上場企業を中心に業績拡大が続く。「働き方改革」も進む。しかし、働く人の不満はくすぶる。社員が納得する職場づくりは、急務である。労働力不足は深刻化する。社員の定着率を高め、労働生産性を上げることは至上課題だ。経営層には株主だけでなく、社員への配慮も強く求められている。社員の声に耳を傾ける試みを紹介したい。

 東急リバブルでは、全社員が人事部にさまざまな相談をいつでもできる。メールでアプローチする社員もいれば、人事部を訪れる社員もいる。地方支社の社員が連絡をすれば、人事課長が支社に出向き、上司や同僚に知られないように喫茶店で相談に応じる。メールやテレビ電話会議システムは、記録を残さないようにあえて使わない。「社員が話したことは人事部内で厳重に管理され、漏れたことはない」(棟方雄一人事課長)

 相談内容は日々の仕事、人間関係、人事評価、配置転換、労働時間、休業や退職に及ぶ。最も多いのは、上司との関係のようだ。人事部の担当者は徹底して聞き役に回る。「悩みを聞いてもらえるだけで十分です」と帰る社員が多いという。ハラスメントをはじめ労務問題ならば、社員本人の了解のうえ、解決を早急に図る。この面談は、社員が納得して働ける職場をつくることが目的。年間150件ほどの相談があるようだ。

 城北信用金庫は、20代の職員1人が3人の先輩職員から丁寧な指導・育成を受ける。2人は中堅の職員で、日々の仕事を個別指導で教える。3人をつけるのは、1人が不在のときにもう1人が職場にいて指導ができるからだ。残りの1人は、メンタル面で支援をする。

 本部の採用研修部は、各部署や各支店から20代の職員の指導・育成の現状報告を随時受ける。部長は、新入職員約100人が書く研修ノートを読んで気がついたことを書き添え、本人に返すことを続ける。「現場で起きている課題をすくいあげることで、指導・育成の質を高めたい」(枝村治信採用研修部長)

 始まったのは5年前だ。30代の職員が少ないことで、20代の職員に仕事を教える機会が減ると予想された。それを未然に防ぐことを目的に作り上げた。若い職員の離職防止につながり、20代半ばで大きな額の融資案件を成立させる職員が増えたという。

 JXTGエネルギーは総労働時間の削減をめざし、社員の意識改革と管理職のマネジメント改革に力を入れる。2014年からは「さよなら残業〜Action8〜」運動として取り組む。マネジメント改革には、次の四つの運動がある。「時間外労働命令フローの徹底」「いつまでどこまで」「管理職は率先して休む」「自分のことは自分でやる」

「時間外労働命令フローの徹底」では、所属長が残業を命じない場合、一般職(非管理職)は必ず定時で退社。「いつまでどこまで」では、所属長が部下に業務命令をする場合、あいまいな内容を避けるものだ。特に「目的・期限(いつまでに)・品質(どこまで、どの程度するべきか)」は必ず明確にする。部下は他の業務により、命令にすぐに対応できないときは事情を伝え、判断を仰ぐ。

「管理職は率先して休む」では、管理職は年度末に未取得の年次有給休暇が5日を超えた場合、理由を担当役員に報告する。いっそうの取得を促進するためだ。「自分のことは自分でやる」では、所属長は原則として業務上の資料や原稿を自分で作成し、部下に命じないこととした。

 3社の事例は、上司と部下の間などに人事部が何らかの形で入ることで、現場の声をすくいあげる試みとも言える。職場環境に対する意見や批判もあれば、経営に向けられた提言や苦言もあるのかもしれない。それでも耳を傾ける寛容さや誠実さがある。聞きたくない声も聞く──。職場の民主主義の原点が、ここにある。(ジャーナリスト・吉田典史)

※AERA 2018年4月30日−5月7日合併号