自らの体験をベースに紡がれたリアルなセリフと圧倒的な画力で、絶大な人気を誇る漫画家の魚喃キリコ。オダギリジョーの役柄へのハマりっぷりが話題の『南瓜とマヨネーズ』(11月11日公開)にちなみ、漫画『blue』『strawberry shortcakes』と合わせて、原作への思い入れたっぷりに映画化された魚喃ワールドの見どころをご紹介します!

“百合好き”じゃなくてもグッとくる!市川実日子と小西真奈美の制服姿が瑞々しい『blue』

まず1本目は、今年10月に公開された映画『月と雷』の安藤尋監督が、まだあどけなさの残る市川実日子と小西真奈美を主演に迎えて2003年に映画化した『blue』です。本作は海沿いの地方都市にある高校を舞台に、大人びた同性のクラスメイトに恋とも憧れともつかない感情を抱く多感な女子高生の姿を、シンプルかつ大胆なタッチで描いています。

魚喃自身もキャスティングに参加したというだけあって、原作の“桐島”と“遠藤”が放つ独特の凛とした空気感を、市川と小西が見事に体現しています。制服姿の二人が口づけを交わすシーンには、、女性同士の恋愛=“百合”好きならずともギュッと心を掴まれるはず。大友良英率いる“blueバンド”が手掛けるアコースティックなサウンドも、本作の世界観と絶妙にマッチしています。

魚喃キリコが“岩瀬塔子”名義で大胆な演技を披露した『ストロベリーショートケイクス』

続く2本目は、都会の片隅で“生きづらさ”を抱えながら、自分の居場所を探す4人の女性を赤裸々に描いた、魚喃のコミック『strawberry shortcakes』を矢崎仁司監督が、狗飼恭子の脚本で映画化した『ストロベリーショートケイクス』(2005年)です。新たな恋の訪れを待つフリーターの里子を池脇千鶴が演じるほか、安藤政信扮する菊地を一途に思い続ける人気デリヘル嬢・秋代役には中村優子。結婚願望の強いOL・ちひろと、ちひろの恋人・永井役を中越典子と加瀬亮が務めています。

特筆すべきは、過食症のイラストレーター塔子役を“岩瀬塔子”名義で魚喃キリコが自ら演じていること。魂を削って描いた原画を、新人編集者に紛失されるという強烈なエピソードも、魚喃本人が演じることでより一層“痛み”が際立ちます。ちなみに、劇中で塔子が描く設定の絵は魚喃作ではなく、アーティストの高木紗恵子によるもの。芥川賞作家の保坂和志が意外な役柄でカメオ出演しているのも見逃せません。

『南瓜とマヨネーズ』では、オダギリジョーがダメ男好きの女子を骨抜きにする!

そして3本目は、過去と現在の恋の間で揺れる女性の心理状態を描き、恋愛漫画の金字塔とも言われる魚喃キリコの名作を、冨永昌敬監督が映画化した『南瓜とマヨネーズ』です。主人公のツチダを臼田あさ美が演じるほか、同棲する恋人のせいいちに太賀が扮し、ツチダの昔の恋人ハギオ役にオダギリジョーを配するなど、キャスティングの絶妙さが話題となっている本作は、「みごとにのまれた、感謝!」と魚喃のお墨付き。

冨永監督が「ツチダそっくりな人を探した」という臼田あさ美もさることながら、オダギリジョーのハマりっぷりは見事です。このハギオという男は、昔の彼女にも平気で手を出す、根っからの女ったらしなのですが、どこか憎めないところがあって、「ツチダが骨抜きになってしまうのも無理はない」と思わせる魅力に溢れているのです。

魚喃ワールドの神髄は、ギリギリまでそぎ落とされた線で切り取った、ありふれた日常の描写と、剥き出しの感情が散りばめられたセリフ、そして胸がえぐられるほど切ないモノローグにあります。今回ご紹介した3本は、魚喃キリコが紡ぎ出す世界に共鳴した映画監督たちが、真空パックされたクールな原作に、ふわりと空気を流し込んだかのような作品ばかり。痛いのに、どうしようもなく愛おしい魚喃ワールドに、ぜひこの機会にどっぷり浸かってみてください。

(文/渡部喜巴@アドバンスワークス)