11月8日、第34回東京国際映画祭が10日間の幕を閉じた。グランプリは男性優位の環境に抵抗する女性を描いた映画「ヴェラは海の夢を見る」が獲得した。コソボ共和国出身のカルトリナ・クラスニチ監督は「喜びのあまりに大声を出して、泣いてしまいました」とビデオメッセージで喜びを表した。一般客の投票で選ばれる観客賞は、日本の「ちょっと思い出しただけ」(松居大悟監督)が受賞した。

 コンペティションの審査委員長を務めたフランスの女優イザベル・ユペールは「多様性に取り組んだ野心的な映画祭だった。厳しいコロナ禍で開催できたことは素晴らしいこと」と映画祭を締めくくった。

 今回多くの舞台あいさつやトークショーが行われたが、なかでも、今年は仮面ライダー生誕50周年ということで数々の関連イベントが開催された。初代ライダー役の藤岡弘、ら“昭和ライダー”たちのトークショーをはじめ、2010年から11年にかけて放送された「仮面ライダーオーズ/OOO」に出演した俳優の渡部秀、三浦涼介、高田里穂、君嶋麻耶たちが再結集して登場したトークショーでは、新作映画が来春公開されることが発表された。高田里穂は「(再会して撮影した)どのシーンも胸熱でした」と興奮気味に話した。 

 また昨年に続き行われた、日本とアジアの俳優、監督たちが交流するトークイベント「アジア交流ラウンジ」も盛り上がっていた。フェスティバル・アンバサダーを務めた橋本愛とバフマン・ゴバディ監督との対談では、監督から「私の映画に出演しませんか、1年間こちらに来てみませんか」と公開オファーを受けて、橋本は「機会があれば」と苦笑いしながら答えていた。また、橋本が自らの映画観、社会観、人生観などを語り、「東京で生きることが辛くなってしまって、ものすごく早い時間の中で生きていることに違和感を感じてながら生きてきた(こともあった)」と本音も明かした。また、「今、越境というか、全く違う文化や国の中で(それぞれの人が)生きていて、その中でも何かでつながっていることが、豊かであり、尊いものなのだなと心の中でかみしめています」と多様性の大切さについても語った。別の回では、細田守監督とポン・ジュノ監督の大物対談などもあり、映画好きにはたまらないイベントが連日開催された。

 今回の映画祭は“改革元年”としても位置付けられていた。これまで東京国際映画祭は「開催地の東京が目立っていない」「スターが来ない、名ばかり国際映画祭」「アジアの国際映画祭でも釜山などに圧倒されている」など厳しい批判も少なくなかった。そこで、2019年の第32回から安藤裕康チェアマン、2020年の第33回から市山尚三ディレクターが加わり、作品選考の見直しや映画祭のイベントの改革に着手した。とりわけ大きかったのが、開催場所の移転だ。

 1985年に渋谷で第1回が開催された東京国際映画祭は「Bunkamuraを中心に渋谷の各映画館で作品が上映され、映画祭という雰囲気が町全体から出ていた」(長年取材する外国メディア記者)という。一方で、2004年から昨年まで開催されていた六本木では、国際映画祭としての雰囲気が伝わりにくいと、関係者から苦言も多かった。基本的にメーン会場である六本木ヒルズでほぼ完結してしまい、看板やポスターも目立たない。それゆえ、六本木ヒルズを行き来する人ですら映画祭の開催にあまり気づかない。「国際」とは名ばかりの、映画好きだけの“知る人ぞ知る”映画祭になっていた。

■JR有楽町駅前に特設エリア

 しかし今回、日比谷・有楽町・銀座エリアへの移転を機に「映画祭の雰囲気作り」に注力した。

 JR有楽町駅前には、特設チケット売り場、上映作品ポスターをまとめた看板、イベント上映ブース(座席数は少なかったが)を設置。安藤チェアマンは「人通りの多い場所に設置したことで、映画祭の存在を知らない人にも気づいてもらえるように」と認知度向上を狙った。日比谷ミッドタウンの下の広場で連日行われた屋外上映会と合わせて、街として映画祭を盛り上げようとする機運があった。

 11月5日に特設チケット売り場にいた千葉在住の女性はこう話した。

「東京国際映画祭の存在自体は以前から知っていたのですが、今日、用事のために銀座に来て、『映画祭、今やっているんだ』と気づきました。(このような雰囲気は)良いですね。見てすぐわかります」

 ただ、「週末の上映分チケットを買ってみようと思ったら、興味を持った作品はどれも売り切れでした。もう少し早く知っておけば良かった」と残念がってもいた。

 この女性が話すように、せっかく映画祭の上映作品を見たくても見られなかったという人は多かったかもしれない。平日の日中は上映直前でもチケットが残っていたが、平日夜や週末はやはり売り切れになっている上映が目立った。それも、好評でチケットが売り切れたというよりは、そもそも販売チケット数や上映回数が十分ではなかったことが原因のように感じる。

 今回の上映映画館は、TOHOシネマズシャンテ、有楽町よみうりホール、ヒューマントラストシネマ有楽町、角川シネマ有楽町とあり、昨年までのTOHOシネマズ六本木ヒルズよりも数が増えた。ただ、いずれもスクリーン数が限られているので、席数は六本木よりも減ってしまった。改革の一環として昨年から同時期開催になった、アジアの作品を中心にした国際映画祭「第22回東京フィルメックス」が、同じ有楽町の映画館を使用していることも影響したと思われる。せっかく認知度が高まっても映画鑑賞というタッチポイントが減ってしまっては、映画祭のファン作りという点でも、もったいない。

 安藤チェアマンも「今回の映画祭で使わなかった映画館がまだいくつかある。増やしていくのは今後の課題」と話す。

 屋外上映会を行った日比谷ミッドタウンでは、6階屋外スペースで橋本愛、是枝裕和監督、西島秀俊らや、ポン・ジュノ監督など世界的監督たちが参加するトークショーが連日開かれていた。しかし、その下の4階にあるこのエリア最大の映画館・TOHOシネマズ日比谷では、国際映画祭の作品の一般上映が全く無かったのは残念な感じがした。

 上映している映画館にしても、入り口にいっても特別な装飾などはなく、ただ上映しているだけ。海外の大規模国際映画祭では、開催映画館自体が建物内外で映画祭に参加していることをアピールしているので、一目でわかることが多い。鑑賞に訪れた人たちが映画祭に参加していると思えるような雰囲気作りがあっても良かったかもしれない。これも来年以降の課題の一つだろう。

 ただ、今回は本格的な改革に取り組み始めた初年であり、決して潤沢ではない予算の中での開催。「問題点がまだまだあるのは承知の上。全てが一気には解決はできない。一つずつ解決していきたい」(安藤チェアマン)

 今回の東京国際映画祭は、少なくとも、現地の人に知ってもらう、参加してもらう、という点では昨年以上に可能性は感じた。支持する人が増えていけば、大型スポンサーがつき、予算が増え、改革費用も潤沢になる、という好循環につながっていくだろう。(大塚淳史)