新型コロナウイルスの対応で、国の借金が膨らみ続けている。20年度に新規発行する国債は、リーマン・ショック時を上回り過去最大の90.2兆円。財政状況の悪化が続けば、国や通貨の信用が失われ、ハイパーインフレ(超インフレ)や財政破綻などが懸念される。もはや、国が事実上の預金封鎖で借金を相殺することも現実味を帯びている。



 日銀が民間金融機関から国債を買い入れると、それに見合う形で、民間金融機関が日銀当座預金に預けている準備預金の「超過準備」が積み上がる。

 そもそも民間金融機関は、預金の一定割合を日銀当座預金に積み立てる義務があり、法定の金額を超えたものが超過準備だ。民間金融機関は低金利のもと運用しにくく、ひとまずこの超過準備が増えているのだ。民間金融機関が銀行間で約束手形や外国為替取引などを決済するには、日銀当座預金を通じてしなければならない事情がある。最近の準備預金の水準は400兆円規模で、法定の10兆円前後を除いた残りが超過準備となっている。

「いまの財政状況は厳しいが、大量に国債を発行しても国債を消化できるのは、日銀が後ろから“バックファイナンス”しているから。いまは日銀が国債を買っても超過準備に変わるだけだが、金利の低い状態がいずれ元に戻って上昇し始めると、債務の利払いコストが顕在化する。最終的に、財政インフレになる可能性があります」

『預金封鎖に備えよ』(朝日新聞出版)の著者で元財務官僚の小黒一正・法政大学教授はそう語る。ハイパーインフレでなくても、物価上昇率が十数%になる可能性があるという。

 ハイパーインフレになる以前に、円安による輸入物価上昇など何らかの要因で物価が上がって長期金利も上がると、政府は国債の利払い費用を捻出できなくなる。また、長期金利の上昇は国債価格の下落となり、国債を大量保有する日銀の資産が毀損する。

 あるいはインフレで、日銀が「国債をもう買い入れたくない」という姿勢を示すと、政府はたちまち予算を組めなくなる。財政法は、国債を日銀が直接引き受けることを禁じているものの、国会の議決があればできるので、この財政ファイナンスに政府が踏み切ることもある。『預金封鎖に備えよ』では、財政ファイナンスにより、長期金利が上がり高インフレになる可能性があるとする。仮に政府が財政ファイナンスに踏み切れば、「日本の破綻」を世界に発信することになり、円が暴落しかねない。

 こうした状況に陥ると、やれることは限られる。

 日本のバランスシート(貸借対照表)は、国の借金に対して、国民の預金で相殺する形になっている。その手法は、高インフレを放置しつつ、通貨の価値を下落させるものだ。例えば、物価が10倍となる高インフレで、1億円の借金は実質的に1千万円に減る一方で、1億円の預金は1千万円の価値に目減りする。社会全体としては、あくまで“ゼロサムゲーム”なのだ。

 もう一つは、事実上の預金封鎖だ。終戦直後に実施されたが、現行の憲法は財産権を規定しているため、実施は難しいとされる。けれども、小黒さんが唯一、合法的にできるとみるのは、民間金融機関が日銀に預けている準備預金の準備率を変えることだという。

「準備率は最大20%まで引き上げることができ、預けている準備預金を引き出せないようにするのです。事実上の預金封鎖です」

 いまの準備率は1%前後(最大1.3%)だが、これを引き上げて民間金融機関からお金を吸い上げる“裏ワザ”だ。

 さらに『預金封鎖に備えよ』では、こんなシミュレーションも紹介する。超過準備の大半を民間金融機関が引き出せないようにし、その利息をマイナス100%にするというものだ。政府の債務を部分的に処理してしまおうという意図だ。こうした手法によって、民間金融機関が破綻すれば、そのしわ寄せは国民の預金に及びかねない。

「いまの段階ならまだ間に合います。いまの状況を続けることはできません。財政の議論を始めないといけません」と小黒さん。

 日本は2024年に、お札のデザイン刷新を予定する。足元ではマイナンバーを預金口座にひもづける議論もくすぶる。これらが結果的に、事実上の預金封鎖につながらないことを祈りたい。(本誌・浅井秀樹)

※週刊朝日2020年7月17日号より抜粋