脚本家の橋田壽賀子さんが4日、亡くなった。95歳だった。「渡る世間は鬼ばかり」「おしん」など数々の名作ドラマを手掛けた橋田さん。年齢を重ねても精力的に活動してきたことで知られるが、作家・林真理子さんが週刊朝日で連載中の「マリコのゲストコレクション」1千回記念スペシャルにも登場していた。そこで語っていた理想の死と終活とは? 記事を再掲する。


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林:去年また船旅をしてらしたんでしょう? 今度はどちらにいらしたんですか。

橋田:グアム・サイパンのニューイヤークルーズ。その前は上海と蘇州に立ち寄るアジアクルーズへ行きました。

林:でも、旅の途中ですごい大病をなさったんですよね。

橋田:はい、去年の2月のアジアクルーズの途中、ベトナムで下ろされて入院しました。

林:ジェット機をチャーターしてお帰りになったんですって?

橋田:そうなんです。入院4日目に緊急にジェット機が迎えに来てくれまして。

林:チャーターすると2千万円ぐらいかかるんですってね。

橋田:2千何百万かかりました。

林:それ、ポンとお支払いになったんですか。

橋田:いえ、それが保険なんです。そのときだけの旅行保険だから2万円ぐらいしか払ってないのに、ほんとに保険会社に申し訳ないと思って(笑)。緊急のときのお医者さんと看護師さんがついて、気がついたら東京の病院でした。

林:お元気になられてよかったです。

橋田:でも、あのまま死ねたらよかったなと思って。もうなんの心残りもないんです。

林:このあいだ「NHKスペシャル」を見ましたら、点滴の中に薬を入れて、「皆さんありがとう。幸せでした」と言って眠ってるうちに息を引き取るというのをやっていて、私もこれがいいなと思いました。

橋田:そうなんですよ。でも、日本はダメですからね。安楽死が認められているスイスに行っても、いろんなチェックがあって、死なせてもいい人だとわかったら死なせるんです。

林:私の周りの人も、「あんなに楽に死ねるんだったら、そのためのお金をとっておきたい」と言ってました。

橋田:そうでしょう。どうして日本は許されないんでしょうね。「ダメなやつは死ね」ってなると、このあいだの相模原障害者殺傷事件(2016年)みたいなイメージを抱かれて、そんなことを載せたら炎上しちゃうんですよ。だから「安楽死を認めろ」なんて言っちゃいけないんですって。

林:そうなんですよね。

橋田:私みたいに、いくつまで生きてるのかしら、みたいなのは安楽死があればいいなと思うんですけど。

林:うちの母は101歳で亡くなりましたけど、「いつまで生きなきゃいけないのかしら。バチが当たってこんなに長生きさせられてる。10年前に死んだら、幸せな人生だったと言えたけど、もういやだ」って何回も言ってました。

橋田:そうでしょう。私も早く死にたいと思って。

林:話が暗くなりましたので、ちょっと話題を変えて……。

橋田:私、明るく話してるのよ。私にとっては今いちばん明るい話なんです。

林:先生、週に3回トレーニングをなさってるそうですね。

橋田:はい、月水金と。じゃないと車いすになっちゃいます。腰を2カ所手術してますから。

林:ストレッチやったり、軽い運動をやったり?

橋田:半分ストレッチで、あとは運動ですね。

林:先生はずっと水泳をやってらっしゃるので有名でしたけど、何歳までおやりになっていたんですか。

橋田:10年ぐらい前まで。近所のホテルにプールがあったので、朝、必ず行って一人で800メートル泳いでたんです。誰もいなくて、とても良いプールだったんだけど、そのホテルが代替わりになって、プールの営業をしなくなっちゃって。それで市民プールに行ってたんだけど、来てる人が「先生、先生」って寄ってくるのがイヤで行かなくなっちゃったんです。そしたら体がダメになってきましたね。

林:先生は中高年のアイドルでいらっしゃるから、先生を見つけたら、みんなタダじゃおかないという感じですよね。

橋田:とまったら話しかけられるから、とまらないで泳がなきゃならないでしょ。疲れちゃうんです(笑)。船に乗るとプールがあるので、ちょこちょこ泳いでますけど。

林:船旅っていくらぐらいかかるんですか。いい部屋だと高いんでしょう?

橋田:私は2人部屋を一人で使いますし、ついていった人も一人で使いますから、4人分になるんです。一周103日間で、2300万ぐらいかかりますね。もう千泊しました。

林:私も行きたいなと思ったけど、ちょっと無理かもしれない……。

橋田:私は旅がしたくてお金をためてたようなもんですから。

林:お金を使うのは船旅とお手伝いさん代ですか。

橋田:お手伝いさん費に月70万ぐらいかかるんですよ、残業つけると。年をとったらそういう暮らしがしたくて。それに昔は仕事仕事で、お金を使う暇がなかったからたまっちゃったんです。

林:ご主人(元TBSプロデューサー岩崎嘉一氏)が財団(橋田文化財団)のためにお金を全部とっておいてくれたんですよね。すごくいいご主人ですね。

橋田:そうですか? 亭主が死んでから、株券を売ったら2億8千万円あって、これでしばらく遊んだり旅行に行こうと思ってたんです。だけど亭主は私より四つ若いから、自分のほうが長生きすると思ってたらしくて、私が死んだら財団をつくるつもりだったんですね。「そのためにお金をためてたんだから、使ったら化けて出るわよ」って石井ふく子さん(プロデューサー)に言われて、じゃあ財団をつくろうと思ったら、財団をつくるのには資金が3億円いるというんです。

林:ひぇ〜! お金、足りないですよね。

橋田:そう。それでしょうがないから「渡る世間は鬼ばかり」を書いたんです。1年で終わるつもりだったら、それが今まで続いたんですけど、それも「書き続けろ」という主人の遺志かなと思って。そういうわけで、亭主が死んだとき私は無一文だったんです。

林:まあ、そうだったんですか。

橋田:「橋田賞」(放送文化に貢献した番組や人物に与えられる賞)の賞金を出したりパーティーをしたりするので、利息と原稿料ではやっていけないんですね。しょうがないから講演に行きました。全国を回って、講演ってなんてオイシイんだろうと思いました。1年で2千万ぐらい稼ぎましたよ。

林:すご〜い!

橋田:それを財団の費用にしたんです。3年ぐらいしたときに再放送が始まって、再放送料が入るようになって、今や財団は私よりずっとお金持ちです(笑)。

林:今、「橋田賞」が非常に権威あるものになって、脚本家の方々や俳優の方々が欲しがってますけど、その運営費用を再放送とかで補ってるんですね。

橋田:はい。私は作品をテレビ局に買い取られるのがイヤなんです。NHKでもどこでも、絶対売らないです。「買い取られてたまるか」みたいな。そんな姿勢を続けていたら、今、再放送されると原稿料の半額が入ってくるんですよ。

林:ほぉ〜。それは大きいですね。

橋田:それから、作品とテレビ局との契約もしないんです。契約したらだいぶ金額が高くなるんですけど、途中で降りられないじゃないですか。私は降りる自由が欲しいから、絶対契約はしないんです。

林:「おしん」なんていまだに稼ぎまくってるじゃないですか。

橋田:はい。でも、NHKは安いですから(笑)。


(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

※週刊朝日  2020年2月14日号の一部を再掲
※年齢や肩書は当時