池袋暴走事件の被害者である松永拓也さんが、関東交通犯罪遺族の会(あいの会)の代表者とともに厚労省へ被害者休暇の義務化についての要望書を提出しました。事故・事件・犯罪と聞くと「自分には関係ない」とどこか他人事に思っていませんか?
しかし、自分や大切な人がいつ事件に巻き込まれるかわかりません。今回は「被害者休暇制度」についてお伝えしていきます。

被害者休暇制度とは

「被害者休暇制度」とは、犯罪や事件・事故に遭った被害者が(もしくは家族が被害にあった場合)メンタルの回復や警察への事情聴取、また裁判への参加などに利用できる休暇制度です。
現状では、厚労省より任意で設定できる法定外休暇としての推奨に留まっており、義務付けられていません。「被害者休暇制度」はまだまだ認知度は低く、今回はじめて耳にしたという方も多いのではないでしょうか。
令和元年度に行われた、株式会社日本能率協会総合研究所の調査では、被害者休暇の認知度(企業側)は9.6%にとどまり、導入している企業に至ってはわずか1.7%という結果でした。同調査によると未導入の理由は
「労働者からの要望がないため」
「従業員が犯罪等の被害にあった場合に個別に対応する予定であるため」
という回答が多く、休暇を利用する機会が少ないので制度化に踏み切れていないという企業が多いようです。

被害者休暇がなぜ必要なのか

続いて、被害者休暇がなぜ必要とされているかお伝えします。

① 被害者には「二次被害」がある
被害に遭った方は、事件後も精神的ストレスや身体の不調、経済的困窮、また裁判の過程での精神的・時間的負担、さらにマスコミや周りの人のうわさ話による精神的被害などさまざまな「二次被害」が予想されます。
こうした二次被害による精神的ストレスの回復に必要な時間が取れず鬱状態に発展したり、最悪の場合、自殺に至るケースも想定されます。

② 有給では足りない場合がある
事件・事故のケースにもよりますが、警察の事情聴取や証拠提出、また怪我をした場合は入院、被害に遭った家族が死亡した場合は葬儀の準備や身の回りの整理、役所への手続きも必要となります。
さらに、裁判を行う場合は弁護士への相談や出廷などが必要となり、10回以上裁判が行われることもあります。
このように、被害に遭った本人・遺族は多大な精神的ストレスを抱えるだけではなく、膨大な時間を割かなくてはならない状況に置かれます。
有給が足りず欠勤扱いとなった場合、経済的に通常の生活が困難になる可能性もあります。
従業員がいち早く今まで通りの生活に戻り、仕事ができるようサポートしていくためにも、被害者休暇が必要とされています。

どうやって導入する?

「必要性はわかったけど、すぐに必要なものでもないので導入は厳しそう……」と感じた方も多いのではないでしょうか。
厚労省では、被害者休暇制度を新設する他に、2つの方法を提案しています。

① 既存の特別な休暇制度を活用通常の有給以外の特別な有給をすでに導入している場合は、その有給の対象に犯罪被害などを含み、就業規則などに明示する
② 被害者になった場合に、必要な休暇を付与する旨を社内周知休暇制度としては設けないが、いざという時は申請することによって取得が可能という旨を従業員に周知する新たな休暇制度を設けるのは難しい場合は、上記のような方法で従業員に伝えるだけでも、いざという時役立つのではないでしょうか。

「被害者休暇制度」を創設するときは、どのような犯罪被害を対象とするのか、休暇日程の上限などを社内で話合うことが必要です。
厚労省で公表しているリーフレットでは、休暇制度を設けた際の就業規則例も掲載されておりますので、一度参考にしてみてもいいかもしれません。
「犯罪」となると、なかなか身近に感じにくいかと思いますが、痴漢や暴行・金銭トラブルと言いかえると身近に感じるのではないでしょうか?
そういった事件に巻き込まれたときに利用できる制度が会社にあるという事実だけでも、従業員の精神的負担や会社への信頼度は大きく変わってきます。
まずは、従業員にこういった制度の要望はあるか聞いてみたり、社内周知からはじめてみてはいかがでしょうか。

<参考>
・ 厚生労働省「犯罪被害者の被害回復のための休暇制度」
https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category4/h29_hanzai.pdf

・ 株式会社日本能率協会総合研究所「令和元年度『仕事と生活の調和』の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査報告書」
https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category4/20201106_1.pdf