芸能界は特殊な世界である。元芸人の私は、この業界に10年ほどいたが、実に様々なしきたりがあることを知り、私が所属していた吉本新喜劇にも、独特なルールがあった。今回は、吉本のしきたりやさらに吉本新喜劇のルールなどを紹介したい。



 これは、他の事務所の芸人さんに聞くと驚いたりするそうで、吉本独自のルールらしい。舞台の合間のご飯や打ち上げ、プライベートの旅行などにかかる費用は一番上の先輩が出すことになっているのだ。私が吉本新喜劇に入りたての頃、雨上がり決死隊の宮迫博之さんの舞台の打ち上げで、20人ほどが参加し、トータル20万円ほどを宮迫さん一人が払っていたのを目撃した時は、すごいと思いつつも、もし自分が売れておらず、このような打ち上げでキャリアが一番上だったらと想像したら、空恐ろしさも感じたものだ。

 そのため、新喜劇の打ち上げに誘われた時に、「すまん、今日は打ち合わせがあってな」と断る、一番キャリアが上の売れていない先輩がいたのも事実だった。

 品川庄司の品川さんが、ある番組で「俺より稼いでいるだろうオリエンタルラジオをご飯に誘う時に、躊躇うんですよ」と言っていたのもわかる気がする。

 先にも述べたが、吉本では、売れている、売れていないに関わらず、一番キャリアが上の人がお金を払うという暗黙の了解がある。



 私は今年38歳になるが、一般的にこの歳になれば、甥っ子、姪っ子がおり、お正月にお年玉をあげる側の年齢である。しかし、吉本ではお正月には何歳になっても、先輩からはお年玉がもらえるのだ。

 麒麟の田村裕さんは、自叙伝「ホームレス中学生」が大ブレイクした後のお正月には、吉本の劇場で出番がある時に、芸人一人ひとりに「僕より後輩ですか?」と確認し、「はい」と答えると、一万円渡していたという。この情報が若手芸人に広がり、出番のない売れない芸人が劇場に殺到したらしい。

 吉本新喜劇では1月2日に初舞台があるため、必ずその日に年始の挨拶に行くという風習がある。そして、先輩芸人が楽屋入りすると、一人ひとりに「明けましておめでとうごさいます、今年もよろしくお願い致します」と挨拶する。挨拶が終わると一人ずつ楽屋に呼ばれ、お年玉をもらえる。そのため、楽屋の外は若手で大行列になる。中には、衣装さんやメイクさんにもあげている先輩さえいた。



 これも有り難い話であるが、劇場に先輩が不用になった服や靴など、さらにはエッチなビデオなどを持ってきてくれて、「欲しいやつ、持ってて」と言って、後輩が宝の山をかきあさることがある。一応、上の先輩からもらっていき、最後に末端の若手に行き渡る。

 まるで、アフリカのサバンナでライオンが食べ残したシマウマの死骸を突ついているハゲワシの様な光景と言ったら言い過ぎかもしれないが、余すことのないようにすべてが誰かに行き渡る。ちなみに私はあの木村祐一さんのお下がりの紫のTシャツを戴き、今でも愛用している。

 芸人の世界は、体育会系気質があり厳しい部分もあるが、その分、一般社会では味わえないような恩恵も多々あり、毎日が刺激的であることは間違いない。(文 元吉本芸人・新津勇樹)