竹内結子さんの死は、他の有名人の死とは違う衝撃をもたらした。自ら命を絶つという亡くなり方は同じでも、三浦春馬さん、芦名星さん、藤木孝さんが独身者や高齢者の死であるのに対し、彼女の場合、今年1月に第2子を出産したばかりの母親だったからだ。



 しかも、前夫とのあいだに生まれ、彼女が親権を持つ中学生の第1子もいた。

 9月1日には、出産後初めて公の場への登場となったイベントで、新しい夫と第1子の関係に言及。「一緒に夜食を作ってヒソヒソ男同士の内緒話をしていたり」と、ほのぼのとしたエピソードを明かした。

 また、最近の雑誌インタビューでは、

「わかっていたつもりでしたが、眠れないし、もらった風邪はなおらないし……。赤ちゃんのお世話は本当に大変ですね。育児の常識も長男のときとは変わっていることが多くて、育児雑誌で離乳食について調べたりしています」(「LEE」)

 戸惑いもみせつつ、前向きに語っていた。

 にもかかわらず、なぜ自ら命を絶ったのか。じつは訃報のあと、こんなツイートがバズった。

「そっか子供産んだ経験あると”今年出産したばかり”と聞けば”あっ…”ってなるけど、世間的には”生まれたばかりの子供がいて幸せなのになんで子供を残して…”ってなるのか。産後の母親の死因1位は自殺ってもっと知られて欲しい」

 3児の母だという一般女性のツイートで、15万近い「いいね」がつけられた。

 実際、出産は今も昔も命懸けの作業であり、妊娠や乳児の世話も心身に多大な負担をもたらす。ホルモンのバランスも崩れ、産後うつや育児ノイローゼも起きやすいのだ。

 2001年から10年にかけては、3人の女性アナウンサーが育休中に亡くなった。日本テレビ出身でフリーの米森麻美アナは第1子を出産直後に急逝(死因は明かされていない)、日本テレビの大杉(旧姓・鈴木)君枝アナ、山本真純アナは育休中にマンションから転落死した。アナウンサーという花形職業に就き、子宝にも恵まれた人たちの相次ぐ悲劇は、メディアや世間を驚かせた。

 ちなみに、10月2日の「ノンストップ!」(フジテレビ系)で「頑張りすぎちゃうママ」についての議論が交わされた際「婦人公論」前編集長の三木哲男はこんな指摘をした。

「完璧主義の人ほどプレッシャーを受けやすい。頑張ってきた人ほど、自分への要求水準が高くなるんです」

 女子アナたちはもとより、トップ女優として活躍してきた竹内さんにも当てはまることかもしれない。

 また、自殺する人にはそれぞれが以前から抱えてきた欠落感や不全感が潜んでいたりもする。彼女の場合、デビューまもない10代後半にこんなことを口にしていたという。

「私、ちょっと複雑な家庭なんで戻る場所なんてないんです。だから、この世界で絶対に頑張らなきゃいけない」(「スポーツニッポン」)

 この時点で彼女は、両親の離婚と母の病死、父の再婚にともなう、継母とその子供たちとの同居という経験をしていた。18歳のとき、桜井亜美の小説『サーフ・ スプラッシュ』(幻冬舎文庫)の解説を担当した際には、まさに「複雑な家庭」ゆえの胸中をそこにつづっている。彼女は自分のことを「連れ子という荷物」と呼び「その思いが自分の心に無理を課していたとは気付かなかった」と書いていた。

 こうした事情を抱えての芸能界デビューは、彼女を強くもしただろう。しかし、強そうに見える人がじつはさびしい、というのもありがちなことだ。自分を「荷物」にたとえてしまうような心性は、往々にして、消えたい、いなくなりたいという衝動にもつながってしまうのかもしれない。

 デビュー当時、彼女を取材した友人は「とにかく淡々とした人」だと評した。同世代の女優やアイドルのような、キャピキャピした感じがなく、どこか醒めたところが異色だったようだ。それでいて、芝居をやれば喜怒哀楽を豊かに演じる感受性も秘めていたわけで、女優としては「複雑な家庭」がプラスに働いてもいたのだろう。

 ただ、感受性が豊かすぎるのも考えものだ。今回、母親の自殺ということから、金子みすゞのケースが思い起こされた。この童謡詩人は26歳のとき、3歳の娘をのこして自殺。夫との離婚が決まり、娘をとられそうになったことへの抗議の死でもあった。

 その背景には、彼女が生きた時代に「母性」という概念が輸入され、彼女がそこに大きな影響を受けていたということもある。夫への遺書には「心の豊かな子に育てたい」「母が私を育ててくれたように」などと記されていた。

 そう言いつつも自分をのこして旅立った母に対し、82年後、娘はこんな思いを語っている。

「ずっと母に置いていかれた子だと思っていた。詩人だから死んだのだと思っていた。今となっては、母の愛情もわかってよかったと思う」

 竹内さんの遺児たちについても、そのショックが懸念されるが、母の愛情を感じながら生きていけることを祈りたい。

 さて、みすゞがそうだったように、母性というものは女性にとって命を懸けてもこだわりたい、あるいはこだわらなくてはならないものなのかもしれない。それは人生を輝かせると同時に、重圧にもなる。妊娠や出産、育児といったものと自殺が無縁ではないのはそういうことだろう。

 そもそも、自殺というもの自体、希死念慮などの病的心理が高じたものだとすれば、一種の病死である。わかりやすくいえば、自殺衝動は心の発作のようなものだ。そして、心臓の発作がさまざまな要因によって起きやすくなるように、心の発作にもそれを起こしやすくする要因がある。

 欠落感や不全感、豊かすぎる感受性、妊娠出産育児のストレスに母性の重圧。竹内さんの死も、そういうものが積み重なり、連動しあった結果だったと考えることもできる。

 もちろん、だからといって、彼女と彼女を知る人たちのつらさが軽減されるわけではない。自殺に限らず、すべての死にはそれぞれの事情があって、のこされた者にさまざまな気持ちを呼び起こす。なかでも彼女の場合は、女性、そして母親であるというところが大きな影響を及ぼしていて、そこが独特のつらさを感じさせるのである。

 文明が進んでも、人間という種をつなぐための役割の大半を女性が担わなくてはならない現実。いやむしろ、文明が進めば進むほど、女性がその役割とは別の新たな負担も求められたり、その負担を自ら求めるようになったりするという現実もある。そうした現代女性の宿命が、彼女の死にも深く関わっているように思われるのだ。

●宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

◇相談窓口
■日本いのちの電話連盟
・フリーダイヤル0120・783・556
(16時〜21時、毎月10日は8時〜翌日8時)

■よりそいホットライン
・フリーダイヤル0120・279・338
・IP電話やLINE Outからは050・3655・0279
(24時間)

■こころのほっとチャット
・LINE、Twitter、Facebook @kokorohotchat
(12時〜16時、17時〜21時、最終土曜日から日曜日は21時〜6時、7時〜12時)