この不協和音は何? この変わったリズムは何──? 音楽家・山中千尋さんがジャズに興味を持ったきっかけは、曲を聴きながら、いくつもの“クエスチョン”を感じたからだ。自分の感情に違和感や驚き、ざわめきをもたらす音楽。幼い頃からずっとクラシック音楽を学んでいたが、ジャズを聴くようになると、素直に心がときめいた。純粋に、「この音楽が好き」と思えた。

「クラシック音楽を演奏するときは、楽器と自分の間に、モーツァルトとかベートーベンのように、必ず作曲者が介在してしまう。でも、ジャズの場合は、自分が感じる“今”をそのまま表現できる。音楽のルーツがバラバラの人たちが集まっても、一緒に演奏できる。そんな自由度の高さに惹かれたんだと思います」

 アメリカのバークリー音楽大学で、ジャズのメソッドを学んで以来、ニューヨークを拠点に活動している。2001年のデビューから年1枚のペースでアルバムを発表している彼女が、今年リリースしたのが、「モンク・スタディーズ」。セロニアス・モンクの生誕100周年を記念したオマージュ・アルバムは、リズムセクションにエクスペリメンタル(実験的)・ジャズの最先端で活躍するミュージシャンが参加し、モンクの音楽に斬新な解釈を加えている。

「私は、ジャズって、とても新しい音楽だと思っているんです。今の自分の気分、時代の気分を強く反映させられる音楽だからこそ、こうやって世界中で生き延びているんだって。今回のレコーディングも、まったく予定調和的には進まなくて(笑)、音を録ってからも、実験の繰り返しでした。いつまでも終わることのない、疾走するようなグルーヴが生まれたかと思うと、ふとみんなが顔を見合わせて“そろそろかな”って同じタイミングで曲を終わらせたり。ジャズの演奏はいつも、どんなふうに盛り上がるか、どんなふうに帰結するのか、まったく予想がつかない。そこは、人生とよく似ています」

 現在、全国ツアーの真っ最中だが、コンサートではいつも、生まれ育った群馬県桐生市の八木節を披露する。

「ほとんどの外国人は、日本の都市と聞いて東京とか京都ぐらいしか思い浮かべないけれど、私が八木節を演奏することで、日本にも、大都会でも古都でもない、自然豊かな田舎町があると知ってもらえる。日本の民謡まで演奏できてしまうところが、ジャズの懐の深さです」

 まだまだやりたいことは山ほどあるけれど、音楽家として何か目標を定めているわけではない。ただ、人として成熟していきたいとは思う。

「ジャズという音楽からは、それを演奏する人の個性や存在感が、如実に音に表れます。哀しみ、暗さ、優しさなど、音楽家によっていろんな個性がありますが、結局、すべての人が命の輝きを表現していると思う。私も、花が咲く瞬間のような華やぎを、音楽で伝えられたら」

※週刊朝日 2017年7月21日号