朝ドラの「おかえりモネ」が終盤を迎えている。特に、ヒロインの相手役・菅波先生から目が離せない。そのヤキモキするほどの不器用さがハマりポイントだ。AERA2021年10月4日号の記事を紹介する。

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 毎朝ニヤニヤしています。

 東京都中野区在住の40代の女性がこの数カ月ドハマりしているのが、連続テレビ小説「おかえりモネ」で坂口健太郎さん演じる「菅波先生」。このドラマは、宮城・気仙沼で生まれ育ったヒロイン百音(清原果耶さん)が、震災での苦悩を抱えながら、気象予報士を目指し成長していく物語。菅波先生は、百音が働いていた宮城県の森林組合併設の診療所に東京から通う医師で、ドライで無愛想、「ザ・理系男子」という役柄。百音が気象予報士の試験に合格し働き始める東京編では、百音の下宿先の銭湯が菅波先生の勤務先の近くで運命的な再会を果たす。そして、周囲がヤキモキするほどゆっくり進展してきた2人の距離が一気に縮まる。

 冒頭の女性は、坂口さんが出演していた連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(2016年)も見ていたが、その時は関心がなかった。それが今回はドハマり。

「菅波先生が百音の気象予報士の勉強を手伝うあたりから目が離せなくなり、素敵!と。冷たい感じなんだけど、百音を思いやるところ、押しつけがましくなく、ぐいぐいいかないところがいい。菅波先生が百音を抱擁する『恋(コイ)ンランドリー』の週は最高に胸キュンでした」

■トレンドトップ3独占

 9月20日放送の第91話では、菅波先生が百音についにプロポーズ。ドハマり中の女性は、「朝7時半からのBSと8時からの地上波の“1日最低2回コース”は最終回まで続きそう」。

 菅波先生の一挙手一投足から目が離せない人が多い。象徴的なキーワードが「#俺たちの菅波」だ。定期的にツイッターのトレンド入り。百音と菅波先生の気持ちが通じ合う第80話(前出の「恋ンランドリー」)では放送終了後の午前8時19分、「#おかえりモネ」「#俺たちの菅波」「#菅波先生」が、国内トレンドトップ3を独占した。

「さすが『きのう何食べた?』を手掛けた脚本家、安達奈緒子さんの作品だな、と思いました」

 と話すのは、ラジオドラマの脚本も手がけるライターの源祥子さん。日常を描くのがうまく、百音や菅波先生の心の変化が伝わってくるという。

「今回の『モネ』は視聴率自体は比較していいとは言えませんが、アンチの意見はSNS上であまり見当たりませんでした。ハッシュタグもいくつか立っており、菅波先生と百音の2人を応援したいというファンがたくさんついているのでは」

■愛おしくて見守りたい

 朝ドラに関する著書があるライターの田幸和歌子さんが印象深かったのが、菅波先生が百音へ19歳の誕生日プレゼントを渡す第24話。百音が口にした「9月生まれ」「満月だった」「台風の日」というヒントから「1995年9月17日」と誕生日を割り出し、気象予報士の勉強に悪戦苦闘する百音に役立つだろうと中学の理科の教科書を贈る。

「誕生日なんて本人に聞けばわかるのに自分で調べ、しかも理科の教科書! 普通に考えると若干のキモさがありますが、恋愛に対する奥手さ、真面目さ、不器用さが表れていますよね」

「#俺たちの菅波」の「俺たちの〜」はネット用語の一種で、性別とは関係ない。田幸さんが分析したところ、発信者には、何かしらの分野にオタク的要素を持つ女性たちが多いという。

「彼女たちは、誕生日を調べてしまったり、教科書をプレゼントに選んでしまったりする不器用な菅波先生に『わかる、わかる』と共感しているように思います。また同時に、菅波先生の奥手具合や真面目さが愛おしく、ハラハラしたりじれったく感じたりしながら見守りたくなる気持ちもあるのでしょう」

 田幸さんによれば、朝ドラのヒロインの相手役は、「奥手、不器用」が最近の傾向。「なつぞら」(19年)の坂場(中川大志さん)しかり、「スカーレット」(19〜20年)で女性を中心に「#八郎沼」が盛り上がった八郎(松下洸平さん)しかり。

■どうしたの砲食らった

 菅波先生も百音に対し常に敬語。初の“脱敬語”となった「どうしたの?」は、そのたった一言だけで、ツイッターでは「どうしたの砲」という言葉まで飛び出し、「どうしたの砲で椅子から滑り落ちた」「どうしたの砲食らって朝から仕事にならない」など大騒ぎとなった。

 ただ、「モネ」は、ヒロインも恋愛に対して奥手で不器用。「なつぞら」や「スカーレット」は、ヒロインは情熱的で2人の関係が進展しやすかった。

「『モネ』のように、ヒロイン、相手役ともに奥手で不器用な似た者同士のカップルはこれまでなかった。『#菅モネ』というキーワードもあり、カップリングで2人を愛でる、アニメオタクなどでは定番の『カップル推し』も目立ちます」(田幸さん)

 ドラマウォッチャーで芸能ライターの山下真夏さんが着目したのも「奥手で不器用な2人」。なんでもスマホでやり取りできる時代なのに、「今度、東京で会いましょう」とはならない。「また東京でばったり」と言う百音に対し、菅波先生は「(東京は)人口1300万人ですよ。会いたい人にそう簡単にばったり会えるような、なまぬるい世界ではありません」と返すが、コインランドリーでばったり! しかし、テーブルで突っ伏して寝ている百音に、菅波先生は気づかない。「1300万分の2の奇跡」が起こるのは、その後だ。

「特に中高年にとっては男女問わず、自分たちの青春時代の恋愛もこうだったな、こういうすれ違いがあったな、と菅波先生と百音のやり取りから思い出しているのではないでしょうか」

■男性も「肩を組みたい」

 山下さんも、前出の田幸さん同様、「#俺たちの菅波」で発信している人は女性が大半という認識。一方で、積極的な発信はしないものの、男性の「菅波先生ファン」はかなりいると、周囲の声からも感じている。

「恋愛に奥手な男性も、自分を重ねやすいのかもしれません」

 幅広いテーマで執筆するライターの吉田潮さんによると、

「男性が惹かれる男性像は、不器用、無愛想、世の中をうまく渡れない男。まさに菅波先生。『俺について来い!』『俺に任せておけ!』という、いわゆるマッチョ系を嫌だと感じる男性は、女性以上にいます。それとは真逆の菅波先生が、男性に受けるのは容易に理解できます」

「医者」「ルックスがいい」という要素から連想するところをことごとく裏切る菅波先生の独特な言動も、男性の「いい奴じゃん」「肩を組みたくなる」につながっていると、吉田さん。

 10月29日の最終回まで、残すところ約1カ月。「#俺たちの菅波」は熱さを増している。(ライター・羽根田真智)

※AERA 2021年10月4日号