ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、中森明菜さんを取り上げる



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「中森明菜さんの曲で何がいちばん好きですか?」という質問が苦手です。しかし苦手な質問に限ってよく訊かれるのが世の中というもの。むしろ訊かれ過ぎて苦手になったのかもしれません。苦手な理由(1)質問として短絡的過ぎる。(2)他人に教えるのが恥ずかしい。(3)以前あまりにもしつこいので「『BLONDE』(87年のシングル)です」と答えたら「そんな曲知らない」と言われた。なので私も、インタビューや対談をする際には、相手にこのような質問をしないよう気をつけています。

 そもそも音楽なんて、気分や季節や時間帯によって聴きたい曲も変動するから面白いわけで、その昔はみんなシチュエーションに応じて「マイベストカセット」を夜なべして作ったものです。ちなみに私は中学の頃、毎週「中森明菜ベストテン」なるプライベートランキングを記録していました。それぐらい真剣かつ病的に「中森明菜」という歌手と向き合い続けてきたオカマに、そんな軽はずみに「ズバリいちばん好きな曲は?」などと訊いてこないで頂戴! ましてや『BLONDE』を、「知らない」の一言で片付けてしまうような人と明菜話なんかしてたまるもんですか! 周りのスタッフは「適当に『ミ・アモーレ』とか『DESIRE』とか、誰でも知っていそうな曲を挙げといたら?」と進言してきますが、そんな無責任な仕事はできません。結果、面倒臭い人と思われる。ふん!

 これもひとえに、ゲイ特有の内省性の産物と言えるでしょう。私もそうだったように、ゲイには自分の趣味嗜好を周囲と共有できない期間を長く過ごしている人が多くいます。今は分かりませんが、少なくとも私の世代で思春期に「オカマ仲間」や「ゲイ友」がいた人などほとんどいないはず。よって、あらゆる熱量が自分の中だけで熟成されてしまい、いざ大人になってそれらを世間一般と同じテンションで共有しようとしても上手くいかない。音楽にしろ映画にしろファッションにしろ、偏執的な「エキスパート」として活躍するゲイが多いのもそのためです。それはある意味、過剰な熱量を飯の種に変換することで、世間と共存するための処世術とも言えます。私がこうして連載をさせて頂けているのもしかり。世間様には感謝する一方、やはり「好き」の共有はなかなか馴れません。

 2丁目に出るようになってからは、それなりに「共有体験」はしてきました。『BLONDE』と口に出すだけで、瞬時に何かを察知し合える感覚を持った人たちにも出逢いました。特に女装業界は、私と同じような「過剰独自熟成」を10代の頃にずっとしていた人がたくさんいる世界です。故に「内省性」が強い人が多く、それはそれで平穏無事というわけにはいきません。熱量の共有は、やがて熱量の競い合いになり、うっかり薄っぺらいことを言おうものなら大火傷を負います。皆一様に自分の思春期・青春期にプライドを持っているため、本当は「生温い仲間意識」などクソ喰らえな連中ばかりなのです。

 先日、同じ『BLONDE』好きのマツコさんが、電話で「アンタにだけ言うけど、実は最近『AL−MAUJ』がいちばん刺さるのよね……」と打ち明けてきました。こんな感覚、分からない方が健全です。7月13日は明菜さん55歳の誕生日でした。おめでとう明菜ちゃん!

※週刊朝日  2020年7月31日号

■ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場〜語り亭〜」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する