「趣味は何ですか?」。会話の糸口に聞かれることは多いもの。だが、これといって趣味がないと、この質問はプレッシャーだ。SNSにはリア充趣味に興じる様子がてんこ盛り。趣味界は、なんだかんだと悩ましい。インスタ映えを重視して「趣味偽装」する人、趣味仲間から抜けられずに苦しむ人もいるらしい。AERA 7月31日号ではそんな「趣味圧」の正体を探る。

 紆余曲折、疾風怒濤の人生を過ごしてきた趣味の達人たちに聞いた趣味論。その中から、引退後はむしろ無趣味を楽しんでいるという、天龍源一郎さんのインタビューを紹介する。

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 現役当時から趣味という趣味はなく、競馬を少しやるくらいでした。2年前に引退してからは本当に、何もしない日々を過ごしています。昔の曲が流れてくるFMラジオを聴きながら日光浴したり、テレビでやってる映画を見たり、散歩をしたり、家内とくだらない話をしたり。一人でいることも苦ではないですし、出無精なので家内に誘われても外出するのは3回に1回程度。プロレスも見に行きません。それでも、今は時間に追われなくていい毎日が楽しいし贅沢だと感じています。晴れたら気持ちがいい日だし、雨が降ってもそれはそれで楽しい。昔は仲間とよく酒を飲んでいましたが、最近は減りました。

 13歳の時に大相撲に入り、26歳でプロレス転向。家内の病気をきっかけに一昨年に65歳で引退するまで格闘技一筋の人生でした。現役の時は常に相手の攻撃に負けないようトレーニングを重ね、1食にから揚げ2キロを食うなど頑丈な体作りにも全身全霊取り組んできた。だから、ファンに評価される試合を重ねられたという自負もあります。

 大相撲もプロレスも、集中してベストコンディションを保ち続ける必要がある。だから、千秋楽や試合が終わったあと仲間と酒を飲み、あとは家で何もしなくていいという解放感はたまらないものがありました。

 引退の時に「腹いっぱいのプロレス人生でした」と語ったとおり、悔いなく相撲もプロレスもやってきました。現役当時はプロレスという仕事に誇りをもって、世間にもなめられないように突っ張っていた。50歳になるまでコンビニにもファミレスにも行ったことはなかったし、車も外車と決めていました。今はどこでも行きますし、街に出て「あ、天龍だ」と笑われても気にしなくなった。やれるだけのことをやってきたから、今は何もやりたいと思わないし、体をいたわって過ごしています。家族には、明日の朝俺が起きてこなくても、盛大ににぎやかに送り出してくれよと言っています。

 趣味がたくさんある人はうらやましいなとは思いますけど、体も悪いしこれから何か趣味を持つことはないでしょうね。これまで自分がやってきたことがそれだけ分厚いと思っているから、新しいことをやる必要がないのかもしれません。読んだ本、聴いた曲のタイトルはすぐ忘れるけど、自分がやってきた試合のことはしっかり覚えているし、よみがえってきますからね。今何もしないことが幸せなのは、その感覚があるからだと思います。

(構成/編集部・福井洋平)

※AERA 2017年7月31日号