9月27日、女優の竹内結子さん(享年40)が亡くなってから1周忌をむかえた。竹内さんは多くのドラマや映画に出演したが、その中でも、30歳のときに出演したドラマ「ストロベリーナイト」(フジテレビ系)は、その後の代表作となった。同作品の佐藤祐市監督は、竹内さんとぶつかり合いながら女性刑事の「姫川玲子」をつくった日々を今でも鮮明に覚えている。佐藤監督が竹内結子さんとの思い出を語ってくれた。

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「結子さんが亡くなったばかりの頃は、私自身、本当にショックを受けていました。一緒に仕事をした役者さんやスタッフ全員から愛されていたので、みんな本当に辛かったと思います。その時も、マスコミからコメントがほしいと言われたんですが、結子さんに対してはいろんな思いがありすぎて、『ちょっと勘弁してください』とお断りしていました」

 竹内さんは19年に再婚した夫で俳優の中林大樹(36)と、当時14歳の長男、生後8カ月の次男を残し、亡くなった。突然の訃報には日本中が衝撃を受け、悲しみに包まれた。

「亡くなってから1年たった今でも、結子さんのことを思い出します。一緒に撮影現場でドラマ制作に明け暮れた苦しみや喜びは、忘れたくないし、かけがえのない思い出です。まだ心の整理はついたわけではないですが、やっと振り返れるようにはなりました」

 佐藤監督と竹内さんは2010年からドラマ「ストロベリーナイト」シリーズの監督と主演女優として仕事を共にし、2013年の映画化でもタッグを組んだ。竹内さんは初の女性刑事役への挑戦がハマり、彼女が演じた「姫川玲子」は当たり役となった。ドラマは大ヒットしてシリーズ化され、映画の興行収入は21億円を超えた。

「最初は2010年、2時間10分のスペシャルドラマ『ストロベリーナイトSP』をつくったんです。それが評判が良くてね。11年夏には3カ月かけてドラマ11話分を撮った。それが翌年1月から連続ドラマとして放送されました。結子さんとは撮影現場でぶつかり合ったこともあります。結子さんは、わからないことはわからないと言うし、できることはできる、できないことはできないとハッキリと言う。逆に、私が『今の演技良かったよ』ってほめると、めちゃめちゃ喜ぶ。感情表現がストレートな女優さんなんです」

 竹内さんは、NHKの朝ドラ「あすか」(1999年)のヒロインを演じた後、ドラマ「ランチの女王」(フジテレビ系 2002年)で月9初主演を果たし、映画「いま、会いにゆきます」(04年)や「サイドカーに犬」(07年)など話題作に多数出演し、人気女優の地位を築いていた。

「それまでは、優等生で真面目というか、わりと清純派の役が多かった印象でした。結子さんとしても、30代になって、これまでの役者としての自分を壊したいと思っていたのかもしれません。姫川玲子という役には、本当に一生懸命というか必死でした。私もそれなりにドラマ経験を積んできて、次はリアルな刑事ドラマをやってみたいと思っていた時だったし、いろんなタイミングがピタっと合ったんでしょうね」

「ストロベリーナイト」の原作は、誉田哲也氏の警察小説「姫川玲子シリーズ」。竹内さんは警部補として、男性刑事ばかりの部下を束ねる主役の姫川玲子を演じた。

 事件の描写は首を切って血が飛び散ったり、バッドを腹に叩きつけたりするなど、猟奇的なシーンも多かった。竹内さんが演じた姫川は、女子高生の頃、公園付近で何者かに襲われ、腹部を刺されて性的暴行を受けた過去があるという、難しい役どころでもある。

「2010年5月頃、初めて結子さんと会議室でお会いした時、彼女は前のめりで、食い入るように、私の話を聞いていたのが印象に残っています。レイプ被害に遭われた女性が、自分のつらい経験をつづった手記が何冊か出ています。結子さんにそうした手記を読んだことはありますかと聞いたら、何冊かは知っていましたが、読んだことがないとのことでした。そこで、ぜひ読んでみてくださいと伝えたら、実際に何冊か読んでくれたみたいです」

 ドラマでは姫川が過去のトラウマから、法廷で被告の弁護士に泣き叫びながら抗議するシーンがある。被害者の手記を読んで、竹内さんに響くものがあったのだろうと思わせる、迫真の演技だった。

「手記からも、役づくりのヒントを得たみたいです。性犯罪の被害者は、家族や友達ですら、腫れ物に触るように接しているように感じられるといいます。それゆえ、家族に対しても何も打ち明けられなくなる自分がいる。そうした複雑な感情を、体全体で表現していました。この作品で彼女の“力強さ”みたいなものは引き出せたかなと思います」

 ただ、すべての撮影が順調だったわけではない。前述のように、佐藤監督と竹内さんは、ときにぶつかり合うこともあった。

 佐藤監督が最も印象的だったと語るのは、連続ドラマの終盤。姫川が実家で親ともめてビジネスホテルに帰るシーンだという。

 そのホテルの前で、姫川に思いを寄せる刑事・菊田和男(西島秀俊)は『大丈夫ですか』と声をかける。台本では、親とのもめ事や過去の傷についてずっと我慢していたものがあふれ、姫川が菊田の胸に抱きついて泣くことになっていた。しかし、竹内さんは、「私、何か泣けない」と言い出したという。

「結子さんは『部下の菊田の前ではちゃんとしなきゃ、ちゃんとしなきゃと思ってずっとやってきました。弱い所を見せたくない』と言うんです。だけど、ここで泣けなきゃ、その後、ホテルの部屋で1人になって、荷物を投げ出して怒りをぶつけるというストーリーが成り立たなくなってしまう。私も頑としてはねつけました」

 それでも、竹内さんは「どうしても泣けない」と直訴したという。

「しょうがないから目薬をしてもらって、泣いてもらいました。それ以外の姫川が泣くシーンは全て、結子さんが本当に泣いています。それくらい役に入っているんです。演技ではあっても、本当の感情が表情に出てくる瞬間というのがある。私たちもそれを待ちながら撮影していました」

 映画では、唯一のラブシーンもあった。相手役は背中一面に刺青のある極道役の俳優・大沢たかおだった。生真面目を絵に描いたような姫川がそのような男に惹かれ、体を許すシーンには観客もドギマギさせられた。撮影の様子はどんな感じだったのか。



「車の中で大沢さんがリードする形でしたが、テイク1かテイク2で終わったと思います。基本的には2人に任せていました。大沢さんはすごく紳士的な方なので、結子さんも大沢さんを信頼していたんだと思います。車の中に雨が降ってくる設定だったので、車の屋根を溶接で全部切り取りました。ここでは、姫川のどうしようもないトラウマを表現したかったんです。車の中で雨にぬれながら、姫川の息が荒くなっていく。抱かれながら、溺れていくというような感じのシーンにしました」

 映画公開の後は、「姫川班」のメンバーで打ち上げを行ったという。「姫川班」の刑事役を演じた俳優、西島秀俊、小出恵介、丸山隆平、宇梶剛士らと一緒に酒を酌み交わした。

「姫川班のメンバーは夕方ぐらいから明け方まで飲んでいて、みんなベロベロでした(笑)。結子さんも酒が強い方だから、一緒に飲んでました。その後、オールナイトニッポンで竹内さんが1日だけメインMCを務めた時に『姫川班でまた絶対、一緒にドラマをやろうね』と言っていたんですが、それもかなわぬ夢となりました」

 竹内さんの死後、原作者の誉田氏は「結子さんの玲子は私のミューズでした」とツイッターに投稿した。

「誉田先生もやっぱりショックだったと思うし、姫川シリーズは現在も続いていて、結子さんに触発されて書き続けていらっしゃる部分もあると思います。結子さんはそのくらい姫川チームを大事にしてくれました」

 インタビュー中、佐藤監督は何度も「幸せな時間だった」と繰り返した。

「結子さんと挑戦した作品は、私にとって大切な思い出で、すごく幸せな時間でした。結子さんという素敵な人に出会えて、いい仕事をさせてもらって、感謝しかありません。みなさんにも、女優としての結子さんの姿を、いつまでも忘れないでいてもらいたいです」 (構成=AERA dot.編集部・上田耕司)