NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」で、井伊家筆頭家老・小野政次を演じている高橋一生さん。8月、政次が最後の出演を迎えるにあたり、作品への思い、役者としての在り方などについて語ってくれた。



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──クランクアップ(撮影完了)を迎えたとのことで、お疲れさまでした。

 いえいえ、ぜんぜん疲れてないです(笑)。

──長丁場を終えて、いかがですか?

 大河ドラマは以前にも出演したことがあるのですが、今回は約10カ月の撮影でしたから、これまでとは全く違った感慨深さがあって、離れがたかったです。クランクアップした日の夜、お風呂に入りながら「終わったんだよな……」と思った瞬間、寂しさがこみあげてきました。この現場で、「今が自分の役者人生で最高だ」と思う瞬間が、何度もあったんです。「もう死んでもいい」って思えるくらいの。

──具体的には、どんな場面で?

 次郎法師(後の井伊直虎。柴咲コウ)と直親(なおちか=三浦春馬)と3人で井戸端にいるシーン。幼少期の関係性、すれ違いというものを経て3人が集まっている。その描写が、脚本に本当に美しく描かれていたんです。「この世界観を邪魔してはいけない、できるだけフラットにやらなくては」と思っていたんですが、実際にお芝居に入ると、そんな余計なことを考えることもなく、政次として幸福な時間を過ごせました。

──政次は井伊や直虎のことを考えているのに、「裏切り者」「信用ならない」と思われてしまう不憫(ふびん)な役どころです。そんな政次について、どう思いましたか?

 雄弁であることよりも沈黙を選ぶから、一番近しい人でさえも彼が何を考えているのかわからないときがある。そういう男って、僕は好きです。美しいと思います。ただ、僕は今、思考が政次のままなので。次にものすごくしゃべる男の役をやったら、「やっぱり男は雄弁でないと」とか言うかもしれませんが(笑)。

──演じていて、苦しくなることは?

 ぜんぜんなかったです。生きている実感というものを、政次から得る瞬間があって、俳優をやっていてよかったと思いました。

──政次は喜怒哀楽をはっきり表しません。政次の表情については、能面を参考にしたそうですね。

 たとえば同じ一つの能面であっても、見る角度やその人のそのときの気持ちによって、怒っているようにも悲しんでいるようにも見えると思うんです。実際の人間って、そんなにいろんな表情をしているわけではないのかなと。人の心なんてわからないから、見る人はそのわからない部分を埋めようとして、相手の表情に自分の気持ちを反映させたり想像したりする。僕は突飛なことをするのではなく、あくまで標準なことをやって、そこから見る人に感じ取ってもらえればいいと思っていました。

──政次を演じたことで、何か変化はありましたか?

 受け身でいることって実は最大の“動”かもしれない、そう思うようになりました。自分で自分をコントロールしようとするのではなく、誰かにコントロールされることによって、逆に自分の本質が浮き彫りになるんじゃないかと。抗えない波に対して、不平不満を言って卑屈になるのではなく、その流れにのっていくことこそ、能動ではないかと。政次からは、そんなことを感じました。

──高橋さん自身は、不満を感じたり、イライラしたり、怒ったりすることは?

 ものごとにもよりますが、あまりないんです。昔はもっと、怒ったりイライラしたりしていたんですけれど。僕はそういう感情を自分に向けてしまいがちで、自己嫌悪したり自分を傷つけてしまう。これはマズイと思って、「とにかく笑っていよう」「ふにゃふにゃでいよう」と。そう思うようにしてから、だいぶ変わりました。

──それはいつ頃から?

 ここ5、6年です。自分以外の人って“外界”なわけですが、若い頃……、20代の前半くらいまでは、他人も自分も同じような感覚があったんです。「なんでうまくいかないんだろう?」って思っていました。30歳手前くらいから、ようやく人を他者として認識するようになりました。「みんな違うんだ」と。そう思うようになって、だいぶラクになりました。人を100%理解することなんてできない。そんな諦観みたいなものが、自分をすごく柔軟にしてくれた気がします。と同時に、相手に対して感じていることは、自分のある一面を映しだしているのかもしれないと考えたり。自分の気持ちの変遷を振り返ると、不思議な気がします。

──何が、高橋さんを変えたんでしょうか?

 人との出会いも大きいのですが、それ以上に芝居による経験が大きい気がします。お芝居って、別の誰かを生きようとするわけですから、そのフィードバックがもらえるんです。「ああ、こうしたらダメだよね」「でも、そうなっちゃうよね」……。そういう体験を、少しずつ自分の中に取り込んでいくんです。すごく豊かですよ、自分の人生自体が。

──政次という役も、高橋さんの中に取り込まれた?

 そうです。取材で「政次はどういう人間だと思いますか?」って聞かれても、うまく答えられないんです。役と自分が切り離せていないから。そんな役と出合えることは本当に幸運なことで、幸せな時間を過ごさせてもらいました。

──長いキャリアのなかで、役者という仕事がイヤになったことは?

 ないです。

──仕事が楽しくて仕方がない?

 というより、お芝居って呼吸みたいなものなんです。僕にとっては、“する”か“しない”かという選択ですらない。反射です。実際、お芝居させていただいているときの感覚って、呼吸と同じなんです。やらないと気持ちが悪くなる。「休みたいですか?」って事務所の人に聞かれるんですけれど、「いえ、息とめたくないんです」って答えてます(笑)。

※週刊朝日 2017年8月11日号