ベテラン俳優として、長く活躍する加賀まりこさんが作家・林真理子さんとの対談に登場。若いころの思い出からファンだったあの文豪の話まで、マリコさんが迫ります。

【ギャラは半分以下 加賀まりこが“地味な作品”に出演する理由】より続く

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林:加賀さんは「麻雀放浪記」(1984年)にお出になってましたね。和田誠さんの監督第1作の。

加賀:そうです。和田さんはその前に私の叔父の、信田(富夫)さんが社長をやってた会社に勤めてらして……。

林:えっ! ほんとですか。ライトパブリシティ(広告制作会社)ですね。

加賀:私が学校の帰りにときどき信田さんのところに行って、「ねえ叔父さん、なんかバイトできない?」とか言うと、「じゃ、屋上で写真撮ろう。おい、篠山!」って。そのとき篠山(紀信)さんは早崎(治・写真家)さんについてたのね。それで写真撮ってもらって、それがどこかのチラシか何かになって、3千円ぐらいもらって帰ってきたり。

林:へぇ〜、すごい話。そんなことがあったんですか。

加賀:まだ素人のころね。私はニッコリ笑うのが下手で、秋山(庄太郎)先生が週刊誌の表紙で素人のお嬢さんを撮ってて、そのときも「ほんとにキミは笑えない子だね。でも、にらみつけてるその顔がいい」って。媚びることがイヤだったのね。媚びてると思われるのもイヤだし。

林:前にここに出ていただいたとき(2007年)も昔のことをお聞きしましたけど、加賀さんは「過去のことには興味ないのよ」ってどこかでおっしゃってますね。

加賀:うん、そうね。一分一秒過去のことだから興味ない。

林:でも、文豪と言われる川端康成や三島由紀夫からあんなに愛されたということは、今や“史実”として皆さんが聞きたいところだと思いますよ。

加賀:そう? 名前言ってもわかんない人がいるんじゃないかな(笑)。川端先生は単なる私のファンだったってことよね。私が「雪国」で葉子の役をやったころから撮影所によくいらして、じーっと私だけ見てるの。床に座って見るような新宿の芝居小屋に、私が出てると来てくださって、あの方、肉がないから、私、車から自分のクッション持ってきて「これを敷いてください」みたいなこともあって。手数がかかりますよね、ああいうファンの人は(笑)。

林:ファンの中の一人、という感じなんですね。

加賀:そう。「あの子は僕のことをふつうに扱う。それがいい」と言ってたって岸惠子さんから聞きました。べつに意図してないんだけど、それがよかったんですね。

林:加賀さんって、どんなにお金がある人も、どんな有名人も、「男その一」って感じで扱ってらしたみたいですね。なかにし礼さんが「あのころ六本木とかあのへんで遊んでた男は、加賀まりこに受け入れられるか嫌われるか、それで男の価値が決まったんだ」とおっしゃってました。

加賀:アハハハ、大仰なことを言ってる。

林:私、加賀さんの男の人の好みってわかんない。見た目もそんなに関係ないんでしょう?

加賀:見た目で評価っていうのは、一つもない。心意気よね。

林:心意気か……。女優さんで仲のいい方いらっしゃるんですか。

加賀:いますけど、みんな“おじさん”的な人です。天海祐希とか(笑)。内田有紀、石川さゆり、浅丘ルリ子……。みんな“おじさん”ですね。

林:天海さんと仲いいって、すごくわかります。

加賀:そうでしょ。あの子も東京の下町だし。上野の子なの。

林:加賀さん、今後のご予定があったら教えていただけませんか。

加賀:ないです、いまのところ。オファーはありますけど、台本を読んだだけで想像がつく作品ってあるでしょ。想像してあんまり楽しい作品になりそうにないな、と思うとちょっとね。働けばいいってもんでもないんでね、この年になると。

林:意気に感じるような作品があったら?

加賀:そうね。身を粉にしてもいいような作品があったらね。

林:舞台はいかがですか。

加賀:自分の矜持として、舞台で自分の納得がいく歩きがきちっとできないんだったらやらない。

林:加賀さんと同じような年ごろで、第一線にいらした女優さんたちが、ホームドラマでふつうのおばあさんの役をやられたりしますけど、私、この方のキャリアだったら、ドラマでふつうのおばあさんの役をやらなくてもいいのに、と思うんです。

加賀:日本のものをつくる社会って、おばあさんに冷たいですよ。70代後半でもイキイキきれいな人が多いのに、そういうことをテーマにはつくらないじゃない? 「誰々のおばあちゃん」でしょ。年とった女性に対する考え方が画一的すぎよね。みんなこんなに元気なのに。

林:私もほんとにそう思います。加賀さんも、家族の脇役のおばあさんは、もしオファーが来てもやめていただきたいと思います。

加賀:でも、わかんないわよ。今度のこの映画が遺作かもしれないし(笑)。

林:何をおっしゃいます!

(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)

加賀まりこ(かが・まりこ)/1943年、東京都出身。「涙を、獅子のたて髪に」(62年)で映画デビュー。「泥の河」「陽炎座」(ともに81年)でキネマ旬報助演女優賞受賞。「麻雀放浪記」(84年)など映画を中心に活躍するほか、劇団四季の「オンディーヌ」にも出演。映画、舞台、ドラマなどで幅広く活躍。近年の映画出演作に「スープ・オペラ」(2010年)、「神様のカルテ」(11年)など。自閉症の息子を持つ占師を演じる、54年ぶりの主演映画「梅切らぬバカ」の公開が今月12日に控える。

※週刊朝日  2021年11月19日号より抜粋