新型コロナウイルスの流行は、皆さんの心にどんな変化をもたらしましたか?
全国で緊急事態宣言が発令され、これまで当たり前だった日常生活が当たり前ではなくなりました。
感染に対する恐怖、先行きの見えない不安、人に会えない孤独感、自由が制限される怒りなどに、苦しんだ方も多かったのではないでしょうか。
しかしそれは、新型コロナウイルスの流行がピークを迎えていたときの話です。
緊急事態宣言が解除され、日常生活を取り戻しつつある今、皆さんの心の状態も良くなったのでしょうか?
実は、今「会社へ行きたくない」「調子が悪い」という方が増えているのです。
今回は、この原因である「アフターコロナストレス」をわかりやすく解説します。

アフターコロナストレスとは


アフターコロナストレスとは、その名の通り、新型コロナウイルスの流行状況が落ち着いた「アフターコロナ」の今、人々が感じやすくなるストレスのことです。
アフターコロナストレスには大きく分けてふたつの要因があります。

要因① 今回の日本のテレワーク≒大人の長期休暇
ひとつめの要因は、今回多くの方が経験したテレワークが大人の長期休暇に近い状態になってしまっていたことです。
本来であればテレワークは、事前に十分な準備、調整をおこなって実施するものです。
そもそもテレワークの導入は可能なのかという検討から始まり、必要な機材の手配、ルールやコミュニケーション方法の設定など、多くの過程を経て、テレワークでも普段と変わらない仕事ができるようになるのですが、今回は多くの方が突然テレワークを強いられて、準備時間がありませんでした。
準備不足のままとりあえず導入したテレワークで、普段通りの仕事ができるでしょうか。
大半の方が、出社時と全く同じように働くことはできず、何もすることのない空白の待機時間を持て余すことになりました。
実際に「テレワーク中やることがないのでただ読書をしたりゲームをしたりしていた」という話を耳にすることもあります。
そうなってしまうと、テレワークと言いつつも、ただの長期休暇に近い状態ですよね。
そのテレワークが終わった今は長期休み明けと同じなのです。
たとえば学生時代の長期休み明けを思い出すと、どうでしたか?
朝起きられなくなったり、学校へ行くのが億劫になったり、勉強のやる気が起こらなかったり、体の不調におそわれたり、大きなストレスを感じていたのではないでしょうか。
今、大人の私たちも同じストレスを感じているのです。
つらいのも無理はありません。

要因② 新型コロナウイルスの感染拡大=特殊災害
ふたつめの要因は、新型コロナウイルスの感染拡大が「特殊災害」だったことにあります。
「災害」と聞くと、地震や大雨などを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、特殊災害は自然災害とは異なり、CBRNEを起因として発生する緊急事態のことを指します。
CBRNEとは、Chemical(化学)、Biological(生物)、Radiological(放射性物質)、Nuclear(核)、Explosive(爆発物)の頭文字をとったものです。
記憶に新しい出来事では、1995年に発生した「地下鉄サリン事件」や2011年に発生した「福島第一原子力発電所事故」が特殊災害に該当します。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大は生物(病原ウイルス)による特殊災害でした。
特殊災害の特徴として、その他の災害よりも大きな社会的混乱が発生しやすくなることが挙げられます。
今回も、未曾有の脅威に対し、報道が過熱し、嘘か本当かもわからないような噂やデマが横行し、日本中が大混乱に陥りました。
また感染者や医療従事者に対する差別や誹謗中傷が大きな問題となりました。
その中に身を置くことで、誰もがストレスを感じやすく、精神的な不調や、飲酒量・喫煙量の増加などの健康リスク行動、心的外傷後ストレス障害(PTSD)をはじめとした精神障害などに陥りやすくなります。
一般的に、災害による心のダメージは数日ですぐに元に戻るということはありません。
災害発生後、急性期、反応期、修復期、復興期を経て、半年くらいの時間をかけて少しずつもとに戻っていくものです。
今はちょうど、反応期から修復期にいらっしゃる方がほとんどです。
まだ辛い気持ちが残っていてもおかしくないのです。
これらを要因として、今、元気が出づらい状態になっている方は多くいらっしゃいます。
でも、過剰に心配することはありません。
いずれの要因も、時間が経つことによって自然と回復していくケースがほとんどです。
長期休み明けの登校も、いつの間にか良くなっていきましたよね。
また災害後の心のダメージも、多くの方は半年以内によくなります。
それまでの間、少しでも心のダメージを減らすために、アフターコロナストレスを和らげるためのセルフケアをおこないましょう。

アフターコロナストレスを和らげるために大切なこと


では、アフターコロナストレスを和らげるためには、どんなセルフケアが有効なのでしょうか。
セルフケアの方法は細かくお話するとたくさんありますが、皆さんの心に最低限とどめてほしいことは「心と体を休めること」と「楽しむこと」です。
このふたつを意識的に大切にすることがセルフケアにつながるからです。
とはいえ皆さん、こんな風に思いませんか?
「感染者や医療従事者が苦しんでいて、世間もまだちょっと自粛ムードが残っているのに、のんきに休んだり楽しんだりしていいのか?」と。
このように遠慮している声をたくさんお聞きしますが、皆さんが楽しむことと、今苦しんでいる人がいることは別の話です。
むしろ、今皆さんが元気に過ごすことや、健康に働くこと、楽しむことによって、経済が回り、結果的に苦しんでいる人の役に立てるのではないでしょうか。
考え方ひとつで、休むことも楽しむことも、悪いことではないとわかりますよね。
このように同じ出来事でも、自分の受け止め方を変えてみるだけで心が楽になることがあります。
皆さんは、良い出来事があれば喜び、悪い出来事があれば悲しんだり怒ったりしますよね。
しかし実は世の中に良い出来事も悪い出来事も存在していません。
皆さんが自分の受け止め方や解釈で、出来事に「良い」「悪い」などの意味づけをおこない、その結果、喜んだり悲しんだり、心と体に変化が起こっているだけです。
この受け止め方や解釈のことを「認知」とよびます。
何事も良いことになるか悪いことになるかは自分の認知次第なので、もし皆さんの中につらい気持ちがあるのであれば、それは今起きている出来事ではなく、自分の認知が原因です。
今回の新型コロナウイルスのように、ストレスの原因となっている出来事を遠ざけることができないときは、認知を修正するだけでも心が落ち着くかもしれませんね。
たとえば今の状況について考えてみましょう。
「新型コロナウイルスが流行し、緊急事態宣言が発令・解除され、リモートワークが終了し、新しい生活様式へと変化した」という出来事が起こっています。
この出来事に対し「何をしていても感染が不安だし、出社するよりリモートワークの方がよかった。もう自分は出社する必要もないのでは?悪いことばかり起きていて未来に希望なんてない……」と受け止めると、気持ちは後ろ向きになっていきますよね。
しかしこの認知を修正して「感染予防に努めて元気に会社へ行こう!出社して同僚と会えてうれしいな。みんな会社に必要なメンバーだと実感できたし、会社でしかできない仕事ができるから悪いことばかりじゃないぞ。コロナの状況も良くなってきたし、心のダメージも時間とともによくなっていくし、未来に希望はある!」と受け止めてみると、同じ出来事でも前向きな気持ちになれますね。
この認知の修正がセルフケアに繋がります。
そうは言っても、すぐに認知をがらりと修正することは難しいかもしれません。
慣れないうちは頭の中で考えるだけではなく、紙に書き出してみることがおすすめです。
小さなことでも、何か気持ちが後ろ向きになったときに、出来事と自分の認知を書き出してみて、少しずつ修正していくという習慣を身に付けるようにしましょう。

よく眠り、よく食べ、楽しく健やかに!


そのほかに大切にしていただきたいことは、よく眠り、よく食べ、楽しく健やかに過ごすことです。
ただなんとなく眠っていませんか?
睡眠は時間を確保することだけでなく、質を高めることが重要です。
睡眠の質を上げる方法はいくつかありますが、まずは規則正しい生活を送り、体内時計を整えてみましょう。
出社日も在宅勤務日も休日も、毎日同じ時間に寝起きすることが大切です。
また朝は起きたらすぐにカーテンを開けてしっかりと日光を浴び、夕方以降は強い光を避けて優しい光のもとで過ごすことも有効です。 夜寝る直前までパソコンで仕事をしていて脳が「仕事モード」になっていると深く眠ることができませんし、ベッドの中でスマホを使っていることも、ブルーライトによって目が覚めてしまう原因となります。
そのほか、寝る前にカフェインやアルコールを摂ることも、睡眠の質を下げるもとになりますので避けたほうがいいですね。
食事に関しては、長引く自粛生活の中で、すでに健康のために気を遣っていらっしゃる方も多いと思います。
栄養バランスの維持や体重の増加に気を付けて食事を選ぶことも、もちろん大切です。
しかし皆さんは、自分の心に気を遣った食事をとることはできていますか?
食べることは、体の健康だけでなく、心にも影響します。
ただ食べるだけでなく、おいしく、楽しく、食事をとることが心の栄養になるのです。
いつもひとりで食事をしているという方は、オンラインでも構いませんので、家族や友人、同僚と一緒に、会話を楽しみながら食べてみましょう。
誰かと一緒に食事をすること(共食)は良好な心の状態と関連があるという研究結果が数多く発表されています。
参照:農林水産省「コラム:食事を共にする頻度が高い人は、食生活が良好な傾向」

中には、ほとんど毎日誰かと食事をしているという方は「自殺念慮(自殺することについて思い巡らすこと)」を訴える割合が低いという研究結果もあります。

出典:川崎末美「食事の質、共食頻度、および食卓の雰囲気が中学生の心の健康に及ぼす影響」(日本家政学会誌.2001;52:923〜936)

誰かと一緒に食事をとることは心の健康に必要なことなのです。
また、いつも自宅で同じようなものばかり食べているという方は、たまには「プチ贅沢」として、お店で美味しいものをテイクアウトしてみたり、3つの密を避けながら外食をしてみたりすることもおすすめですよ。
睡眠や食事など、日々の暮らしを健やかに、楽しく続けていくことは、当たり前のことかもしれません。
しかしその当たり前をきちんとおこなうことが、この時期には重要なのです。
アフターコロナの今、ストレスを感じている方はあなただけではありません。
ですから、ひとりで抱え込まず、誰かに頼っても大丈夫ですよ。 時間とともに良くなっていくという希望を持ち、日々楽しみながらセルフケアに取り組みましょうね。