リンジー・バッキンガムとクリスティン・マクヴィーのアルバム『リンジー・バッキンガム/クリスティン・マクヴィー』の登場には驚いた。その組み合わせに、である!

 言うまでもなく、2人はフリートウッド・マックのフロントに立つ存在。本作にはミック・フリートウッドとジョン・マクヴィーも参加している。これはもう、スティーヴィー・ニックス抜きのフリートウッド・マックの新作ではないか!

 初期のフリートウッド・マックは1960年代後半のイギリスで、ブルース・ロック・ブームの火付け役を果たした。ピーター・グリーンが看板ギタリストだった頃で、時代の先端を歩んできたザ・ビートルズにも影響を及ぼしている。

 ピーターはドラッグ問題などでグループから離脱。その後、チキン・シャックのヴォーカルだったクリスティン・パーフェクトがジョン・マクヴィーと結婚し、クリスティン・マクヴィーと名を変えてグループに参加した。看板ギタリストや主要なソング・ライターの相次ぐ交代で、フリートウッド・マックの音楽性は変化し、低迷期に入る。

 74年、中心人物だったミック・フリートウッドとジョン・マクヴィー、クリスティンの3人は、活動の拠点を米カリフォルニアに移した。そこで新たにリンジー・バッキンガム、スティーヴィー・ニックスの2人が加入し、ポップ・ロック・バンドに変身。翌年に発表した『ファンタスティック・マック』で再び脚光を浴びた。続いて77年に発表した『噂』が、全米アルバムチャートで31週連続1位の大ベストセラーになり、黄金時代を迎えた。

 80年代に入ると、メンバーのソロ活動が中心となり、リンジー・バッキンガムが脱退。またまたメンバーの変遷が繰り返された。米大統領選でビル・クリントン氏を応援するための再結成などの例外を除けば、黄金期のメンバーが集結することはあまりなかった。

 そうした中、クリスティンが3年前、フリートウッド・マックのツアーに参加。16年ぶりにグループに復帰し、新曲のレコーディングにも取り組んだ。これがきっかけで生まれたのが、今回の『リンジー・バッキンガム/クリスティン・マクヴィー』だ。

 制作は断続的に進められた。ツアー後に再開するはずだったが、スティーヴィーがソロ・アルバムを発表してソロ・ツアーを実施。スティーヴィー抜きでレコーディングが継続。結果、フリートウッド・マックの新作としてではなく、リンジーとクリスティンのデュオ・アルバムとして発表されることになった!というのがコトの真相らしい。

 クリスティン・マクヴィーは、リンジーと新作の準備を重ねている間に「デュエット・アルバムになるだろうと感じていた」という。2人が曲を共作したことはあるが、今回ほど積極的に取り組んだのは初めて。いざこざの絶えなかったメンバーの間にあって、リンジーとクリスティンは何のしがらみもなく、音楽的な側面で交流を保ってきた。それが今回のデュオ作の制作・発表を促した要因と言えそうだ。

 リード・シングル「イン・マイ・ワールド」は、フリートウッド・マックの黄金期のヒット曲を想起させる。リンジーのフィンガー・ピッキングによる生ギターをフィーチャーした「ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」も同様に懐かしさを覚える。

「スリーピング・アラウンド・ザ・コーナー」や「レイ・ダウン・フォー・フリー」でのベース、ドラムスの迫力は、ジョン・マクヴィー、ミック・フリートウッドによる強力なリズム・コンビの存在を再認識させるとともに「フリート・ウッドマックの新作である」とのイメージを強くする。

 リンジーはフリートウッド・マックで、パンクの要素も含め、革新的なアイデアをふんだんに導入してきた。今回は、作曲のほか、ギタリスト、アレンジャーとして八面六臂の活躍を見せている。一方、クリスティンは「いつわりのゲーム」「カーニヴァル・ビギン」など、ピアノの弾き語りによる叙情的なバラード作品を披露している。

 2人の共作品は、60年代のポップ・ソングを思わせる「フィール・アバウト・ユー」やジャングル・ビートを採り入れた「トゥー・ファー・ゴーン」など、遊び心にもあふれている。

 本作に収録された作品の歌詞も興味深い。先述の『噂』には、メンバー間での私的な出来事や内実をあからさまにした作品が収録されていた。今作では、よそよそしい関係のまま、見て見ぬふりをしながら活動を続けてきたグループの過去を振り返る歌詞が大半を占めている。再出発に賭ける意気込みをうかがわせる作品もある。

「オン・ウィズ・ザ・ショウ」は2014〜15年に成功させた再結成ツアーの表題そのもの。フリートウッド・マックの新作となるはずだったことを物語るが、そうならなかったのはスティーヴィー・ニックスの不在によるのは明らかだ。

 今作が発表されたことで、黄金期のメンバーによるフリートウッド・マックの新作の登場は当分の間、望めそうにない。スティーヴィーの不在は惜しいが、それに代わるアルバムとしてファンを喜ばせるのに違いない。(音楽評論家・小倉エージ)