描かれていないという批判だ。とかくアメリカ人には、このあたりをはっきりさせたい傾向がある。

「資本主義経済とその犠牲を描いた作品」

だが個人的には、ある程度中立的な視点で描き、そのあたりの判断を観客に委ねてくれる同作の演出が好きだ。そんな作品に慣れ親しんでいる我々、日本人にとっては見応えがあるし、いろいろな意味で“向いている”映画だと思う。

プロデューサーのドン・ハンドフィールドもこう語っている。「映画を見た人の半分は『レイ(・クロック)はアメリカのヒーローだ』と言うだろうし、また半分は『やっぱりマクドナルド兄弟こそがアメリカのヒーローだ』と言うだろう。それでいいと思う」。

同作をどう捉えるかは個々の自由だが、記者には、ニューズデイ紙のこの批評が最も心に刺さった。

「資本主義経済とその犠牲をシャープに描いた同作に、キートンが特別な味付けをした」

アメリカン・ドリームの光輝く面と、その影の部分がシビアに描かれ、そのどちら側で生きる人間も同様に力強く、生命力に溢れている。あなたなら、どちらに共感しますか?

監督は『しあわせの隠れ場所』『ウォルト・ディズニーの約束』がアカデミー賞作品賞にノミネートされたジョン・リー・ハンコック。抑えた演出が効果的で、脚本家ロバート・シーゲル(『レスラー』)のアプローチも冴えている。

Facebookの創業秘話を描いて2010年度のアカデミー賞3部門に輝いた『ソーシャル・ネットワーク』との共通項を読み取りながら見るのも一興。『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』は7月29日(土)から日本公開となる。