学生起業家たちは、どんなきっかけから、何を思い事業を起こそうと考えたのだろうか。「大学発ベンチャー」を特集したAERA 2021年3月29日号は彼らのリアルに迫った。



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 大学3年次にカルチャーブランド「Ay」を立ち上げた村上采さん(22)の目標は、“文化を織りなおして”世界に通用する地域ブランドを作ること。コンゴ民主共和国の伝統生地「リプタ」や、群馬・伊勢崎の絹織物「銘仙」をリブランディングしたファッションアイテムを製造・販売して、現地の雇用創出や伝統文化の再興に力を注ぐ。

「高校1年で米国留学したとき、南アフリカの友人と出会ったことがきっかけでアフリカや国際協力に関心を抱くようになりました。大学ではコンゴと10年以上交流がある長谷部葉子研究会に入り、2年次の終わりには渡航して、現地で起業家育成プログラムやビジネスコンテストなどを開催しました」

■格差や貧困を解消

 研究会のコンゴ・プロジェクトでは現地の人々の雇用創出能力を育てることで、格差や貧困を解消していく視点を学んだ。さらに村上さんは、現地のNGOと協同して、コンゴの女性たちが現地の布を使い日本人向けの洋服を製造・販売するアパレル事業を立ち上げた。

「最初、私がデザインした服のパターンを渡して作ってもらったのですが、日本で売れるクオリティーに達していなくて。それで『何でも言い合えるくらい仲良くなるしかない!』と、単身でコンゴの大学寮に住み込んで交流を深め、少しずつ品質を向上していきました」

 服はネットショップのほか、百貨店などのポップアップストアでも販売。銀座のマロニエゲートに出店した際は、延べ200人を集客した。コロナ禍でコンゴでの事業が休止となった昨年からは、衰退産業となってしまった地元の「伊勢崎銘仙」をアップサイクルした洋服や小物の製造を手掛けている。

「埋もれている国内の伝統文化に、現代のセンスやテクノロジーを掛け合わせて“織りなおす”ことで、新しい価値を次世代へと紡いでいきたいです」

 一方、「ブイクック」代表の工藤柊(しゅう)さん(22)は、ヴィーガンに特化したサービスを展開することで、「誰もが気軽にヴィーガンを選択できる社会」を実現したいと考えている。

 工藤さんがヴィーガンを実践し始めたのは高校3年生のとき。車にひかれ放置された猫の死体にショックを受けて動物倫理を学び始めたのがきっかけだ。さらに幼いころから関心を持つ環境問題にも、ヴィーガンが深く関わっていることを知った。

「1食分をヴィーガン食にするだけでも、自動車の走行距離9.6キロ分のCO2が削減できたり、水の消費量を370リットル抑えられたりするというデータもあります。普段の食事を変えるだけで環境負荷が減らせるのであればと思い、次の日からヴィーガンを始めました」

 だが、初めは何が食べられるのかがわからず、塩おにぎりや野菜の水炊きばかり食べていた。その経験から、日本初のヴィーガンレシピ投稿サイト「ブイクック」を設立する。

■2200のレシピ投稿

「卵を使わないオムライスや豆腐で作るバターなど、植物性食品だけで作れる料理が現時点で2200レシピ投稿されていて、毎月約9万人に利用いただいています。最近は、健康やダイエットのほか、体のパフォーマンスを高めたいとヴィーガン食を採り入れるアスリートも増えているんです」

 3月から、ヴィーガン総菜のデリバリーサービス「ブイクックデリ」も開始。サブスクリプションによる受注生産で12メニューから6食ずつ宅配され、初月は約2千食を配送予定だ。

「ヴィーガンが孤立や息苦しさを感じることなく、楽しく食卓を囲める。他者を思いやって行動する人が生きやすい社会を実現するために行動したいです」

 学生の起業動機はそれぞれだが、共通していたのは「より良い社会に」との思いだった。この思いこそが学生ベンチャーのエネルギーの源だ。(ライター・澤田憲)

※AERA 2021年3月29日号より抜粋