サイコな純愛モンスターを演じた話題のテレビシリーズが映画化される。かつては抵抗があった「魔性」のイメージも、今はそれを面白がっているとか。どんな心境の変化があったのか。



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 インタビューが始まる前、目の前のテーブルに置いてある週刊朝日を手に取った。

「来年で100周年、今年は99年です」と説明すると、「99歳かぁ。すごいですね。(瀬戸内)寂聴先生と同い年なんて。うちの祖母も今年101歳で、私は長生きの家系みたい。人生まだまだ先が長そうなので、ゆっくり歩いていかないと」と言って、優雅に微笑んだ。

 2019年の10〜11月に全国ネットで放送され、ツイッターでトレンド入りが続出した高岡さん主演の連続ドラマ「リカ」。原作は、第2回ホラーサスペンス大賞を受賞した五十嵐貴久さんのサイコスリラー小説だ。幼い頃から愛に恵まれなかった一人の女性が、運命の相手だと思う男性に出会うと、純愛モンスターと化していく。高岡さんが19歳のときに出会い、これまでも何度か一緒に仕事をしてきた共同テレビの栗原美和子プロデューサーから、「これは、絶対に早紀ちゃんにしかできない役だから」とオファーされた。

「ただ、リカ役をお引き受けする上で、私が戸惑った台詞が一つだけありました。リカは、『この人は運命の相手だわ!』と思い込んだ男性に対して、『雨宮リカ、28歳です』と自己紹介するのですが、いわゆるアラフィフの私が、平然と、『28歳です』という台詞を言えるのかどうか。普通に考えたら、いい年をした私が28歳と自称することで、いくらドラマといっても視聴者は引いてしまうと思うんです。お引き受けするからには、視聴者を引き込める台詞を言わなければならない。それができるのかどうかがすごく怖くて、『やります』とお返事するまでにかなり時間はかかりました。……正直、なくても成立する台詞なんじゃないだろうか、とさえ思いました」

 いざ番組が放送されると、妖艶な魅力を放つ高岡さんが、少女のような口調で「雨宮リカ、28歳です」と話すインパクトは絶大だった。普段からSNSを積極的に活用する世代を中心に、「サイコなリカが怖すぎておもしろい!」「中毒性がある!」と話題になったのだ。

「そのときは、俳優の抱える不安なんて、作品全体から見たらなんてちっぽけなんだろうと思い知らされました。ドラマや映画はチームプレーなので、私の役がちょっと浮世離れしていても、他の役が切実なら、バランスとしては成立するんです。リカは、とても身体能力が高い設定なんですが、好きな人を追いかけて特殊能力を発揮する姿も、映像のプロの手にかかれば、ちゃんと迫力はあるのにユーモラスな画に仕上がって、見応えがあるんです。エンターテインメントって、真面目で真っ当なだけじゃつまらない。人間の突飛な部分や極端な部分をすくい上げて、そこに説得力を持たせることで、一つの作品として魅力的になるんだなと思いました」

 リカ役のことしか考えず、作品としてどうなのかという目で見られなかった自分を振り返り、「作り手の人たちはさすがだな。私はただの女優だな」と思ったという。

「リカ」シリーズは続く。この春は、リカがなぜ純愛モンスターになったかを描いた深夜ドラマ「リカ〜リバース〜」が放送され、18日には、19年に放送されたドラマエピソードの続編となる映画「リカ 〜自称28歳の純愛モンスター〜」も公開される。その宣伝文句でも、「美しき魔性」という言葉が使われているが、高岡さん自身、この5月に、『魔性ですか?』という初のエッセーを出版したばかりだ。本の前書きでは、「若かりし頃は、雑誌のインタビューで、事前に原稿チェックができたとき、“魔性”という言葉が使われていたときは、すべて削除をお願いしてきました」とある。そのときは、魔性イコール悪女というイメージがあったが、大人になって「魔性」を辞書で引いてみると、「人を惑わせるぐらい魅力的な性質」という意味だと知った。以来、40歳ぐらいから、魔性と言われることを気にしなくなったらしい。

「私自身、リカほどではないにせよ、恋愛に夢中だった頃は、すれ違いの中で連絡が取れなくなって、何度も何度も電話をかけてしまうことぐらいはあったと思います。振られたあと、どうしても納得できなくて、『この時間ならいるだろう』と、相手の家に押しかけてピンポンを押したりとか。当時のことを思い出すと、『やだ、私の中にもリカはいるのかも』と(笑)」

 自分の考える幸福の形に固執して、行動をエスカレートさせていくリカを、どこかコミカルに可愛らしく演じられるのは、まさに高岡さんの魔性という才能のなせる業かもしれない。

「考えてみたら、もしかすると女性は誰もが小さなリカを胸の内に抱えているのかもしれないですよね。純愛モンスターに迫られて、最後に男性が情けない本音を漏らすことなんかも、ちょっとしたダークヒーロー的な側面もあったりして」

 実際、映画の中のリカは、タクシーを追い越すほどに速く走ったり、スパイダーマンのように壁に登ったり、超人的な身体能力を発揮する。子供の頃からバレエを習ってきた高岡さんだからこその身のこなしが鮮やかだ。

「バレエを習っていたことは、メリットしかありません。子供の頃はバレエを活かした役も多くいただき、写真撮影でも姿勢がいいとか、舞台をやらせていただくときは、立ち姿が奇麗だねと褒められます。映画で、スパイダーマンをオマージュしたシーンを撮るときも、バレエのときに身につけた体幹がものを言いました。どんな動きをしても体の軸がブレないので、バランスが取りやすいんです」

(菊地陽子 構成/長沢明)

高岡早紀(たかおか・さき)/1972年生まれ。神奈川県出身。88年デビュー。主な映画の出演作に、「忠臣蔵外伝 四谷怪談」(94年・深作欣二監督)、「モンスター」(2013年・大九明子監督)、「雪の華」(19年・橋本光二郎監督)、「ファーストラヴ」(21年・堤幸彦監督)など。18年にオールタイムベストアルバムをリリース。NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」ではテレビ局の社会部気象班デスク・高村を演じる。

※週刊朝日  2021年6月25日号より抜粋