韓流アイドルグループ、BTSに代表されるK‐POP(韓国ポップカルチャー)は、もはや日本にとどまらず、世界を席巻している。その波は日本の芸能界をものみ込み、“日本版K‐POP”を生み出した。その源泉を探る。



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 BTSが8月にリリースした「Dynamite」は米ビルボードのシングルチャートで初めて1位を獲得し、YouTubeのミュージックビデオ(MV)の再生回数は4億8千万回を超える。先月には国連総会で世界の若者たちに向けてスピーチを行うなど、その影響力は世界に広がる。

 10月15日には所属するビッグヒットエンターテインメントが韓国取引所に上場し、時価総額が約1兆円となった。

 世界の音楽に精通する音楽ジャーナリストの沢田太陽氏はこういう。

「僕が住むブラジルでも、もはやBTSを聞かない日はないほど。ブラジルでは日本のポップカルチャーが長く愛されてきましたが、もはやそれが韓国のものに置き換わりました」

 沢田氏は「BTSが頂点に上り詰めたのは必然だった」と続ける。

「アイドルという概念で捉えて、色眼鏡で見てしまっている人は多いと思いますが、MVなどでデビューからの曲を聞いて気が付くのは、とんでもない技術の高さです。ボーカル、ラップ、ダンスとどれをとっても一流。今の世界的熱狂は、1960年代にイギリスでビートルズやローリング・ストーンズが現れ、アメリカに進出していったころの空気を彷彿とさせる」

 アーティストとして世界を席巻し、音楽のみならず、今やその一挙手一投足が注目を集めるBTSの影響力は、日本にも大きく波及している。

 3月に韓国のエンターテインメント企業・CJENMと吉本興業が組んで、日本人男子11人組の「JO1」がデビュー。6月には韓国の大手芸能事務所・JYPエンターテインメントがプロデュースする日本人9人組のガールズグループ「NiziU」がプレデビューし、大ブレーク中だ。デジタル配信した楽曲のMVは1億4千万回再生と、今も数字を伸ばしている。同事務所の先輩グループである「TWICE」にも3人の日本人が所属するなど、“K‐POP”での活躍が目立ち、今ではアイドル志望の若者たちがこぞって韓国を目指しているという。国内外のポップカルチャーに詳しい武蔵大学非常勤講師の松谷創一郎氏の解説。

「今、韓国を目指す若者たちは間違いなく増えています。AKB48グループを辞めて韓国に渡るアイドルもいますし、韓国でデビューする人もいます。本格的にダンスミュージックをやりたいという人がどんどん流出している状況です」

 快進撃を続けるBTS以外にも、世界的なK‐POPブームをけん引するグループは目白押しだ。今月初めにリリースされた、女性グループ「BLACKPINK」の新アルバムは米ビルボードのアルバムチャートで2位を記録。そのほか、「SuperM」や「MONSTA X」「NCT127」といったグループのアルバムが今年の米チャートをにぎわせている。このブームの一番の要因は国を挙げたエンタメ支援だ。90年代後半から文化政策とIT政策を推進し、2000年代に入ると政府の省庁に韓国コンテンツ振興院を設立。音楽などの海外展開の活性化を図っている。

「消費者の音楽へのアクセスの仕方が、この10年間で大きく変わりました。動画サイトやストリーミングサービスなど、インターネットを介したグローバルな展開が世界のスタンダードになり、スマートフォンやSNSの普及によって、ますますその流れは加速しています。韓国はこの20年、国が率先してデジタル化を進めてきて、K‐POPがうまくアジャストした。世界のトップを取れたのはマーケティングのうまさに尽きる。それが実を結んだ形です」(松谷氏)

 BTSもBLACKPINKも楽曲のデジタル配信はもちろん、ネットを活用して世界にアピールしてきた。YouTubeチャンネルの登録者は前者が約4500万人、後者は約5100万人だ。動画配信サービスを利用して生の姿も見せるなど、ファンサービスも積極的に行う。

「日本は『CDを買わせる』という古いビジネスモデルに依存してきた結果、インターネット対応が10年は遅れている。国内で満足するあまり、世界に通用するアイドルは育たず、今のままでは日本のアイドル界は衰退していく一方でしょう」(同)

 とはいえ、韓国にとって日本が大きな市場であることは間違いない。松谷氏によれば、K‐POP産業の輸出額のうち日本が3分の2を占める。

「K‐POPが本格的に日本進出したのは00年代に入ってから。BoAや東方神起が日本でブレークして徐々に浸透していきました。そして10年前後に、KARAや少女時代がやってきて完全に定着しました」

 その後、BTSらが登場し、日本でのK‐POPは勢いを拡大していく。そしてたどり着いたのが今の日本人プロデュースの流れだと指摘するのはK‐POPライターの酒井美絵子氏だ。

「KARAらのころから、『韓国から来たものだからいい』という空気感ができた。BTS人気の爆発で日本でのK‐POPの認知度は確固たるものになり、もはやグループを売り出すだけではなく育成システムを売る段階にまで来ている。それがNiziUやJO1です。今、韓国の事務所は日本人を始め、アジア人を多く抱えています。BTSが所属するビッグヒットエンターテインメントにも日本人の練習生がいます。今後、事務所が日本人グループを作って輸出するという流れができると思います」

 今月6日にはJYPの代表であるパク・ジニョン氏が朝の情報番組に出演し、男性版NiziUの構想を明かして話題を呼んだ。酒井氏はJO1も含めて、日本での男性グループに期待する。

「新型コロナの影響もあって、韓国のグループが来られない今、うっぷんがたまっている日本のK‐POPファンの受け皿になると思います」

 沢田氏はこう苦言を呈する。

「もはやK‐POPは世界でクールと受け入れられています。そのイメージだけを求めるのではなく、厳しいトレーニングでパフォーマンスを追求しなければ韓国には追いつけないと思います」

“日本版K‐POP”の行方から目が離せない。(本誌・秦正理)

※週刊朝日  2020年10月30日号