私の初舞台は2006年、今田耕司さんの舞台である。しかも、台本をもらい配役を目にしたところ、舞台の最後のシーンで今田耕司さんに銃を向けるチンピラ役だ。初舞台のうえ、あの今田耕司さんに銃を向ける。しかも睨みつけながらだ。実生活でやったら、確実に今田さんを慕う後輩芸人から袋叩きに合うだろう。芝居とはいえども、もし勢い余って今田さんの顔にでも銃を当ててしまったら、とんでもないことになる。その前に極度の緊張から手が震え、銃を落としてしまうかもしれない。まだ稽古すら始まっていないのに、変なプレッシャーに襲われていた。果たして、今田耕司さんに銃をつきつけることができるだろうか。

 銃を向ける練習を何度も本番前まで行った。私のセリフは、もう一人のチンピラ役の先輩が、「おい(銃をむけろの意)」といった後に、「へい」とひとこと言って今田耕司さんに銃を向けるだけの出番だ。大した芝居ではない。しかしだ!相手は、吉本でも指折り数えて稼ぎ頭の超がつくほどの売れっ子の今田耕司さんだ。芝居とわかっていても、吉本新喜劇初舞台の私にはハードルが高すぎる。せめて初舞台は死体役か、お店にいるだけのラーメン屋のお客さん役(新喜劇ではよく出てくる役)みたいなエキストラ的な配役で良かった。いきなり今田耕司さんに至近距離で銃を突きつける……。有難い話ではあるが、正直、作家さんを恨んだ。

 困ったことに、今田さん本人に「銃をつきつける練習をさせてください」とは死んでも言えないため、自宅では今田さんの出演番組を録画し、ちょうどドアップになったところを停止し、「へい」と言って、銃をつきつける練習を何百回と行った。当時、同居していた妹が、私が夜中に、しかも一定の間隔で「へい」と言っているのを横の部屋から聞き、変な病気にかかったのかと思ったらしい。

 そして迎えた本番、私は出番が一番最後のため、舞台袖で先輩たちの芝居を観て勉強することにした。お芝居は今田さんがお店から出てくるシーンから始まる。今田さんが登場すると、大歓声があがる。しかしだ、その直後に今田さんがセリフを間違えたようだ……。私はたった一言「へい」と言うだけだが、それすら間違えてしまうかもとすごい不安に襲われた。

 しかし、今田さんの凄さは、そのまま店に戻ると、再度何事もなかった様に店から出ててきて、改めて芝居を始めたのだ。それが観客の笑いを誘い、大爆笑に包まれる。大観衆の中での、このアドリブ力には感心させられた。

 1時間という枠のなかで、ストーリー性のある吉本新喜劇は、笑いあり涙ありで、最後にオチがあり、幕が降りる。私のシーンは、まさに最後のオチのシーンであり、いよいよ出番が近付いてきた。一緒にチンピラ役で出る先輩とは、何度も楽屋や廊下で本番前まで合わせてきた。先輩からは、「楽しんでやろうや。自分らが楽しまなきゃ、お客さんも楽しめへん」と心強いアドバイスをもらった。だが、その先輩の声も震えていた。ド緊張のチンピラがいざ戦場へ。

 緊張のあまり先輩の「おい」というセリフにかぶせる感じで、「へい」と大声で叫んでしまったが、なんとか今田さんに銃を向けた。舞台の照明で、お客さんは見えない。見えるのは、あの今田耕司さんだけ。その今田さんの額からは大粒の汗が噴き出すように出ていた。チンピラの迫真の演技による恐怖から出た汗なのか、若手のガチガチの演技による冷や汗だったのか…。真相は今でもわからない。(文/新津勇樹)