今年、25周年を迎える作家・林真理子さんの連載「マリコのゲストコレクション」は、スタートして以来、時代を彩る数々のゲストにご登場いただいてきました。こんなときだからこそ、ご登場いただいたゲストのお話から「元気が出る言葉」を選りすぐり、振り返ります。今回は樹木希林さんと内田裕也さんです。思い切り笑って、コロナを吹き飛ばしましょう。



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■自分勝手がいちばんいいんじゃない?
女優・樹木希林/2016年5月27日号

 まずは、全身がんとの長い闘病生活の末、2018年に亡くなった樹木希林さん。唯一無二の存在感を放った、誰もが認める大女優。没後には、生前の希林さんの言葉を集めた多くの本が出版されたほか、テレビ番組でも特集が幾度となく組まれ、“生きざま、死にざま”が注目され続けています。亡くなる2年前、73歳のときにご登場いただいた対談では、マリコさんが希林さんに質問攻めにされるという異例の展開で──。

林:樹木さん、インタビューとかで「脇役だから責任とらなくてもいいし、かけもちで出演できるし、ほんとに私のポジションっていいわよ」とおっしゃってましたよね。

樹木:そう。ローン返すにはもってこいの位置なのよ。出番が少なくてもギャラは変わらないから(笑)。でも病気をしてからはゆっくり撮っていく映画に移行しようと思ってね。そんなにセリフも覚えられないから、長いセリフは人にあげちゃうの。「ここからあなたに差し上げます」って。

林:そんなことなさるんですか。

樹木:だって覚えられないんだもん。片桐はいりさんは迷惑そうに「私が言うんですか? ちょっと待ってください、覚えますから」とやってくれましたけどね。そんな感じで役者の仕事をおもしろがってやってきたのね。

(中略)

林:「断捨離」という言葉ができるずっと前から、非常にミニマムな生活をなさってるんですよね。

樹木:この何年か、ものを買ってない。買うのは靴下だけ。

林:ほんとですか。

樹木:友達の旦那が亡くなる年なのよ。「主人のラクダの股引とか、パイルのステテコとか、使ってないものがあるんだけど」って言うから、「私にください」って。下着はゆるゆるのがいいの。だから私の下着はみんな前が開いてるの(笑)。

林:もしもどこかで倒れたとき、脱がされてラクダの股引だと……(笑)。

樹木:気にしたことないですね。恥ずかしいなんて年齢ではないから。自分勝手がいちばんいいんじゃない?

林:カッコいいですよ。樹木さん、73歳ですよね。今の70代って皆さんすごくお若いし、若さに執着している人も多いと思いますが。

樹木:それはそれで素敵だと思うんだけど、私は畳んで畳んで、ちょうどいいあんばいで病気になったから、すごくありがたいの。私と同い年の女優さんと並んで座ってたら、プロデューサーがその人に、「お若いですねえ。50代に見えますよ」って言うわけ。でも、実際にキャスティングするときにその人に50代の役が来るかというと、来ないのよ。ところで真理子さん、整形してます?

林:してませんよォー(笑)。

樹木:私は、役者をやめて生きるなら、整形しようかなと思ってるの。今はすぐバレるからね。

林:樹木さんはいつも一人でお歩きになって、マネジャーさんや付き人さんがいらっしゃらないんですね。

樹木:そういう人がいると、その人の世話をしちゃうの。「あんた、おなか空いてない?」とかさ。

(中略)

林:そういえば、私、先日帝国ホテルで内田さんをお見かけしましたよ。

樹木:大好きなのよ、ホテルと飛行機とスチュワーデスが。

林:お子さんみたいですね(笑)。樹木さんのように、年をとることをおもしろがって生きることに憧れる人、多いと思いますよ。

樹木:おもしろがらなかったら悲愴になるもの。80歳を過ぎた知り合いが、白内障の手術をして両目が見えるようになって夫の顔見て「こんな汚かったのか」と驚いて、鏡で自分の顔を見てさらに驚いたって(笑)。そういう発見もおもしろいじゃない。

林:私は最近、人の名前とか固有名詞がまったく出なくなってきて、人間ドックで脳のMRIを撮ってもらったら、「年相応に縮んでます」と言われましたよ。

樹木:いいのよいいのよ、それで。夫の顔はわかるでしょう?

林:なんとかわかります(笑)。

樹木:私は死ぬとき、夫が「おう、大丈夫か」と言ったら、「まあご親切に。おたく、どちらさま?」って、これだけは言ってやりたいと思って(笑)。

■父親の役を放棄したのがよかった。
ロック歌手・内田裕也/2014年7月18日号

 樹木希林さんの夫であり、永遠のロックンローラーとしても知られた内田裕也さんにも、2014年にご登場いただきました。希林さんの死から半年後、後を追うように亡くなった内田さん。破天荒なイメージで知られ、対談にあらわれたときには「ものすごい存在感で、空気がいっぺんに変わってしまいました」(マリコさん)と言います。

林:もう、息子さんたちの世代になっているわけですね。……でも、内田さんってお幸せですよね。

内田:ブッ!(飲みかけたジンジャーエールを噴き出しそうになる)……失礼。

林:外でお好きなことやってても、お婿さん(本木雅弘)は立派で、お嬢さんは素晴らしい家庭を築いていて、お孫さんたちもちゃんと育っているじゃないですか。

内田:まさか後半の人生がこういう展開になるとは、さすがの内田裕也も夢にも考えませんでしたね。也哉子という娘がグレずに育ってくれたのが、ほんとによかったですね。俺、養育費は出してないわ、面倒は見ないわ、ほんとに何にもしてませんから、グレてもおかしくないですよ。

同席のマネジャー:おかしくないですね。

内田:おい、マネジャーがそんなこと言うなよ(笑)。まあ、俺が父親の役を放棄したのが、かえってよかったかもしれないですね。

(中略)

(内田さんが撮った映画の2作目「コミック雑誌なんかいらない!」について)

内田:内田裕也が映画をつくるっていうと、いろんなことを言うやつがいるんでしょうね。あらゆる映画会社に行きましたけど、誰も乗らないんだな。結局、資金も自分で集めて、脚本も書きました。(中略)実は僕は林さんに出演オファーをしてるんです。僕の嫁の役ですよ。そしたらケンもほろろに断ってきてさ。

林:私、ぜんぜんその記憶がないんですよ……。誰が断ったんだろう。

内田:コノヤローと思って(笑)、しょうがないから林さんの代わりに渡辺えりですよ。(中略)そのあと、この映画どうなったと思いますか。なんと、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で特別上映された。

林:ほんとに? それはすごいです。

内田:マジですごいでしょう。ハイタッチお願いします。

林:はい(パチンとハイタッチ)。

内田:ちょっと話が戻るけど、1973年にダコタハウスでオノ・ヨーコさんに会ったとき、「あなたはお酒飲んで酔っ払って暴力ふるったりセックスしたり、そんなことばっかりやってて、結局何もしてないじゃない」なんて言いやがったの。そこまでは「冗談じゃねぇよ」なんて言いながら聞いてたんだけど、「と、ジョンも言ってたわよ」って言われて、それでキレたんだよ。クソーッと思って、ドアをバーンと蹴飛ばして、「見てろコノヤロー。ファック・ユー!」とか言って出ていった。

林:すごい光景ですね。歴史的な大ゲンカ。

内田:オノ・ヨーコ相手にケンカしたやつ、いねえっていうからね。でも、俺は自分が正しいと思ったら、誰とでもやりますよ。それでそのあと「コミック雑誌なんかいらない!」がニューヨーク・タイムズに3回出て、オノ・ヨーコは近代美術館にこっそり見に行ったらしい。こんなうれしいことなかったですよ。

林:絶対再上映ですよ、これは。この話を聞いたら、誰だって見たいと思いますよ。

内田:ありがとうございます。うれしいなあ。俺、ほんと腹立つんだ。スキャンダルとかそんなことばっかり言われるけど、俺は実は人を見つけて育ててスターにして、自分で資金集めて脚本書いて映画つくって、ニューヨーク近代美術館で特別上映だとか、やってるんだよ。林さんにも、出てほしかったなぁ。

※週刊朝日  2020年5月8‐15日合併号