連続ドラマに引っ張りだこ、いまをときめく若手俳優の一人、広瀬アリスさん。テレビ番組のMCもこなし、明るくはきはきした印象があるが、意外にも以前は「自分はダメだ」と毎日考え、悩んでいたという。AERA 2020年7月13日号から。



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 5月末、リモート制作のドラマ「Living」に妹の広瀬すずと出演し、話題を集めた。

広瀬アリス(以下、広瀬):自宅という見慣れた場所で、妹と二人でお芝居をするのはすごく不思議な感覚でした。とても新鮮でしたし、楽しみつつ演じることができました。

 普段は二人で芝居の話は一切しないんです。「お姉ちゃんが以前共演していた俳優さんと、今度私も共演するよ」といったような話はしても、それ以上の話をすることはあまりなくて。お互い、相手の仕事にそんなに興味がないのかもしれないですね(笑)。

 6月に入ると、新しいドラマの撮影が始まった。「現場に行けるありがたみ」を実感している。

広瀬:現場では、フェイスシールドをつけてリハーサルをしていますし、慣れないことも多いです。新型コロナウイルスの影響で、現場での演出も少しずつ変わってきています。たとえば、食べ物を口に含ませながらせりふを言うシーンであっても、飲み込んでから言うようになったり。そうした一手間は、以前ならストレスに感じていたかもしれませんが、どこか“異空間”のような感じも、いまは楽しめたらいいなと思っています。

 現場に行けるって、やっぱりうれしいものです。人と直接話せるって、こんなにも楽しいんだって。自粛期間中に電話で話をしていた相手であったとしても、家のなかにいる時と、外に出る時とでは感覚が違うので、発する言葉も自然と変わってくる。外に出ることで気持ちが晴れやかになって、いろいろな言葉が浮かぶようになるんですね。撮影の合間は、共演者の方々とずっとおしゃべりをしています。こんなときだからこそ笑顔で「頑張ろう!」と、前向きな気持ちで臨めたら。

 いつも明るく仕事をしている印象があるが、意外にも真っ先に「私なんて」という言葉が出てしまうタイプだった。なぜできないのだろう、自分はダメだ、と毎日考えていた。

広瀬:悪い癖なのですが、常に減点方式で物事を考えていたんです。100点からスタートし、ダメだったところを減点していき、寝る前に「今日は何点だった」と振り返って、一人落ち込んでいた。でもそれはもうやめよう、と。「100点を目指さなくてもいいんじゃない」と思えるようになりました。

 昨年舞台でご一緒させて頂いた演出家の三谷幸喜さんと接していて感じたことですが、感覚は一人一人違うので、自分が思う「100点」は、周囲から見れば100点でも何でもないのかもしれない。それなら80点くらいでも、自分がリラックスできる状態で仕事に臨むのが一番よいのではないか、と考えるようになりました。

「何かが足りない」と思ったとしても、続けていくことで、力が抜けてどんどんやりやすくなっていくかもしれない。ミスをしたら、それを取り返すことに力を注ぐのではなく、違うところで頑張ればいい。

 失敗することを恐れるよりも、どんな姿勢で臨めば気持ちよく仕事ができるか、というところを大切にしています。こんなふうに思えるようになるまでには時間がかかりましたが、自分をそのまま受け入れてしまえば、必ずしも自分に自信を持たなくてもいいのかもしれない。いまはそう思っています。

 確かに、今年放送された連続ドラマ「トップナイフ−天才脳外科医の条件−」では、成長過程にある女性を、人間味あふれるキャラクターとして魅力的に演じていた。

広瀬:お芝居がすごくすてきだなと感じている俳優の池松壮亮さんがあるインタビューで、「準備は100%の力でするけれど、本番は肩の力を抜いて80%で臨む」とおっしゃっていて、その言葉には影響を受けました。実際は、難しくてなかなかできないことなのですが。

 例えば、テストでは自然にカップを手に持ちせりふを言ったとしても、本番では急に不自然な持ち方をしてしまうなんてことも。動きや状況を整理して臨んだとしても、本番になったらガチガチになって、思いもしない動きをしてしまうことも多々あって。それは力が入りすぎているということなんです。

 でも、本番はあえて80%くらいの力で臨むことでせりふが言いやすくなったり、お芝居がより自然になったりすることもある。そうした自分自身の変化も、少しずつではありますが、感じられるようになってきました。

 俳優としてだけでなく、モデルや番組MCとしても活躍。自身の5年後、10年後をどのようにイメージしているのだろう。

広瀬:先のことはあまり深く考えてはいないのですが、楽しそうに仕事をできていたらいいなって思います。10代後半から20代に入っての2、3年は、仕事の現場でも日常生活でも「しんどいな」と思うことが多かったんです。その年代特有のものなのかもしれませんが、言葉にならない怒りや、どこにぶつけたらいいのかわからない感情みたいなものが、人よりちょっと多かったのかもしれません。

 でも、一度“底”の状態を経験していたので、あとは上がるだけだった。当時も、その状態から抜けるのをじっくり待っていました。その頃のことは、事務所の社長や友人たちと思い返しては「あの頃のアリスってさ」なんて言って、ゲラゲラ笑い合えるようになりました。

 そんな時期があったからこそ、いまこうして明るく人と接し、楽しく仕事をできているのかもしれません。もっともっと自分が満足できるお仕事ができたらいいなって思いますし、周囲に何を言われても、自分が「これだ」と決めた人生を歩んでいけたら、と思っています。

(ライター・古谷ゆう子)

※AERA 2020年7月13日号