テレビの世界で年末の風物詩と言えば、大みそかに放送される『NHK紅白歌合戦』である。テレビを見る人が減っていると言われている昨今でも、コンスタントに30〜40%台の視聴率を獲得している大人気番組だ。



 一方、そんな『紅白』に負けないくらいの存在感を誇っているのが、日本テレビの『笑ってはいけない』シリーズだ。2006年以降、『紅白』の裏で真っ向勝負をして、同時間帯で民放ナンバーワンの視聴率を誇る人気番組として定着した。

 企画内容は、ただ底抜けに馬鹿馬鹿しい笑いを提供するのみ。ためになる情報も泣かせる要素も一切なく、年またぎの瞬間のカウントダウンすらない。

 9月20日、そんな『笑ってはいけない』が今年は休止となることが発表された。その代わりに新しいコンセプトの6時間のお笑い番組が放送されることになる。

 8月には、BPO(放送倫理・番組向上機構)の青少年委員会が、痛みを伴うことを笑いの対象とする番組について審議対象とすることを明らかにしていた。これが報じられたとき、「『笑ってはいけない』の存続も危ういのではないか」などと噂されていた。

 直接の因果関係は不明だが、たとえBPOの件がなかったとしても、体を張るような笑いについて世間の目がどんどん厳しくなっているという状況はあった。

 芸人が尻を叩かれたりビンタをされたりするのが恒例になっている『笑ってはいけない』シリーズは、遅かれ早かれ問題視されて、番組が続けられなくなっていたかもしれない。そうなる前に余力を残した状態で終了させるというのは、ある意味で賢明な判断であるとも言える。

『笑ってはいけない』シリーズが大ヒットした最大の理由は、企画のフォーマットがよくできていることだ。この番組では、ダウンタウンの松本人志と浜田雅功、ココリコの遠藤章造と田中直樹、月亭方正のレギュラー陣5人が、1つの空間に閉じ込められる。

 そんな彼らのもとに次々と「笑いの刺客」が襲いかかり、あの手この手で彼らを笑わせようとする。笑ってしまったら、そのたびに罰として尻を棒で叩かれる羽目になる。



「笑ったら叩かれる」というのは、ルールがシンプルでわかりやすい。そして、いまやお笑い界の権威となったダウンタウンの2人が尻を叩かれて悶絶していると、それだけでおかしく見える。

 この企画の核心は「笑ってはいけない」という単純明快なルール設定にある。人は笑ってはいけない状況に陥ると、ちょっとしたことで笑いがこらえきれなくなってしまったりするものだ。レギュラー陣が叩かれまいと必死で笑いをこらえたり、こらえきれずに吹き出したりする様子を見て、視聴者の方も思わず笑ってしまうことになる。

 もともとこの特番のベースになっている『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』では、笑いをこらえるルールが課された企画が行われてきた。

 たとえば、「七変化」という企画では、真面目な会議中に芸人が意味もなくさまざまな変装をして登場する。会議に参加するメンバーは、それを見て笑ってしまったら罰金を支払わなくてはいけない。

 また、「サイレント図書館」という企画では、静かにしなくてはいけない図書館というシチュエーションで、メンバーが一斉にカードを引いて、運悪く選ばれてしまった人が過酷な罰ゲームを受ける。それを見たほかのメンバーは笑うのを我慢しなくてはいけない。

『笑ってはいけない』シリーズの発案者でもある松本は、誰よりも貪欲に新しい笑いの可能性を追い求めてきた。だからこそ、「笑いをこらえなくてはいけない状況は面白い」という真理にたどり着き、そこから斬新な企画を次々に生み出すことができたのだ。

 長年にわたって多くの日本人を笑わせて大みそかを盛り上げてきた『笑ってはいけない』シリーズに対しては、終わってしまって残念だというよりも、「今までありがとう」という感謝の言葉を捧げたい。(お笑い評論家・ラリー遠田)