『氷の微笑』(1992年)や『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997年)、既存の映画の常識を徹底的に破壊する作風で全世界に衝撃を与えてきたポール・ヴァーホーヴェン監督。あらゆる意味で「お騒がせ」な監督だが、8月25日(金)から公開される久しぶりの新作『エル ELLE』は、フランス映画として制作した。フランスを代表する女優イザベル・ユペールを主演に迎え、スキャンダラスなことこの上ない「女性映画」を作り上げた。本作はユペールがアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、ゴールデン・グロープ賞とセザール賞でそれぞれ2冠に輝く一方、そのあまりに過激な内容で、凄まじい賛否両論を巻き起こしている。

たったひとりで闘う女の暴走

映画はいきなり、ユペール演じるヒロインのミシェルがレイプされる場面からスタートする。全身黒ずくめの覆面男に犯された彼女は、ゲーム会社の社長。強引でワンマンなその経営手腕に恨みを抱いている社員も多い。また、彼女は幼少期にある事件に巻き込まれたことから、警察に対して不信感を抱いている。複雑な家庭環境でもあったため、独立独歩、己の才覚だけで生き抜いてきた。そんな、他人に依存しないライフスタイルを貫く女性が、もしも性暴力の被害に遭ったら? 本作は、その可能性をとことん突き詰め、途方もない結論にたどり着く。

そう、ミシェルは打ちひしがれるどころか、犯人を突き止めようとする。自力で復讐を遂げるのだ! だが、そこに至るまでの過程や最終的な決断は、観客の想像をはるかに超えた次元で行われる。もはやそれは「どんでん返し」などという、ありがちな展開にはおさまらない。私たちが驚くのは、物語に対してではない。美しいルックスからは想像できないほどタフなキャラクター性に、ショックを受けるのだ。

その知力、精神力にひれ伏す

実際、男性より非力な女性が多いことは事実だ。だから、忌まわしい事件も起きる。だが、知力や精神力においては、男性を上回っている女性の方が多いのではないか? と筆者は思うし、ヴァーホーヴェン監督も思っているのではないだろうか。主人公が試みる「反撃」のありようは奔放かもしれないし、常軌を逸していると感じる人もいるかもしれない。しかし、本作はあらゆる誤解を怖れず、女性の知力と精神力を讃えている。『エル ELLE』というタイトルはフランス語で「彼女」を意味するが、これはかなり変わったかたちの「女性讃美」なのだ。

他人に決して弱みを見せず、クールで非情、それでいてどこかチャーミングでセクシー。イザベル・ユペールが扮しているのはある種のスーパーウーマンだが、過酷な状況から逃げず、泣き寝入りせずに立ち上がり、自分なりのオリジナルな方法で真犯人=男を追い詰めていく姿には、理屈を超えた躍動がある。その、あまりに獰猛な知力とふてぶてしい精神力に、男性観客なら思わずこうつぶやくに違いない。「負けた」と。

性暴力は女性にとてつもない傷を残す。だから、その対処法を過剰にデフォルメしたこの映画が世界的に批判を受けているのも当然と言えば当然。だが、フィクションが、わたしたちのものの考え方を「改革」することだってある。劇薬かもしれない。だが、映画ならではのパワーが間違いなくある「問題作」である。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)