映画「ミッドナイトスワン」で、ブルーリボン賞をはじめ数々の賞に輝いた。今年、演じるのは、江戸幕府第15代将軍・徳川慶喜だ。レギュラー初出演となる大河ドラマの撮影に、どんな心構えで臨んでいるのか。AERA 2021年3月8日号から。



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「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一と、江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜。先月14日から放送が開始されたNHK大河ドラマ「青天を衝け」の序盤では、若かりし頃の2人の人生を軸に、江戸後期から幕末に至るまでの物語が描かれる予定だ。

草なぎ剛(以下、草なぎ):今は徳川最後の将軍という大役を演じられるうれしさ半分、緊張が半分という感じですね。僕は歴史に詳しくないので、「慶喜役です」と言われても、正直、最初は全然ピンとこなかったんですよ。でも、台本や歴史の資料を読み進めるうちに、鎖国が終わって外国文化が流れ込んできた激動の時代に、国や人々の行く末を考えて行動した慶喜はすごくカッコいいなと思うようになりました。撮影が始まって、少しずつ自分の気持ちも昂っています。

──慶喜は、将軍職には消極的であった一方、「家康の再来」とうたわれるほど聡明な人物だったとも伝えられている。本作の制作統括を務める菓子浩は、「優秀だけど複雑で、何を考えているか読めない慶喜を演じるには、何よりもカリスマ性が必要」と考え、草なぎをキャスティングしたという。

■身近に感じてほしい

草なぎ:カリスマ性ですか……。それは、キャスティングミスでは?(笑)。いや、そう言っていただけるのはとてもうれしいんですけどね!

 ただ一方で僕は、慶喜をもっと身近に感じてもらいたいという思いもあるんです。将軍というと、すごく偉そうで、何の不自由もないイメージがあるかもしれませんが、慶喜はいろいろなしがらみの中で苦悩することも多かったと思うんですよ。それを観てくださる方に伝えられれば、もっと慶喜に共感して愛してもらえるんじゃないかな。

 将軍として冷静に周囲を引っ張っていくときと、ひとりの人間としての感情があらわになるときのコントラストをうまく演じ分けたいですね。

──後年、将軍を辞して、一個人として生きることになった慶喜の人生は、江戸300年の歴史が終わり近代化の道を歩み始めた日本社会の表象ともとれる。

草なぎ:物事の始まりって、いつもワクワクするけど、一方で「終わりの美学」みたいなものもきっとある。そしてひとつの終わりは、もうひとつの始まりでもあります。これは慶喜だけじゃなくて、全ての人に通ずる人生のテーマですよね。慶喜がどうやってひとつの時代を終わらせるのか、楽しんで観てもらいたいなと思います。

■大河は「半端じゃない」

──2004年、NHK大河ドラマ「新選組!」に、慶喜の家臣だった榎本武揚役で出演している。大河の撮影は2回目となるが、「独特の緊張感には慣れない」と話す。

草なぎ:前回も思ったんですけど、大河はセットが半端じゃないの! スタジオもすごく大きくて、スタッフさんも何人もいて、ピンと張り詰めた空気の中で演技しないといけない。前回は、(香取)慎吾の演技をスタジオの隅から見てるだけでも緊張したからね。

 でも、今回は時を経て、僕もそれなりに経験を積んできたので、「一発かましてやるか〜」って余裕な感じで参加したんですよ。だけど、スタジオに入った瞬間「あわわわわ……」ってなりました(笑)。もうレベルじゃなくて、ラベルが違うね! 大河は、ほかのドラマとはジャンルが違う。

 そういうときは落ち着こうと思っても難しいから、「ああ……僕ちゃんこんなに緊張しちゃって……かわいいやつだな」って、心の中で自分を俯瞰(ふかん)するようにしています。そうやって日々乗り切ってますね。

──大河は豪華な俳優陣も見どころの一つ。今回も、水戸藩主で慶喜の父である徳川斉昭役に竹中直人、側近の平岡円四郎役に堤真一など、個性の強いベテラン俳優たちが顔をそろえた。

草なぎ:堤さんとは共演する機会が多いので、「機嫌を損ねないようにしないとなー」って思っています。実際は余計なこと言って怒られてばっかりなんですけどね(笑)。堤さんは、貫禄がすごいんですよ。でも、芝居の中では、僕が将軍で、堤さんは家臣で、僕のほうが偉いわけでしょう? だからオーラにのまれないようにしないといけないなって。演技しているときは常に背筋を伸ばして、堂々として見えるように頑張っています!

■「100%」を求めない

──撮影で大変なこととして、「せりふが長くて、言い回しが難しい」ことを挙げた。これまで仕事で壁にぶつかったときは、どのようにして克服してきたのだろうか。

草なぎ:うーん……しかたがないと思うしかないですよね(笑)。努力は必要だと思いますけど、失敗にとらわれていると、どんどんネガティブになってしまうから、「100%うまくいくことなんてない」って、最初から僕は思っているわけです。完璧を求めないことで心が楽になって、逆に物事がうまく進んでいったことって、これまでにも結構あったので。計画にとらわれすぎないほうが、いい結果が出るんじゃないかな。

──大河の撮影が進む一方で、今月6日には、主演ドラマ「ペペロンチーノ」が放送される。草なぎが演じるのは、東日本大震災による津波でレストランを失ったイタリアンシェフだ。被災者たちの「その後」の喪失と再生の物語が描かれている。

草なぎ:東日本大震災当時、僕はドラマの撮影で地方にいたんですけど、ニュースで震災の被害を知ってすごくショックを受けたことを覚えています。それから何度か被災地を慰問させていただいたのですが、今回の撮影で宮城県を訪れたときも、まだ被災当時から手つかずのまま残されている場所があって驚きました。その一方で、大きな被害を受けた場所でも、今はたくさんのお店ができて人のにぎわいが戻ってきたところもあるんです。一口に「復興」と言っても、地域差があるんですね。

──撮影中は、被災者から話を聞き、一緒に食事をとる機会も多かった。

草なぎ:牡蠣(かき)の養殖が盛んな町で、炊き出しとかもしてくださって。被災地の方からすれば、軽々しく話したくないことも当然あると思うんですけど、すごく温かく迎えていただきました。僕自身、東京にいると気づけなかった発見も多くあって、今回のドラマに参加できて本当に良かったです。このドラマがもう一度日本中の皆さんが震災について振り返るきっかけになってくれたらいいなと思っています。

──震災から今年で10年が経つ。自身にとっても環境の変化が訪れた10年だった。だが、今年の抱負として掲げたのは、意外にも「習慣」の2文字だ。

草なぎ:YouTubeでも話したんですけど、愛犬に与えていた食事の量が少なすぎたことが最近判明しまして……。成長や年齢に合わせて量を調節しないといけないんですけど、最初にプロのトレーナーに指示された量を与えていれば大丈夫だって思い込んでいたから、犬の体がやせてきていることに気付かなかったんです。そのとき「習慣ってこわいなあ」って思ったんです。

──「コロナ禍で状況がめまぐるしく変化する今だからこそ、習慣を見直して大切にしたい」と話した。

草なぎ:自分のことでも、状況をしっかり確認せずに思い込みでやってしまっていることって、意外にたくさんあるんじゃないかなって思ったの。人生って、ある意味、「無意識にやっていること」の積み重ねじゃないですか。食事にしても、睡眠にしても。それをこの機会にひとつひとつ見直したいなって思ったんです。

 無意識にやっている習慣をより良くすることで、大きなことをやろうとしないでも、暮らしの幸福度を上げていけるんじゃないかなって思います。

(ライター・澤田憲)

※AERA 2021年3月8日号