ビギナーが迷わないように、余計な選択肢は省略。現状の最適解、「つみたてNISAのはじめ方」「買うべき投資信託」を投資アドバイザーの若林史江さんがズバリ。「AERA Money 2022秋冬号」より。

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 岸田政権が国策として打ち出した「資産所得倍増プラン」。その目玉政策になりそうなのが、NISA(少額投資非課税制度)、つみたてNISAの制度恒久化や、毎年の非課税で投資できる金額を増やすなどの拡充策だ。

 制度変更の具体案が判明するのは2022年12月。本格的なスタートは、一般NISAが終了し、新NISAがはじまる2024年1月になる可能性も大いにある。

 スローな国の政策を待つより、さっさとはじめたほうがいい。『100円つみたて投資入門』(宝島社)の著書もある投資アドバイザーの若林史江さんが、NISAの税金に関するメリットを教えてくれた。

「利益にかかる税金は非課税です。仮に1万円で買った投資信託(以下、投信)が1カ月で10%値上がりしたときの売却益は1000円。そこから引かれる税金は20.315%なので、つみたてNISAによる節税額は約200円になります。少ないと思いますか?

 では長期で考えてみましょう。毎月1万円を20年間つみたてた場合、投資元本は240万円。もし20年間で元本が200%増(資産3倍)なら利益は480万円。

 この場合、利益の20.315%相当の約98万円が丸ごと非課税になります。非課税って、長期であるほどメリットが大きいことが多いんです」

 はじめる時期に関しても、「もう少し安くなってから」「資産所得倍増プランが本格的にはじまってから」などと先送りにしないほうがいい。資金を長く株式市場に置いておいたほうが、結果的にお金が増えるチャンスは広がる。

 若林さんのつみたてNISAに関するアドバイスはシンプル。

「クレジット決済が可能なネット証券を選んで口座開設。『S&P500』か『全世界株式』の指数に連動するインデックス型投信をつみたててください」

 もう、これだけ。3秒で説明が終わってしまった。

「つみたてNISAの年間の投資金額は現状、40万円まで。1カ月当たりに直すと約3万3000円です。でも、この金額を無理につみたてなくてもいいですよ。1000円でも3000円でもOKなので、まずはじめてみましょう」

 普段使っている、窓口のある銀行でつみたてNISAの口座を開設してしまった人は、やや面倒だがネット証券に乗り換えたほうがいいかも。そのほうが、信託報酬(投信にかかるコスト)が激安の投信をつみたてられる。長期投資ではコストにこだわることが大切だ。つみたてNISAは投信を買った年から最長20年間、利益が非課税になるので、数パーセントのコスト差でも収益に響く。

「一般NISAは非課税枠が年間120万円。つみたてNISAより大きいですが、非課税期間は買った年から5年です。2023年末で現行の一般NISAは終了しますし、制度も複雑。

 投信をつみたてるだけ、買ってから20年は非課税とわかりやすいつみたてNISAのほうが万人におすすめ」

 つみたてNISAの口座開設は、パソコンではなく、撮影機能があるスマホで行うと早い。

 ネット証券でスマホを使った場合、マイナンバーカードや運転免許証などを手元に用意すれば、ベースとなる証券総合口座とつみたてNISA 口座の開設手続きがすぐに終わる。

 名前や住所など必要事項を入力し、スマホのカメラを使って画像データや自分の顔を写して送るだけ。申し込み後にログイン情報が届く。

 メール送付の場合は早くて翌営業日、郵送の場合は5〜7営業日程度が目安だ。届いたIDなどを使って自分の口座にログインする。

 ログインしたら、決めることは4つだ。

(1)どの投信をつみたてるか
(2)毎月のつみたて金額
(3)銀行引き落としか、クレジットカード決済か、証券総合口座からの振替か
(4)銀行か証券総合口座を選ぶ場合、毎月何日につみたてるか

 ネット証券のクレジットカード決済の場合、(4)のつみたてる日は「この日に買い付けます」と決められている場合が多い。

「投信のつみたてをはじめたら、しばらくはもう忘れてしまってください(笑)。株価下落のニュースを見ても無視。ほったらかしにしておくのが成功の秘訣です」

 投信は定期預金と違って元本保証はなく、短期的に値下がりすることもある。下がった月は安くなって多く買えているので心配無用。気持ち的には給与天引き預金のつもりで淡々と続けることが大事だ。

■クレジットカード決済がおトク

 つみたてNISAで投信を買う場合、資金の入金方法は「銀行口座からの自動引き落とし」「クレジットカード決済」「電子マネー決済」「証券会社の口座から振替」の4つがある。投信を買うたびにポイント還元が受けられるクレジットカード決済が断然お得。クレジットカード決済ができるネット証券で、つみたてNISA口座を開設しよう。

 投信つみたてでクレジットカード決済に対応している主要ネット証券は、auカブコム証券、SBI証券、マネックス証券、楽天証券の4社だ。

「それぞれ利用できるクレジットカードが決まっています。auカブコム証券はau PAYカードで1%のポイント還元。

 SBI証券はナンバーレス(カード情報の印字がない)の三井住友カード(年会費無料)で0.5%、同じくナンバーレスの三井住友カードゴールドなら1%のポイント還元。

 ゴールドは年会費5500円がかかりますが、初年度に投信つみたて以外で100万円以上利用すれば翌年以降は(100万円使わなくても)年会費が永年無料です。

 現状で最も還元率が高いのはマネックス証券。マネックスカードでつみたてると1.1%ですから、つみたてNISAの年間満額40万円の投信をつみたてれば4400円分のポイント還元です。

 楽天証券は低コスト投信だと還元率0.2%なので電子マネーの楽天キャッシュ経由で0.5%を還元してもらいましょう」(若林さん)

 ポイント還元率は今後変更される可能性もある。

「現在のポイント還元の大盤振る舞いが今後も続く保証はありません。ただ、銀行引き落としや証券口座からの振替ではポイントは全くつかない。もらえるうちはもらっておきましょう」

 つみたてNISAでどの投信を買えばいいかわからず、はじめられない人も多いだろう。そんな人のために、若林さんがたった2本まで絞ってくれた。

「現状の最適解は『S&P500』か『全世界株式』、どちらかの指数に連動する投信だと思います。では、どちらがいいか。

 あなたが今後も米国が世界経済のトップを走り続けると思うかどうかで決めましょう。『米国最強』が今後20年続くと思うならS&P500、他の国が米国を抜くかも……と思うなら全世界株式を。

 とはいえ全世界株式の投信には米国株が全体の約60%入っています(2022年8月31日現在)。全世界株式の投信をつみたてると、その60%は米国株を買っていることになるんですよ」

 米国株の組み入れは、S&P500なら100%、全世界株式なら60%。それでも迷う人は、S&P500と全世界株式を半分ずつつみたててもいい。その結果、米国株は全体の約80%になる。

 もう決め打ちで「この投信」と教えてほしい人にはこちら。

「運用コストが安くて人気なのは、三菱UFJ国際投信が運用する『eMAXIS Slim』シリーズです。

 S&P500なら、信託報酬が年率0.0968%(税込み、以下同)で純資産総額がつみたてNISAトップの『eMAXIS Slim米国株式(S&P500)』。

 全世界株式なら、信託報酬が0.1144%で純資産総額が6000億円を超える『eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)』を選べば大きな間違いはありません」

 過去の成績を見ると、ここ20年間は米国でアップルやマイクロソフトなどのIT企業が急成長したこともあり、S&P500のほうが成績はいい。全世界株式は米国株が約60%だが、残りの40%に日本や英国など、その時々で好調な株も入っているので「米国株100%」のS&P500に負けるのだ。とはいえ、これから米国が衰えれば他国の株が自動的に増える。国すら選ばなくていい、本気でほったらかせるという点では全世界株式のほうが初心者向きだ。

◯若林史江(わかばやし・ふみえ)/投資アドバイザー。1977年生まれ、20歳で株式投資を開始。首都圏中心の資産運用セミナーは常に満員。TOKYO MX「5時に夢中!」月曜レギュラー

(構成/編集部・中島晶子、伊藤忍)

※『AERA Money 2022秋冬号』から抜粋