間もなく新年度ですね。
新型コロナウイルスによる感染拡大が続いた一年間でしたが、2021年3月卒業予定の大学生の就職内定率が12月1日現在、前年同期とくらべて4.9%減少し、82.2%に留まることから、多くの企業や団体(以下、企業等)では4月に新卒の新入社員を迎えることが予想されます。
また、人事異動や中途採用などで4月から新たに職場に加わる社員も多いと思います。
これらの「新人」社員の方々に対する教育・研修やサポートは、どのようにしたら上手くいくのでしょうか。
特に、今年はコロナ禍の真っただ中ということで、テレワークをすることになる「新人」や教育係となる「先輩」社員も多く、人事担当や職場の上司の皆さんの悩みの種となっているかも知れませんね。
そこで、「新人」の方々に対する教育・研修やサポートのポイントについて、メンタルヘルスの視点からわかりやすく解説します。

リアリティ・ショック

まずは、「新人」の方々に起こりやすい心理状況「リアリティ・ショック」や今年特有の状況についてお話します。
「リアリティ・ショック」とは、「新人」の方々が職場で働き始めた時、働き始める前に想像していたことと実際の仕事や職場とのギャップを感じることです。
リアリティ・ショックは、新卒社員だけではなく、異動などでも発生するとの指摘もあります。
リアリティ・ショックが大きい場合、その社員は職場適応に支障を来たし、最終的には離職してしまうこともあります。
したがって、リアリティ・ショックが少なくなるような取り組みが必要です。
では、どのようなことがリアリティ・ショックを少なくするのでしょうか。
ある研究では、若年ホワイトカラーの適応・不適応を分ける要因について、「個人要因」「環境要因」「サポート要因」ごとにその内容を分析しています。
これによると、上司、先輩などの同僚(以下、同僚)、同期社員など社内のさまざまな人からサポートを得ること、積極的にコミュニケーションを取り合って学習し合える職場であること、若手が同僚へフィードバックをしなければならない仕事であることなどが、サポート要因や環境要因として挙げられます。
また、本人の特性としては、積極的に学ぶこと、組織や同僚のために行動すること、新しいことにどんどん挑戦してみることなどが挙げられています。

【種類】
サポート要因
【要因】
他者サポート
【適応を促す内容】
多様なエージェント(筆者注:上司、先輩など同僚、同じ会社に入社した同期のこと)から万遍なくサポートが得られる

【種類】
環境要因
【要因】
職場特性
【適応を促す内容】
同僚が多忙過ぎず、積極的にコミュニケーションを取り合い、学習し合う職場

【種類】
環境要因
【要因】
職務特性
【適応を促す内容】
①フィードバックしなければならない状況を意図的に作り出す仕事
②同僚と相互にコミュニケーションを取り合う相互伝達型の仕事に携わらせる
③多少、ストレッチ(筆者注:負荷を掛けること)させる仕事は良いが、能力以上の責任や量を与えてストレスを覚えさせないようにする

【種類】
個人要因
【要因】
行動特性
【適応を促す内容】
①職場内外で、積極的に学ぶ
②組織や同僚のために行動する(返報性)
③良き人間関係を構築し、それを仕事に活かす
④直面した問題を先送りせず、解決を試みる
⑤新しいことにどんどん挑戦してみる

出所:尾形真実哉「若年ホワイトカラーの組織への適応課題と適応促進要因−複数のデータを用いた分析結果から−」(2016年、第45回日本労務学会全国大会統一課題シンポジウム「若者の採用・定着・育成をめぐって」 日本労務学会誌, 17(2), 68-76)を一部改変

また、新卒看護師を調査した別の研究によると、リアリティ・ショックに影響を与える要因として「精神的要因」と「看護実践能力」が挙げられています。
このうち「精神的要因」は、「精神的な落ち込みを感じる」「自己否定の気持ちがある」など、抑うつ的な状態を指します。
「看護実践能力」は、「看護実践能力や問題解決能力が不足している」「重症患者や患者急変時に対応ができない」「一人で業務を行うことに自信がない」など、職場で求められる職務の要求水準に応えられないと感じていることを指します。
この2つの要因のうち、「看護実践能力」は特に重要であると感じます。 なぜならば、職場においてきちんと仕事ができると認識することは、今後もこの職場でやっていけると自身の未来を楽観視できるからです。
看護師という患者の命を預かる仕事のため、職務の実践能力への認識が協調される結果となりましたが、どの職場においても「仕事がきちんとできる」と思えることは重要なのではないでしょうか。
以上のことから、「新人」の方々の職場環境としては、先輩などの同僚社員と「新人」とが相互にコミュニケーションを取りながら、仕事を教え、学ぶ環境であることが、リアリティ・ショックの低減に役立つと思われます。

コロナ禍とテレワーク

昨年1年間でテレワークをする従業員は大幅に増えましたが、課題もあります。 そのひとつが人材育成です。
厚生労働省の「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」には以下の指摘がされています。

「特に新入社員、中途採用及び異動直後の社員等に対し、対面でのOJTを行わずにオンラインのみで必要な研修・教育を行うことは困難である、本人にとっても質問がしにくく不安が大きい場合がある」
「意識的に対面の状況下でOJTを行うなどの工夫が必要」
出所:厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15768.html)

また、テレワークとメンタルヘルスとの関係について、前出「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」には以下の指摘がされています。
「テレワークを行う労働者は心身にストレスを感じるのではないか」
「テレワーク中心の働き方をする場合、周囲に同僚や上司がおらず、対面の場合と比較してコミュニケーションが取りづらい場合があるため、業務上の不安や孤独を感じること等により、心身の健康に影響を与えるおそれがあり、また、その変化に気づきにくい。メンタルヘルスの不調や、その重症化を防ぐために、オンライン上で双方向のコミュニケーションを取りやすくするなどにより、職場の上司、同僚、産業医等に相談しやすい環境を作ることが重要」
出所:厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15768.html)

以上のことから、「新人」の方々に対する教育・研修は、原則として対面で行うことが望まれます。
また、コロナ禍でのテレワークについて、コミュニケーションを上手く取ることによって社員の方々が孤独を感じることのないような取り組みが求められています。

「新人」教育・研修・サポートのポイント2021

ここまでを踏まえて、「新人」の方々へ教育・研修を行う際のポイントを以下にまとめました。

(1)教育・研修・サポート体制
まず、職場で仕事をする以上、「新人」の方々が仕事をしっかり覚えられる環境を作っていく必要があります。
従来から、多くの企業等では新人研修や集合研修、さらには職場の先輩などから直接教わるOJTと呼ばれる研修・教育が行われてきました。
しかし、コロナ禍においては、これらの教育・研修の実施が充分に行えないのではないか、と感じている人事担当の方々も多いかも知れません。
それでも、「新人」の方々は、先輩などと一緒に協力して行う業務に就くようにすることが重要です。
このことにより「新人」は、わからないことがあればその先輩に尋ねることとなり、また、尋ねやすくなります。
その一方で、先輩は「新人」にその業務をしっかり教える必要が生まれます。 なぜなら、「新人」の方々がしっかりと業務を覚えてくれないと、一緒に行っている業務の成果が上がりにくくなるからです。
現在、テレワークを導入している企業等も多いかと思いますが、このような「新人」とその教育係となっている社員の方々については、可能な限り出社して業務を行うことをお勧めします。

(2)コミュニケーション
「新人」の方々は、入社してしばらくの間は強い緊張が続くことも多く、また、不安になりがちです。
このため、ともに仕事をする上司や同僚から気軽に話をする機会を作りたいものです。
一例を挙げると、簡単な雑用を手伝ってもらうなどです。
その作業の合間に、少し会話を交わす、などを積み重ねることによって、「新人」の方々は、職場に「顔馴染み」を増やすことにつながり、職場に慣れていくことになるかと思います。
また、テレワークを導入している企業等を含めて、たとえば週に1回、各参加者がお茶とお菓子を持ち寄り、「リモートお茶会」をしながら進捗報告を行うなど行うのはいかがでしょう。
ポイントは、雑談を含めて気軽に話ができる環境を作ることです。
人事担当や上司の方々は、ぜひこの点にご配慮をいただければ、と思います。

(3)運動
コロナ禍が続く中、なかなか運動しづらいと感じている方は多いのではないでしょうか。
スポーツジムに行くのもちょっと…と感じている方もおられかと思います。
ご存知の方も多いかと思いますが、運動はストレス軽減に役立ちます。
特にジョギングなどの有酸素運動を行うとストレス耐性が強くなると考えられています(レイティ,J・ヘイガーマン, 2009, P.91)。

関連記事:新型コロナウイルスの影響で危惧される運動不足とメンタルヘルスの関係(https://news.doctor-trust.co.jp/?p=45842)

ぜひ、職場の中でも、仕事が終わった後でも、少しでも運動をすることを促したいものです。
ちなみに、ドクタートラストでは、原則として毎営業日の午後3時に、全社一斉に体操を行っています。
最近はテレワークの社員のために、社内で体操を行っている様子を動画でテレワーク社員向けに流し、自宅で仕事をする社員も出勤している社員と一緒に体操する取り組みを行っています。
最後に、今年は新型コロナウイルスによる感染状況が続く中で「新人」の方々を各職場に迎えることになります。
職場の人事担当や上司の皆さんにおかれては、ぜひ、「新人」の方々や職場の皆さんのストレスを軽減しつつ、「新人」の方々にしっかりと仕事を覚えてもらえるような工夫をしていただけると、職場全体が生き生きしてくるのではないかと思います。

<参考>
・ 平賀愛美、布施淳子「就職後3ケ月時の新卒看護師のリアリティショックの構成因子とその関連要因の検討」(2007年、「日本看護研究学会雑誌」30(1), 97-107)
・ 厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15768.html)
・ 厚生労働省、文部科学省「令和2年度大学等卒業予定者の就職内定状況(12月1日現在)を公表します〜大学生の就職内定状況は82.2%〜」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000184815_00010.html)
・ 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「テレワークの労務管理等に関する実態調査(速報版)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14849.html)
・ 尾形真実哉「若年ホワイトカラーの組織への適応課題と適応促進要因−複数のデータを用いた分析結果から−」(2016年、第45回日本労務学会全国大会統一課題シンポジウム「若者の採用・定着・育成をめぐって」 日本労務学会誌, 17(2), 68-76)
・ 小川憲彦「リアリティ・ショックが若年者の就業意識に及ぼす影響」(2005年、経営行動科学18(1), 31-44)
・ ジョンJ.レイティ、エリック・ヘイガーマン(著)、野中香方子(訳)『脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方』(NHK出版)