「NEWS」でアイドルとして活躍しながら、作家としても意欲的に活動する加藤シゲアキさん。芸能人が作家活動を続ける苦悩や次回作について、作家・林真理子さんが伺いました。

【加藤シゲアキ『オルタネート』で実感 新潮社の校閲がすごい!】より続く



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林:私、今回お目にかかるんで久しぶりにデビュー作の『ピンクとグレー』(12年)を読み直したら、初めてなのにあれをちゃんと書けたって、やっぱりすごいですよ。きちんと構成もできていて、キャラクターも二人をちゃんと書き分けているし。

加藤:あのときはコメントもいただき、ありがとうございました。

林:あのあと、いろんなインタビューで「芸能人が書いたとか、ジャニーズが書いたとか言われてすごく悔しかった」とおっしゃってましたけど、加藤さんのそういう気持ちがいちばんわかるのは、たぶん私だろうなと思う。ご存じないでしょうけど、私も40年近く前はテレビにいっぱい出ていたので、小説を書いても「まともなものなんか書けるわけない」ってずっと言われていて、直木賞をとったときも「話題づくりのためにとらせたんだ」とか言われたんですよ。

加藤:僕、とってないのに言われますからね(笑)。

林:これだけ書いているのにそう言われて悔しい、という加藤さんの気持ち、私はすごくわかるんです。でも、賞を一つとっておくと世間の目がだいぶ変わるし、特に吉川英治文学新人賞というのはすごくいい賞ですから、その賞をとったのはよかったな、と思って。

加藤:ありがとうございます。林さんだけでなくて、伊集院静さんも同じような思いをされたらしくて、だから以前は、文学賞をとらないとダメだろうと思っていたんです。でも、ここまで書いてきて賞に縁がなかったから、もはやそういう悔しさも薄くなってきていて。若い人が読書離れしている昨今、『オルタネート』をきっかけに本を好きになってもらえる、そんな入り口になればいいなという気持ちで書いていましたね。だから文学性みたいなものはいったん置いて、リーダビリティー(文章の読みやすさ)を大事にしたいなと思って書いてました。

林:なるほどね。

加藤:だからこの作品で今年の直木賞の候補になったとき、直木賞はとることがいちばん難しい賞というイメージがあったので、「えっ、なんで?」と思って、自分がいちばんびっくりしました。いろんな方の選評を読んで、「おっしゃることはわかるけど、最初からそんなつもりで書いてないからさァ」みたいな気持ちになったんですけど、それが今回勉強になったというか、次に向かってやる気がすごく出ました。

林:それを聞いてすごくうれしいです。加藤さん、直木賞ノミネートはまだ1回ですよね。私は4回だったけど。

加藤:4回ですか。僕、たった1回の「待ち会」(担当編集者たちと選考結果を待つ集まり)で、こんなに大変なんだと思いました。精神的に不安定でしたね。「残念ながら……」って聞いたときのみんなのガッカリした顔を見るのはつらかったです(笑)。

林:私のときは、ワイドショーの人たちとかが数十人来たんですよ。

加藤:それ、4回ともですか。

林:来ました。私が「皆さん、毎回毎回集まっていただいて。NHKの紅白みたい」と言ったら、それもまたたたかれて(笑)。直木賞をとれば作家として認めてもらえると思ったのに、とったあともああだこうだ言われるし、それから10年間、賞もなくてすごくつらい日々になりましたよ。直木賞以降にもまだあるんです、賞レースが。

加藤:吉川英治本賞とかですか。

林:吉川英治本賞まで行くのは大変です。その前に柴田錬三郎賞とか中央公論文芸賞とかいろいろあって。でも、直木賞はいちばん華やかでわかりやすいから欲しいですよね。テレビの画面にテロップが出るのはあの賞だけだし。

加藤:ああ、確かに。

林:この業界、「又吉以前」「又吉以降」というのがあって、又吉(直樹)さんが芥川賞をとったあと、いろんな人が書くようになったけれど、華やかな芸能人の人って、1作か2作で書くのをやめちゃうんですよね。だって、そんなにお金にならないし。加藤さんがお書きになるものって、私から見るとうらやましいほど売れるけど、印税なんて加藤さんにしたら「ケッ」と思うぐらいわずかなものでしょ。

加藤:どうですかね(笑)。でも、もはや作家活動がやめられなくなっているというか。

林:加藤さんほど書いている人、テレビに出てる人で誰もいませんものね。テレビに出ている人で「作家でコメンテーター」と言いながら何も書いてない人、いっぱいいるんだから。

加藤:アハハ(笑)。

林:書き続けるってすごいことだと思うし、しかも、どんどんレベルアップしているから、努力のたまものだなと思っていますよ。こういう華やかな仕事をしながら、これだけのレベルのものをちゃんと書き続けるって、すごいなと思う。

加藤:又吉さんより先に書いててよかったなと思いますね。

林:今、もう次回作を書いてるんですか。

加藤:今はプロットをつくっている感じですね。『オルタネート』を出版して反響を見て、2カ月ぐらい待ってから次作に取りかかろうと思ってたんですけど、『オルタネート』がわりと話題になったのでバタバタになって、それが落ち着いてきたので、そろそろ次作に取りかかろうかなと思っています。

林:加藤さん、こっちの業界に入ってくださるみたいで、うれしいですよ。

加藤:前のこの対談(12年3月30日号掲載)で、林さんに「加藤さんは第二の島田雅彦になりなさい」と言われたこともあって、僕は作家として体たらくなビジュアルにはなれないという緊張感がすごくあるんですよ(笑)。

林:大丈夫です。島田さんも年とってきたし、そのあとが出てこないから(笑)。女性の作家は、川上未映子さんとか綿矢りささんとか、アイドル系のきれいな人がいっぱい出てきていますけど、男性作家が不作で(笑)。

加藤:そんなビジュアルの話を、作家として言っていいのかどうかわからないですけど(笑)。

林:いや、それは大切ですよ。「ダ・ヴィンチ」の表紙になってサマになる作家ってそんなにいないし、加藤さん、さっき「若い人に本の楽しさを教える人になりたい」と言ってらしたでしょ。いま私たちの業界の救世主は芦田愛菜ちゃんと加藤さんですよ。

加藤:愛菜ちゃん、すごいですよね。月30冊ぐらい読んでますもんね。

林:みんなもっと功利的に考えて、愛菜ちゃんみたいに、あんなに忙しくても本さえ読んでいればいい学校に入れるんだ、ということがわかってくれればいいなと思ってるんです。でも加藤さん、もともと本はそんなに好きじゃなかったんですって?

加藤:読んではいたんですけど、自分にフィットする本に出会えなかったんですよね。

林:ああなるほど。今の若い人は本を読まない、っていわれているけど、「これは自分の本だ」と思える本に出会えてないのかもしれない。

加藤:「これ、俺の話だ」という本に、僕は大学生ぐらいにいくつか出会って、そのあとたくさん読んだし、読んでなきゃ書けないこともわかったんですけど、逆に言えば、本が好きすぎたら「自分には書けない」と思ったでしょうね。大学を卒業してすぐ小説を書いたとき、あんまり本を読んでなかったからこそ、僕はずうずうしく「小説書けるだろう」みたいな、少し調子に乗ったスタンスで作品に向き合えたと思うんです。

林:私、加藤さんを新進の作家としてずっと見てきてたから、NEWSの活動もよく知らないんだけど、このあいだ「モダンボーイズ」という舞台を見せていただいて、「ほんとにアイドルスターなんだな」と思って認識を新たにしましたよ。女性トイレで並んでると、みんなが「シゲってさあ」とか「シゲがね」とか言ってるから、「そうか、シゲって呼ばれてるんだ」と思って発見もあって。

加藤:アハハハ、そうですか。

林:あれは木村拓哉さんがやられた舞台なんですって?

加藤:おそらく木村くんが爆発的な人気になる前夜みたいなときに出られた舞台で、非常に注目度が高かったんだと思います。それを27年ぶりに再演したんですよ。

林:すごくおもしろい舞台でしたよ。そして今度はご自分の作品(「染色」)が舞台化されて、いま公演中(編集部注:「染、色」6月20日まで東京グローブ座、6月24〜30日・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ)ですけど、ご自分で脚本も書かれたんでしょう?

加藤:そうなんです。

林:脚本は、小説とまた違いますよね。

加藤:ぜんぜん違いますね。人間の言葉のやりとりだけで物語を展開していくので、映像と違ってカメラのアングルに頼れない。でも、それがおもしろかったです。セリフと描写を考え直す機会になりましたね。ナチュラルに会話しているようで少し違和感があるようなセリフも舞台だと必要になってくるんですよね。うまい役者さんだと説明ゼリフもウソくさくなく言ってくださいますけど。すごく勉強になりました。

(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)

加藤シゲアキ(かとう・しげあき)/1987年生まれ、大阪府出身。青山学院大学法学部卒。2003年に結成された「NEWS」のメンバーとして活動、ドラマ「3年B組金八先生」「時をかける少女」「嫌われる勇気」などに出演。執筆活動も展開し、12年に『ピンクとグレー』で小説家デビュー、16年に映画化。以降精力的に執筆活動を続け、今年『オルタネート』で、第42回「吉川英治文学新人賞」を受賞。5月には同作品が「高校生直木賞」も受賞した。自身の短編小説を自ら戯曲化した舞台「染、色」が上演中。6月30日にはNEWSのニューシングル「BURN」が発売。

>>【加藤シゲアキ「デビュー後、初めてほめられたのが文章だった」】へ続く

※週刊朝日  2021年6月25日号より抜粋