新型コロナウイルスで外出できない、会いたい人に会えない、そんな中で放送(配信)された韓国ドラマ「愛の不時着」。南北分断という現実を背景に、出会うはずのない南北の男女が「不時着」という事故によって出会うロマンティックコメディー(ロコ)に世界中が魅了された。



 演出を務めたイ・ジョンヒョ氏は「海外を意識して作ったわけではないが、韓国でおもしろいものを作れば世界に通じると思っている。K−POP人気や『パラサイト 半地下の家族』などを通して世界で韓国的情緒が共有されるベースもできていた中でのヒットだと思う」と話した。

 イ氏が最初に演出オファーを受けた時には「ロコ」とだけ聞いていた。「よくよく聞けば、舞台は北朝鮮だというので、そんなの可能か?」と耳を疑ったそう。韓国の人たちにとって北朝鮮は興味の対象でもあるが、脅威でもある。ソン・イェジン、ヒョンビンというトップスターが主人公のドラマが、初回(2019年12月14日)視聴率6%台でスタートしたのは、北朝鮮が舞台という設定への視聴者の戸惑いもあった。

 とはいえ、やはり二人の吸引力はすごかった。視聴率はぐんぐん伸び続け、最終回は20%を超えた。熱愛説もたびたび出ている美男美女だが、演技力でも文句なしのベテランだ。財閥令嬢のユン・セリを演じたソン・イェジンは韓国では「メロドラマの女王」と呼ばれる。北朝鮮の軍人リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)と会えなくなる切なさは、ソン・イェジンの表情のクローズアップで痛いほど伝わってきた。

 イ氏は「本当に付き合っているのかどうかは知らないが、とても親しい友達のようには見えた」と話す。少なくともドラマの中で本当に愛し合っているように見えるのは二人の演技力ゆえだ。以前、ドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」でチョン・ヘインと共演した時にも「実際付き合っているのでは?」という視聴者の反響があった。その噂を制するように演出のアン・パンソク氏が語った言葉が忘れられない。「ソン・イェジンは撮影に入る時はリングに上がるボクサーのようだ。スタッフの間を通って照明の前に登場する時、この人は単にキャリアのために演じる俳優でなく、生涯演技のために生きる人だと思った」。外見の美しさに甘んじない彼女のプロ精神に震えた。

 一方のヒョンビンも努力家で知られる。ピアノを弾くシーンについて、イ氏は「弾くまねだけでいい」と言ったが、ヒョンビンのほうから「練習して弾きたい」と申し出て、撮影に入るまで2カ月間練習してきたという。ドラマでは音は整えているが、弾いているのは本当にヒョンビンだ。元ピアニストの軍人という役がそれらしく見えるのも、地道な努力の賜物だった。

 ジョンヒョクの部下の一人、ピョ・チスを演じたヤン・ギョンウォンは「実際にヒョンビンさんは中隊長(ジョンヒョク)みたいな面がある。何でもやってくれそうな頼もしさ。落ち着いた雰囲気ながら、ふざけたりもして。そのふざけるのも相手の役者の緊張を解くためだったり。本当にかっこいい人」と絶賛した。「初対面の時はかっこよすぎて目を合わせられなかった」と言う。

 一方、韓国ではピョ・チス人気も熱かった。イ氏も「最も北朝鮮の言葉が自然だった」と話していたが、ミュージカルで以前、北朝鮮の軍人役を演じたことがあり、訓練ができていたという。何よりセリと憎まれ口をたたき合うのが楽しかった。「ピョ・チスが強がりなのは、自分を守るため。傷つきたくないから。そういう不器用なキャラクターが視聴者に愛されたんだと思う」とヤン・ギョンウォン。挙げればきりがないが、主役から脇役に至るまで、役者の演技力もさることながらキャラクター設定のきめ細かさも行き届いたドラマだった。(在ソウル・成川彩)

※週刊朝日  2020年7月31日号